“斗酒百篇” dǒu jiǔ bǎi piān 李白一斗 詩百篇
李白一斗诗百篇
lǐ bái yī dǒu shī bǎi piān 李白は一斗 詩百篇
长安市上酒家眠
cháng ān shì shàng jiǔ jiā mián 長安市上 酒家に眠る
天子呼来不上船
tiān zǐ hū lái bù shàng chuán 天子 呼び来たれども船に上らず
自称臣是酒中仙
zì chēng chén shì jiǔ zhōng xiān 自ら称す 臣は是れ酒中の仙と
杜甫が同時代の大酒飲み8人を仙人に見立てて歌った七言古詩《饮中八仙歌》(飲中八仙の歌)の李白の部分である。李白は一斗(6リットル弱)の酒を飲む間に百篇の詩を作る。
都長安の盛り場で酔って眠り込んでしまい,船遊びをしていた皇帝から呼び出されても足元がふらついて船に乗ることができず,それでいて自分は「酒中の仙」(酒の世界の仙人)であるなどとうそぶいている。
史書によると,側近が船中に担ぎ込み顔に水をかけてやったところ,筆をとってたちまち14篇の詩を作ったという。
李白の飲みっぷりを示す詩句を拾ってみる。
〇百年三万六千日 一日须倾三百杯《襄阳歌》
百年三万六千日 一日須(すべから)く三百杯を傾くべし
〇三百六十日 日日醉如泥《赠内》
三百六十日 日日酔いて泥の如し(内に贈る)*“内”は妻
〇两人对酌山花开 一杯一杯复一杯《山中与幽人对酌》
両人対酌すれば山花開く 一杯一杯復(また)一杯(山中にて幽人と対酌す)
〇人生得意须尽欢 莫使金樽空对月《将进酒》
人生意を得ば須く歓を尽くすべし 金樽をして空しく月に対せしむる莫かれ(将進酒)*“将”は「まさに…せんとす」
〇钟鼓馔玉不足贵 但愿长醉不用醒《将进酒》
鐘鼓も饌玉も貴ぶに足らず 但だ長酔を願いて醒むるを用いず(将進酒)
だが,常に愉快に飲み明かしていたわけではない。
花间一壶酒 huā jiān yī hú jiǔ 花間 一壺の酒
独酌无相亲 dú zhuó wú xiāng qīn 独り酌みて相親しむ無し
举杯邀明月 jǔ bēi yāo míng yuè 杯を挙げて明月を邀え
对影成三人 duì yǐng chéng sān rén 影に対して三人と成る
五言古詩《月下独酌》(月下の独酌)の冒頭の4句である。花咲き匂う庭に一壺の酒を持ち出し,独りで酌んで飲み,酌み交わすべき友もいない。そこで杯を挙げて明月を招き寄せ,わが身の影と合わせて3人の仲間ができた。
一見,豪放磊落に見える李白の,人恋しさから自分の影と明月に杯を進めるという深い孤独な一面を覗かせる。詩は“我歌月徘徊,我舞影零乱,醒时同交欢,醉后各分散,永结无情游,相期邈云汉”(我歌えば月徘徊し,我舞えば影零乱す。醒むる時は同に交歓し,酔いし後は各々分散す。永く無情の遊を結び,相期す雲漢の邈かなるに)の6句で終わる。
上野 惠司(うえの けいじ)
日本中国語検定協会 元理事長
1939年大阪府生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)文学部社会学科,同漢文学科卒業,大阪市立大学大学院修了。文学博士。1981年より長年にわたってNHKラジオ中国語講座担当。筑波大学教授,共立女子大学教授等を歴任。日本中国語検定協会の設立に参加,長く理事・理事長を務める。著書『ことばの散歩道』Ⅰ〜Ⅶ(白帝社),同書の中日対照版《中日语言文化漫步》Ⅰ〜Ⅳ(吉林大学出版社),『精選中国語成語辞典』第2版(白帝社)など。ほか中国の言語と文化に関する著書多数。
