雷が去ったら 「ペインズグレイ」〜ひと色展に寄せて〜
いつもより早く宵闇が迫って来たかと思ったら、遠くで小さく雷鳴が聞こえた気がした。
「あぁ、これはいかん。嵐の匂いがする。」
帰り道にたまに立ち寄るキッチンカーの小窓から、洒落たベレー帽のおじさんが空を睨む。
その言葉に私は受け取ったばかりの濃いめのダージリンティーを両手に握り、帰路に着く決意をする。
「あぁ、これを持っていきなよ。残りもんで悪いがな。気に入ってくれてたろ。」
差し出されたのは、拳より大きなブルーベリーマフィン。
具が多すぎて青がかったり紫がかってたりするけど、絶品だ。
「ありがとう。」私は口数少なく礼を言う。
「本降りにならないうちに、行きな。あったかくしてな。こんな夜に考えることは、ろくな結論にならないから、寝ちまうことだ。」
街灯に照らされた薄曇りの中を逃げるように、家のドアを閉める。
途端に近くに雷鳴が響き、何もない部屋を浮かび上がらせた。
叩きつけるような雨音を聞きながら、端に残った小さなテーブルにつく。
なんで、おじさんはサヨナラってわかっていたようなことを…
雷が、私の影を濃くうつす。
置いていくと決めた、彼との時間が染み込んだ椅子に浅く座り、ガランとしたモノクロの部屋を見回す。
あの時間は、確かにカラフルだったのに。
いつからだろう。お互いの影だけ見送りだしたのは。
また、雷。
やめよう、考えるなって言ってた。
彼は黙って出て行ったけど。
閉じた瞼が光を浴びる。
次へ向かうと決めたんだ。
この部屋に別れを告げて。思い出をしまって。
明日の朝、陽がのぼったら、マフィンを食べて出発しよう。

まんなかの決意の色
以前も参加させていただいた、ひと色展への新たなコラボ作品を書いてみました。
よろしくお願い致します。
