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「ゴールデンカムイ」杉元佐一は本当に尾形百之助に殺意しか抱いていないのか?

『ゴールデンカムイ』上等兵ズ考察-勇作(?)04/杉元01

勇作が杉元の中でどれほど大きな存在だったかを理解すれば、杉元の目に尾形がどう映っていたのかについても解像度が上がる。

杉元と尾形、どちらが勇作激重男なのか。尾形はアシㇼパを見て勇作を思い出すくらいなのに、杉元はアシㇼパを見ても尾形を見ても、勇作を連想していそうである。

杉元が尾形に抱いていたのは、単純な殺意だけではなかったのではないか。また、相手が何を考え、何をしようとしているのか、まったく分からなかったわけでもないように思う。

杉元は、第七師団陣営の外では、尾形を理解し、あるいは彼を引き止めることのできる可能性が最も高かった人物とも言える。

しかし、物語の展開に加え、最後には突然ヒグマまで現れたため、二人は結局まともに話す機会を持てなかった。

以下、杉元が尾形について何を知り、どこまで理解し得たのかを、時系列に沿って整理する。

その過程で、杉元が得た情報からどこまで推理できたか、またどのような心理状態にあったかについても、多くの推測を交えている。妥当性については各自でご判断いただきたい。

東京愛物語篇

菊田から、勇作が花沢閣下の息子であることを知る。

勇作の童貞問題をめぐって両親が水面下で張り合い、その結果、二個師団まで振り回される、軍上層部を巻き込んだ大騒動になっていた。

当時の花沢の階級は不明だが、奥田閣下に頼み事ができるのだから、この時点ですでに師団長だった可能性もある?

花枝子から、花沢ヒロがどのような人物だったのかを知る。杉元は勇作自身に選ばせようとしたが、それを成し遂げることはできなかった。

勇作が高潔な軍旗として作り上げられ、そのまま日露戦争で死んでいったのだと捉える。

金塊争奪戦へ

アシㇼパと出会う。

まだ第七師団にいた尾形と遭遇し、尾形を殺しかける。

江渡貝邸で土方と接触した後、アシㇼパが勇作と同じ道を歩みかけていることを即座に警戒する。怒りを溜める。

同時に、すっかり雰囲気の変わった尾形が土方陣営にいるのを見る。救出の際には、第七師団の兵士が尾形を「コウモリ野郎」と罵るのも耳にする。

食事中には口喧嘩。不信感はあるが、能力は高く、協力はできる。

インカㇻマッに銃を向けた時の様子から、尾形は鶴見側の内情もかなり把握しているように見えた。

網走監獄突入前

土方から、尾形は第七師団長・花沢の妾腹の子だと知る。それなら、勇作とは兄弟では?

そして、お人好しの谷垣を除き、全員が主人公三人組を裏切った。

網走監獄後

鯉登の父から、花沢の遺書では(実際には鶴見が偽造したもの)、勇作の死は「愚かな父の面目を 保ってくれた」ものとして扱われていたと知る。
武人の家の教育とは、そういうものなのか?

のっぺら坊の言葉を思い返し、アシㇼパに伝えたいことがたくさんあると考える。

その後の流れも合わせると、杉元はアシㇼパを金塊争奪戦から連れ出したいと思うようになった。

樺太

鯉登から、尾形には軍の中で「山猫」という噂があると聞く。

幼い頃、家族が伝染病にかかって村中から差別された経験を持つ杉元にとって、出自を理由に人をあげつらうような噂は、くだらないものだった。

第七師団長・花沢は自殺し(実際には鶴見が尾形に殺させた)、正妻の子である勇作は戦死。妾だった芸者の子である尾形は脱走兵となって土方陣営へ入り、今はキロランケと組み、金塊を独占しようとしているように見える。

この経歴だけを見れば、普通は月島のように、「庶子の復讐劇か」と考えるだろう。

しかし、勇作も花沢も、すでに死んでいる。

それ以降も目的が金塊なら、第七師団に残っていては駄目だったのか?軍を離れなければできないことがあるのか?それは、金塊を独占しなければ実現できないことなのか?

流氷

アシㇼパが尾形に矢を向け、それでも下ろしたのを見た。ところが尾形は、逆に銃を構える。

腹が立つ。

目を射抜かれたのに笑っている。アシㇼパをこちら側へ引きずり込めるなら、金塊も要らない。自分が生きられなくても構わないと思えるほど嬉しいのか?

