業界歴40年の大先輩が見る業界の未来 ~トリミング業界が“本物のビジネス”へ向かうための「ロマンとそろばん」~
CHOKIP代表の佐久間です。
先日、私が深く尊敬している業界の大先輩、ワンクス代表の森さんと久しぶりにじっくり語り合う機会がありました。
ご存じの方も多いと思いますが、森さんはシザーやシャンプーメーカーとして業界を支えるだけではなく、経営塾、未来塾やマネジメントゲーム(MG)などを通じて、トリミング業界の人材育成、とりわけ経営者育成に尽力し続けている偉大な方です。
その夜、森さんが語ってくださった言葉のひとつひとつが、私の中で驚くほど深く腑に落ち、その熱量が冷めないうちに皆さんにシェアしたくなりました。私はこれまで20年以上にわたりトリミング業界で経営に携わってきましたが、それでも森さんの言葉には何度も「そういうことか!」と膝を打つ思いでした。
今日はその対話の内容を、当日の生のニュアンスを大切にしながら、レポート形式でお届けします。
トリミング業界は、ようやく「本物のビジネス」になり始めた
森さんがまず口にされたのは、トリミング業界の「現在地」についてでした。
「これまでのトリミング業界は、趣味の領域を出られない時代が長く続いてきた。それはある意味、トリマーさんの優しさに付け込んだビジネスだったとも言える」
厳しい言葉ですが、何十年も業界の変遷を見守り続けてきた森さんだからこその重みがあります。
「犬が好きだから」
「お客様に喜んでもらいたい」
──その純粋な善意に依存するあまり、給与や労働環境の改善が後回しにされてしまう構造が、業界全体に染み付いていました。
しかし、ここ数年でその空気は確実に変わりつつあると森さんはおっしゃいます。 技術を競い合うコンテストの活発化、皮膚科をはじめとする獣医療との連携、そして施術方法や道具などの言語化・エビデンス化。
かつて「なんとなく良い」とされていた感覚的なサービスが、「こういう理由で、これが必要なんです」と論理的に説明できるようになり、業界としての土台がようやく整ってきました。
「ここからが、トリミング業界が本当の意味でビジネスへと昇華していくタイミングなんだ」
若い世代が「この業界で働きたい」と心から憧れ、トリマー自身が「私はこの知識と技術で、家族の幸せを守るプロです」と胸を張れる環境を、今こそつくらなければならない。
森さんの力強い言葉に、CHOKIPを通じて多くの現場を見ている私も、全く同じ手応えを感じています。

経営の両輪、「ロマンとそろばん」のバランス
次に印象的だったのは、若手トリマーさんに対する森さんの印象をうかがったときでした。
「今の若い世代は、本当に優秀。技術への誇りを持ちつつ、投資の重要性や、学びの優先順位を冷静に捉えている。『ロマン』と『そろばん』のバランスが、非常にうまく取れています」
森さんが繰り返していたキーワードが、この「ロマンとそろばん」です。
「人は困窮したときほど『そろばん(数字)』ばかりを弾いてしまう。逆に、調子が良いときには『ロマン(理想)』に偏りすぎてしまうもの。 例えばコンテストで優勝して注目を集め、自分をカリスマだと勘違いしてしまうケースも少なくない」
この言葉には、ハッとさせられました。どちらかの車輪が浮いた瞬間、経営は不安定になります。20年経営を続けてきた私も痛感しますが、好調なときほど慢心に気付けず、不調なときほど数字に追われて「人」を見失いがちです。森さんは、その両極端な末路を何度も目撃されてきたのです。

オーナーの「カリスマ性」が、時に組織の壁になる理由
ここからが、対話の核心でした。
「カリスマと呼ばれるオーナーがいる店ほど、知らず知らずのうちに現場の自走力が失われていくことがある。あえて強い言葉を使えば、カリスマの下に、カリスマは育たないんですよ」
森さんは、個人の魅力や技術が卓越していること自体を否定しているのではなく、その「強すぎる光」が組織の育成において課題になる側面を指摘されていました。
エース級のスタッフが突然独立し、店長候補だったスタッフが「あなたがいる限り、私に居場所はない」と感じて去っていく。 表向きは順調に見えても、新規客は増えず、犬の高齢化にともない既存客も少しずつ減っていく。
そして、その焦りから売上を取り戻そうと、新しいビジネスを始めたり2店舗目を出したりしてしまう。しかし、人が育っていない状態で器だけを広げれば、現場は瓦解し、キャッシュフローは悪化し、結果として本業であるトリミングや本店の経営まで危うくしてしまう。
森さんのお人柄を慕って、森さんに経営相談をしてこられるオーナーさんもたくさんいらっしゃるようです。しかし、森さんへの相談の多くは「すでに工事が始まっている」「もう契約が済んでいる」という後戻りできないタイミングなのだそうです。
「『これ、やってもいいと思いますか?』と聞かれたときには、すでに手遅れであることが多い」
これは私にとっても身につまされる話でした。立ち止まって気軽にかつ本音で相談できる相手が業界内にいるかどうかで、お店の未来は決定的に変わってしまうのです。

