現役時代×退職後 第17回■今から考える退職後の活動
直接の指導教員ではないものの、学生時代から長くお世話になっており、私にとって常に尊敬の対象であった先生からいただいた年賀状に、こんな言葉が記されていた。
「大学での仕事も終わりに近づき、自分の生き方について考える日々です。何か世のため人のためになるようなことを考えても、長年やってきた仕事を離れると、できることが極めて限られている自分を思い知らされます。」
この言葉に、私は深く考えさせられた。幅広く活躍し、多くの実績を残してこられた先生ですら、退職後の活動に限界を感じておられるのか—自分自身の将来についても改めて考える機会となった。50歳代の今、土木計画学・インフラ政策を専門とする一大学教員として、研究や教育に加え、社会貢献活動を行う日々を送っている。目の前の業務に集中し、退職後の自分を想像することは少ないが、恩師の言葉は、退職後に何ができるのかという問いを投げかけている。退職後も社会に貢献するためには、今からの準備が必要ではないか—そんな思いが頭を過る。以下は、私なりの、まだ答えの出ていない模索の一端である。

現役時代に築くべき土台
1.専門知識の体系化と伝承
土木計画学やインフラ政策という専門分野で蓄積した知識と経験は、振り返れば社会的価値があるかもしれない。特に政策判断プロセスや合意形成方法論など、専門家の経験から生まれる知見を共有し形にしていくことは、次世代の財産となりうるかもしれない。日々の実践から得られる気づきを整理し共有することは、専門分野の発展に寄与できるだろう。
2.人的ネットワークの構築と維持
現在、大学内外の研究者や、国や自治体の行政担当者、民間企業の方々など様々な方々との関わりの中で仕事をしている。こうした人的つながりは、委員会等での活動を通じて実感している。互いに学び合い、社会課題の解決に向けて協力し合う関係性は、退職後も継続的に社会に関わる基盤となるだろう。単なる肩書きや立場を超えた真の信頼関係を大切にすることで、ともに社会課題に取り組む仲間として長く関わり続けることができるのではないかと考えている。

3.社会的課題への感度を高める
より広い社会的課題に対する感度を意識的に高めておくことが大切だと感じている。高齢社会における交通、持続可能な地域づくり、インフラの維持管理など、土木計画学やインフラ政策が貢献できる社会課題は数多くある。これらの課題は、時代の変化とともに表面的な現れ方は変わっても、根本にある構造的な問題は継続していることが多い。長期的・俯瞰的な視点から考える姿勢を持つことで、社会の持続的な発展に貢献し続ける可能性が広がるのではないだろうか。
退職後を見据えた心構え
1.自分の強みと専門性を見つめ直す
退職後は、組織の一員としてではなく、一個人として社会と関わることになる。そのとき、自分の専門性や強みは何なのか。土木計画学やインフラ政策の専門知識だけでなく、これまでの活動で培ってきた様々な経験も含めて、自分自身の特性を改めて見つめ直すことが重要だろう。現在の活動においても、単に既存の専門知識を提供するだけでなく、どのような視点や価値観で物事を判断しているのか、自分自身の思考プロセスを振り返る習慣を持つことが、社会への継続的な貢献につながると考える。また、年齢を重ねるにつれて変化する体力と向き合いながら、自分の強みを活かせる形を模索することも必要だろう。心身の健康はあらゆる活動の基盤となる。
2.謙虚さと学び続ける姿勢
若い研究者や学生たちと接していると、知識や技術の多様化、専門分野の細分化が急速に進んでいることを実感する。特に土木計画学やインフラ政策の分野は社会情勢の変化に大きく影響されるため、常に新しい視点や方法論に対する理解を深めることが必要だと感じている。自分の専門性を深めつつも、分野を横断する視点や異なる専門家との対話を大切にする姿勢は、退職後も知的好奇心を保ち続けるために重要なのではないだろうか。

3.「やりたいこと」「できること」「求められていること」の三位一体
恩師が指摘したように、退職後は「できること」に変化を感じることだろう。大学という場を離れると、学生との日常的な交流や研究環境など、これまで当たり前だったものが変わる面もある。しかし一方で、これまでとは異なる形で社会と関わる自由も生まれる。
私が特に重要だと考えるのは、「やりたいこと」「できること」「世のため人のためになること(社会から求められていること)」のバランスである。理想的には、この三つが重なり合う領域を見つけることだろう。そのためには、現在の活動の中で、自分が本当に情熱を感じる部分はどこか、自分の強みや独自性は何か、そして社会のニーズはどこにあるのかを意識的に見つめることが大切ではないだろうか。

例えば、研究や教育の中で特に充実感を覚える瞬間、学識経験者として関わる中で特に貢献できたと感じる場面、そして社会からの反応や評価が高かった活動—これらを整理することで、退職後も三位一体の活動を続けるための指針が見えてくるかもしれない。また、この三位一体を実現するためには、無理のない範囲で継続できる活動を選択することが肝要だろう。
おわりに
退職後の人生は、まだ遠い先のことで、具体的なイメージを描くのは難しい。目の前の研究や講義、委員会活動に取り組む中で、将来を想像することは容易ではない。しかし、恩師の言葉をきっかけに立ち止まると、現在の活動の延長線上に退職後の姿があることに気づかされる。
印象的だったのは、多方面で活躍してきた恩師ですら、退職後の「できることの限界」に直面しておられるという事実だ。自分が退職後にどれほどのことができるか考えると、今からの準備の重要性を強く実感する。
研究者、教育者、社会の一員として日々試行錯誤する過程こそが、退職後の活動につながる種なのかもしれない。土木計画学やインフラ政策の知見を体系化すること、様々な立場の人々との関係を大切にすること、社会課題に対する感度を磨くこと—これらは、現在の仕事の質を高めることであり、同時に将来への準備でもあるだろう。
「自分が本当にやりたいこと」「自分が本当にできること」「社会から求められていること」の重なりを意識的に探し、その交点を広げておくことが重要だと感じる。これは単なる趣味でもなく、単なる奉仕でもなく、自分の存在意義を感じられる活動の領域を見つける作業なのだろう。
恩師からの言葉に感謝しつつ、土木計画学・インフラ政策の一研究者として、長期的な視点で現在と将来を見つめ直したい。そして「やりたいこと」「できること」「求められていること」が調和した、自分らしい社会貢献の形を模索し続けたいと思う。

2025.5.21 執筆 AIOWL
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