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父の還暦祝いで、草津と軽井沢へ|35年前の教会に「おかえりなさい」と迎えられた三日間



はじめに

父の還暦祝いを兼ねて、両親と草津・軽井沢へ行ってきた。

今回の旅行は、金曜日から日曜日までの二泊三日。

妻の妊娠が分かる前から予定していた旅行だったが、その後、妻の体調を考えて人数を変更することになった。

妻は自宅で過ごし、代わりにシナモンを連れていった。

もちろん、本当の意味で妻の代わりになるわけではない。

それでも、記念写真や食事の席にシナモンがいると、妻も少しだけ一緒に旅行をしているような気持ちになった。

温泉、自然、料理。

振り返れば、どれもよかった。

けれど、三日間の中で一番心に残ったのは、35年前に両親が結婚式を挙げた場所で聞いた、

「おかえりなさい」

という言葉だった。


一日目|空港から、そのまま草津へ

金曜日。

両親を空港まで迎えに行き、そのまま車で草津へ向かった。

この日の宿は、「お宿 木の葉」。

宿に着いてからは、温泉に入り、夕食を食べた。

夕食は、刺身や鍋料理などを少しずつ楽しめる内容だった。

空港から草津までの移動もあり、食事の席に着いた頃になって、ようやく旅行が始まったような気がした。

父と母と同じ食卓を囲みながら、料理を食べる。

それだけでも、普段とは少し違う時間だった。

料理を楽しんだあとは、もう一度温泉へ入った。

私はこれまでにも、草津を三、四回ほど訪れている。

もともと温泉は好きだったが、草津を特別に感じるようになった出来事がある。

以前、スノーボードをしたあとに草津へ来たとき、全身が筋肉痛だった。

ところが、草津の湯につかって一晩休むと、翌朝には驚くほど体が軽くなっていた。

温泉の効果を断定できるものではないが、少なくとも私自身は、草津の湯が体に合っているように感じている。

夕食と温泉を楽しんだあとは、湯畑まで歩いた。

夜の湯畑は、昼とは少し違う。

灯りに照らされた湯けむりと、静かに流れる温泉。

父と母と一緒に、しばらく周辺を歩いた。

特別な話をしていたわけではない。

それでも、こうして三人で歩いた時間そのものを、あとで思い出すのだと思う。

翌朝は、宿で朝食を食べた。

焼き魚や小鉢、ご飯と味噌汁。

少しずついろいろなものを食べながら、二日目の予定を確認した。

旅行中の朝食には、これから一日が始まるという、小さな高揚感がある。


二日目|鬼押出し園で見つけた、小さな花瓶

土曜日は、鬼押出し園から始まった。

黒い溶岩の間から木々が伸び、その先には赤い橋や建物が見えた。

園内を歩きながら、自然の大きさを感じた。

荒々しい岩と、その隙間から育っていく緑。

人の手で整えられた庭園とは違う景色が広がっていた。

人が過ごす時間よりも、ずっと長い時間をかけてつくられた場所なのだと思う。

園内を歩いていると、陶器を販売している場所があった。

一輪挿しによさそうなものがあればと思い、中へ入ってみた。

そこで見つけたのが、小さな花瓶だった。

自宅のリビングに置いても、主張しすぎず、今の部屋の雰囲気に合いそうだった。

少し迷ったが、買って帰ることにした。

旅先で買ったものは、帰宅して生活の中に置いたとき、旅の続きを見せてくれる。

この花瓶も、あとでその一つになった。


白糸の滝で、流れる水を眺める

鬼押出し園のあとは、白糸の滝へ向かった。

岩肌から、細い水が幾重にも流れ落ちていた。

大きな音を立てて落ちる滝とは違い、名前のとおり、白い糸が並んでいるような景色だった。

父と母は、それぞれ写真を撮りながら、ゆっくり滝を眺めていた。

旅行では、有名な場所をたくさん回ることが目的になりやすい。

けれど、今回残したかったのは、父と母が二人で楽しんでいる姿だった。

二人が並んでいる写真を見ると、ここへ来た目的をあらためて思い出す。


旧軽井沢で、そばとジェラート

白糸の滝を見たあとは、旧軽井沢へ向かった。

昼には、そばと天ぷらを食べた。

