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#29 懐中電灯が照らした父の横顔。

父はたまに、友人と夜釣りに出かけることがあった。
夜な夜な竿やクーラーボックス、タックルボックスを持って出かける彼に、私は何度も「連れて行って」とせがんだ。
中学生になる前は「中学生になったら」とはぐらかされ、いざ中学生になると「危ないから」と頑なに連れて行ってはくれなかった。

夏休みのある日、父から「夜の防波堤にカニを獲りに行くか?」と思いがけず誘われた。
私は「行く行く!」と二つ返事で答え、連れて行ってもらうことになった。

夜の防波堤─。

等間隔に並んだ外灯の明かりが、ぼんやりと足元を照らしている。
私は懐中電灯とバケツ、父は懐中電灯と玉網を手にした。

中学生の私にとって、父を独り占めしているという優越感は、夜の防波堤をまるで遊園地にいるかのような高揚感に包み込んだ。

狙うのは、夏の間だけ夜の防波堤に寄ってくる小ぶりのワタリガニだ。

私が壁際に懐中電灯を当てて覗き込み、「お父さん、カニがおるよ」と声をかける。
すかさず彼が「どれどれ」と寄ってきて、玉網をそーっと差し出す。

「あー、逃げられた」

そう言いながら、また壁際を照らして横へと移動していく。
「足元、気をつけろよ」と心配そうに言う彼のほうを振り向いて「わかってる」と返したが、彼はすでに私に背を向けていた。
夢中になって反対側の壁際を照らしている、少年の姿のような彼を見て、少しおかしくなった。
ほぼ無言の暗闇の中、2時間ほどでなんとか数匹を確保できた。
帰宅して、自慢げにバケツの中身を見せると、「たくさん獲れたねぇ」と母も喜んでくれた。
父は、普段は見せないような顔で、私よりも満足そうに笑っていた。

思い返せば、こういう父のことも好きだった。

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