腹は立つ。

だが、それでも半死半生の尾形を救わざるを得ない。医者を探し、鯉登に「そこまでする必要があるのか」と問われると、杉元は言う。

「尾形にはいろいろ聞くことがある まだ死なせない」

[196]

ここまで来ると、もう単純にアシㇼパのためだけではない。杉元自身も尾形と話をしたいと思っている。

尾形はもう助からないと聞くと、杉元は銃剣を抜いて病室へ近づく。この時は、せめてアシㇼパではなく、自分の手でとどめを刺したいと思っていたのかもしれない。しかし尾形は逃げた。

腹を立てながら、それでも笑う。

こいつは死にたいのか、生きたいのか。あれほどしぶとく逃げていった。

鯉登・月島の対話

なんと白石は、尾形が花沢を殺した件だけでなく、「愛です」組三人の事情まで一通り盗み聞きしていた![210]

札幌ビール工場篇

土方と再会する。

杉元は、尾形の裏切りには土方も一枚噛んでいると考える。土方も否定せず、それどころか杉元は邪魔だとまで言うww

対峙の際、杉元は「アイヌの偶像」という表現を用いた。これは尾形の言葉遣いと一致している。

それでも、アシㇼパのために協力する。

アシㇼパと尾形のことを話し、もしあいつが本当に金塊だけを狙っているのなら、ためらいなく殺せる、と言う。

しかし杉元は、尾形の目的が本当に金塊だけではないことを、ある程度察していたはずだ。


もし杉元とアシㇼパが互いの情報を突き合わせられたなら、次のような言葉が並ぶ。

「アイヌの偶像『清い』必要があるのか?」「自分の中に殺す道理さえあれば罪悪感なんぞに苦しまない」「……道理をやろうか? お前の父親を殺したのは俺だ」「やれよ……お前も出来る……お前だって俺と同じはずだ」「……お前達のような奴らがいて良いはずがないんだ」

もし杉元が、勇作は戦場で人を殺さなかったと知ることができたなら、尾形の言う「清い偶像」は、おそらく勇作を指しているのだと考えられる。

そこに、尾形がアシㇼパに銃を向けた事実を重ねれば、さらに次のような推測もできる。

尾形は、勇作が戦場で人を殺さず、清いままでいることを「道理に合わない」と考え、そのために勇作を殺したのではないか?

そしてアシㇼパも人を殺さないからこそ、尾形はあれほど取り乱したのではないか?金塊のことすら完全に頭から飛ぶほどに?

ただ、この時点では、それが罪悪感とどう関係するのかまでは、まだ考えが及ばないかもしれない。


白石が杉元を激しく罵った場面で、もし鯉登と月島の会話を最後まで全部聞いていたなら、鶴見がどれほど信用ならないかを盛りに盛って、こんなことまで言っていたかもしれない。

「鶴見中尉なんぞ、自分の部下まで平気で騙すんだぞ。あの軍曹なんて九年も騙されてたし、尾形ちゃんが花沢を殺したのも、鶴見に騙されたからじゃないのか?」


そこまで情報がつながれば、残るピースは母親の毒殺だけだ。

本当に、ただの「庶子の復讐劇」だったのか?それとも鯉登の推測どおり、鶴見に騙されたから離れることを決めたのか?

ただし、以上はすべて「もしも」の話であり、断定はできない。


最後の戦い

二人とも再会できてずいぶん嬉しそうで、あとはもう殴り合いに夢中だった。

そして最後は、あのヒグマ。あのヒグマは、何だったのか。

まるで野田先生の巨大な手のように杉元をがっちり押さえ込み、しかも杉元は尾形に背を向けたまま。表情は見えず、声しか聞こえないのだ。

それはそうか、二人とも、アシㇼパの黒い瞳を見ていなければならないから。

杉元が最後に耳にした尾形の言葉を並べてみる。

「この悪霊め、いつも俺の邪魔をしやがる……」「俺の罪悪感? 違う。毒だ、幻痛だ!」「殺したことなんか後悔していない!」「おっ母の葬式にも来なかった!」「駄目だ。それじゃ、全部が間違っていたことになる!」「罪悪感なんて存在しない!」「考えるな。負ける!」

そして、自分を撃つ。

……え?こいつは、いったい誰に向かってこんなことを言っているんだ?何の葬式で、何を後悔している?

なぜ必死になって罪悪感を否定している?アシㇼパを殺そうとしたことに、罪悪感を覚えたのか?

アシㇼパはこれまであれほど尾形を気遣っていたのだから、罪悪感を抱けるなら、まあ少しは人間らしい。

でも、なぜ自殺した?


アシㇼパは尊敬に値する。自分を守るために、地獄へ堕ちる覚悟までしてくれた。

その後、杉元とアシㇼパは鶴見を追う。

列車の屋根には尾形と鶴見しかおらず、尾形の立ち位置は、どこか鶴見を守っているようにも見える。まさか、二人は裏でまだつながっていたのか?
(中略)

「一緒に故郷へ帰ろう」
完!


これだけの情報をつなぎ合わせられる可能性があるのは、ほぼ杉元だけでは?

あれだけ多くの伏線を張っておいて、全部空振りなのか?

杉元とは、どんな人間か。悲惨な出自を有しながら、きわめて高い共感能力を備え、しばしばお節介な一面を見せる。暴力的で変態的、かつどこか少女のような一面を持ちながらも、本当は優しい。

『ゴールデンカムイ』の最終結末は、表面的には「大団円」として受け取られうる。しかし、仔細に見れば、登場人物それぞれの帰結には拭いきれない余韻と遺憾がなお残されている。

引用・出典

野田サトル『ゴールデンカムイ』集英社。

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