歩いたあとの冷たいそばは食べやすく、温かい天ぷらとの組み合わせもよかった。

食後には、ジェラートも食べた。

旅行中は、予定表には書いていない、小さな寄り道が増える。

けれど、あとで写真を見返したときに思い出すのは、案外こういう時間なのだと思う。


ル・モンヴェールへ

二日目に泊まったのは、ル・モンヴェール。

予約をする前から、Instagramで宿の様子を見ていた。

実際に訪れてみると、本や植物、レコードが置かれた、静かで落ち着く空間だった。

予約をした際、ご主人には、父の還暦祝いで伺いたいことを伝えていた。

すると、

「素敵ですね。ケーキでも用意しましょうか」

と提案してくれた。

その後、妻の妊娠が分かり、人数を変更するために連絡したときも、まず妻の体調を気遣ってくれた。

そして、

「今度は奥様とお子さんと来てくださいね」

と言ってくれた。

予約の電話で話したときから、気さくな方だと感じていた。

実際に訪れてみても、ご主人と二代目のご主人が自然に声をかけてくれた。

建物や料理だけではなく、人の温かさが残る宿だった。

今回は一緒に来られなかった妻の代わりに、シナモンにも席に座ってもらった。

少し不思議な光景ではあるが、父と母も自然に受け入れてくれた。

夕食は、最初のサラダから最後のデザートまで、どの料理もおいしかった。

中でも、特に印象に残ったのがミネストローネだった。

具材の味が溶け込んだ、やさしくて深い味だった。

派手な料理ではないが、食べ終わったあとにも味を思い出すような一皿だった。

肉料理やデザートをいただいたあとには、父のために還暦祝いのケーキも用意してくださった。

ケーキには、

「祝 還暦!!」

と書かれていた。

予約の電話で、

「ケーキでも用意しましょうか」

と声をかけてもらったことが、そのまま目の前の形になっていた。

宿泊する場所を選んだつもりだったが、実際には、父の節目を一緒に祝ってくれる人たちのいる場所を選んでいたのかもしれない。

宿を選ぶとき、建物や料理は事前に調べられる。

けれど、最後に残るのは、そこで接してくれた人の言葉なのだと思う。

「今度は奥様とお子さんと来てくださいね」

その言葉が、また訪れたいと思う理由になった。


三日目|35年前の場所へ

日曜日。

この日の一番の目的は、軽井沢高原教会と石の教会だった。

以前、妻と軽井沢高原教会のキャンドルナイトへ行ったとき、母が、

「35年前に、ここで結婚式を挙げたんだよね」

と話していた。

その言葉を聞いてから、いつか父と母をここへ連れて来たいと思っていた。

ところが、実際に訪ねてみると、母の記憶違いだったことが分かった。

二人が結婚式を挙げたのは、軽井沢高原教会ではなく、石の教会だった。

この日は三組の結婚式が予定されていたため、石の教会は一般公開されていなかった。

外から少し見られれば、それだけでもよいと思っていた。

近くにいたスタッフの方へ事情を話すと、

「おかえりなさい。ぜひ見ていってください」

と言って、教会の中へ案内してくれた。

35年前に結婚式を挙げた場所へ帰ってきた二人を、「おかえりなさい」と迎えてくれた。

その言葉だけでも、ここへ連れて来てよかったと思った。

スタッフの方から、

「当時は馬車でしたか?ゴンドラでしたか?」

と聞かれると、母は、

「ゴンドラに乗りました」

と答えた。

会話をするうちに、35年前の記憶が少しずつ戻ってくるようだった。

そこへ、結婚式の準備のために来られた牧師さんとお会いした。

忙しい日だったはずなのに、礼拝堂の椅子に座りながら、30分ほど話をしてくださった。

最後には、父と母のために祈ってくれた。

教会の中では写真を撮っていない。

けれど、父と母が並んで椅子に座り、牧師さんの話を聞いていた光景は、写真がなくても覚えていられると思う。

少し見学ができれば、それで十分だと思っていた。

実際には、スタッフの方から当時の話を聞き、牧師さんと話し、最後には祈ってもらった。

予定していた以上の時間になった。

父と母のうれしそうな表情を見て、ここへ連れて来られて本当によかったと思った。

父の還暦祝いとして計画した旅行だったが、35年前の二人に会いに行く旅にもなった。


ハルニレテラスから、帰路へ

石の教会を訪れたあとは、ハルニレテラスで買い物をした。

旅行も、そろそろ終わりに近づいていた。

帰りには、峠の釜めしも食べた。

鶏肉、栗、うずらの卵、しいたけ、たけのこなどが、小さな釜の中にきれいに収まっていた。

蓋を開ける時間まで含めて、旅らしい食事だった。

観光地を離れ、少しずつ日常へ戻っていく。

旅行の帰り道に食べるものには、少しだけ寂しさも混じっている。


旅行の最後は、家の食卓で

日曜日の夜は、妻の両親にも自宅へ来てもらい、みんなでご飯を食べた。

巻き寿司、鶏肉、フライドポテト、サラダ、枝豆などを囲んだ。

旅先で食べた料理もよかったが、家に戻って家族で囲む食卓には、また別の安心感がある。

今回の旅行には、妻の体調を優先して、私と両親の三人で出かけた。

それでも最後に、妻と妻の両親も一緒に食卓を囲めたことで、父の還暦祝いを家族みんなで締めくくることができた。

妻は、自分が旅行へ行けない状況でも、父の還暦祝いを大切に考えてくれた。

そのことに、とても感謝している。

旅行から帰ったあとは、今度は私が、妻の生活と体調を支える番だと思っている。


鬼押出し園で買った花瓶

旅行から帰ったあと、鬼押出し園で買った花瓶を妻に渡した。

妻が、紫色の花と白い小花を生けてくれた。

売り場で見たときにもよいと思ったが、家の中に置いてみると、想像していた以上にリビングになじんだ。

私が旅先で選んだ小さな花瓶に、妻が花を生ける。

それだけで、旅先で買ったものが、私たちの生活の一部になった。

旅行は三日間で終わった。

けれど、食卓の上には、その続きを感じられるものが残った。


この旅で残しておきたいこと

今回の旅行では、草津の温泉に入り、鬼押出し園を歩き、白糸の滝を見た。

旧軽井沢で食事をして、温かな宿に泊まった。

それぞれに思い出はある。

けれど、一番残しておきたいのは、石の教会で聞いた、

「おかえりなさい」

という言葉だった。

35年ぶりに帰ってきた父と母を、スタッフの方が自然に迎えてくれた。

予定にはなかった牧師さんとの時間も含めて、誰かの気遣いによって、思い出は想像していた以上のものになった。

そして、この旅行へ行けたのは、妻が家で生活を支えてくれていたからでもある。


生活が先にある

相場は、月曜日になればまた開く。

仕事も、休みが終わればまた始まる。

けれど、父の還暦は一度しかない。

35年前に結婚式を挙げた場所へ、元気なうちに三人で戻れる機会も、いつでもつくれるものではない。

投資も仕事も大切だが、家族と過ごせる時間より上に置くものではないと思っている。

両親が元気なうちに、一緒に歩く。

妻が体調を崩しているときには、生活を支える。

家族で同じ食卓を囲める日は、その時間を大切にする。

そうした普通のことを守るために、仕事をし、相場とも向き合っている。

今回の旅行を通して、あらためてそう思った。


おわりに

父の還暦祝いで訪れた、草津と軽井沢。

温泉も、料理も、景色もよかった。

けれど、旅行を終えて一番思い出すのは、父と母が石の教会で昔の話をしていた姿だ。

35年前、二人が夫婦として歩き始めた場所。

そこへ今度は、息子と一緒に帰ってきた。

次にル・モンヴェールを訪れるときには、ご主人が言ってくれたように、妻と子どもも一緒に行けたらと思う。

そしていつか、今回の写真を見ながら、

「じいじの還暦祝いで、みんなでここへ行ったんだよ」

と話せたらうれしい。

旅行から帰った今、鬼押出し園で買った花瓶には、妻が生けてくれた花が咲いている。

遠くへ出かけた思い出が、最後には家の食卓へ戻ってきた。

やはり、幸せは一番身近なところにあるのだと思う。


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