「対等であること」と、「任せる勇気」
また、対話の中で人材育成について深掘りしていくと、「対等であること」の大切さが改めて浮き彫りになりました。
立場が違えど、一人のプロとして尊重し合う。3年目の方が1年目の方を軽んじてはいけないし、教える側が「この子にはまだ無理だから」と先回りして仕事を奪ってしまうのも良くありません。信じて任せること、手放すことが必要なのです。
そして、森さんはこう続けられました。
「『任された』と捉えるか、『放置された』と捉えるかは、それまでの教育プロセスで決まる。日頃から『信頼の貯金』がある相手なら、重い責任を渡されたとき、それを期待として受け取ってくれる」
また、「優しさが裏目に出る」というお話も印象的でした。「強く言えない」「嫌われたくない」という感情が、かえってチームを機能不全に陥らせる。「責任は私が取るから」という覚悟を持って接することこそが、人を育てる土台になるのだと、改めて教わりました。 私自身も「手放す勇気」には何度も直面してきましたが、こうして言語化していただいたことで、頭の中がすっきりと整理された感覚がありました。
森さんが描く未来:オーナー同志の小規模コミュニティの共創
最後に、「これからどのような活動をしていきたいか」を伺いました。
森さんの構想は、非常に明確です。
「講義を聞くだけでは、知恵は身につかない。やはりワーク(実践)がなければ。新人を育てる仕組みは整ってきたけれど、今一番必要なのは、オーナーが『育て方』を学ぶ場所です。教えるスキルと教わるスキルの両方を底上げしたい」
それを実現するために注力したいとおっしゃっていたのが「ビジネスコーチング」の普及です。
森さんは長年師事されている経営の師から、コーチングを徹底的に叩き込まれたそうです。「コーチングされていると気づかせないほど自然に、相手の考えを引き出す技術」が本物であると、森さんは表現されていました。
「一般的なコーチングはカウンセリングに近いものがあり、時間がかかる。ビジネスコーチングは、相手の感情に寄り添いつつも、最終的には『やるか、やらないか』の決断へと一直線に向かわせる手法です。プロの仕事である以上、決めなければ前には進めない。そのための質問スキルを、この業界に広めたい」
スタッフを増やすべきか。新メニューを導入するか。店舗を増やすべきか。現場のあらゆる場面で「決断する力」が求められます。
森さんの構想は、そのための筋肉を業界全体で鍛えていこうという挑戦のように聞こえました。
もうひとつは、人材育成をはじめ、経営やデータ分析、ブランディングを学び合い、本音で語り合えるオーナー同士の小規模なコミュニティを全国に作りたい、という夢。 「10人、20人の小さなコミュニティで、同じ悩みを持つ仲間と繋がること. それだけで経営は驚くほど楽になります」と。

業界の未来へ~CHOKIPの役割
森さんのお話を伺いながら、私はずっと「CHOKIP」の存在意義を考えていました。
私たちがCHOKIPを開発・運営しているのは、突き詰めれば「現場の負担を減らし、トリマーさんが本来の仕事に集中できる時間を取り戻したい」という想いがあるからです。紙のカルテや予約帳で必死に店を回すことの限界を、私自身が知っているからです。
しかし、森さんのお話を聞いて、デジタル化の本質は「効率化」そのものではなく、「意思決定のための情報に気づけるようになること」なのだと確信しました。
「3ヶ月ご来店のないお客様が何人いるか」「メニュー構成を変えると売上がどう動くか」。数字が可視化されることで、給与水準を上げるための戦略も、スタッフに任せるための仕組みづくりも、判断の精度が格段に上がります。
これは、多店舗展開をされている方も、お一人で経営されている方も同じです。むしろ一人で全てを抱えている方にこそ、頭の中を整理するための「道具」が必要です。
20年以上前に、はじめてトリミングサロンを開業したばかりの自分〜売上と顧客数だけしか把握できておらず必死にあがいていた自分に、今のCHOKIPを届けてあげたい。それが私の正直な気持ちです。
けれども、その道具の先にある「人の育成」や「経営者としての覚悟」は、システムだけでは解決できません。だからこそ、森さんが構想されているような「学び合えるコミュニティ」に、CHOKIPとしても微力ながら関わっていきたいと強く思いました。
トリミング業界は今、大きな転換点にいます。
「趣味」の領域を超えて、次世代に胸を張って渡せる「本物のビジネス」にしていく。そんなこれからの10年が、今ここから始まろうとしています。
その航海に、ぜひ皆さんも一緒に乗ってください。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。 もし少しでも共感していただける部分があれば、「スキ」を押していただけると励みになります。これからも、業界の先輩から学んだこと、現場で感じたことを、少しずつ書き残していきたいと思います。
<森 朋さん プロフィール>
有限会社ワンクスクリエイション 代表取締役 19歳でペット業界へ。その後、38年にわたり、ずっと業界の一線で活躍。
ヘアケア・スキンケアブランドの「プロフェム」やトリミングシザーブランドの「KERRY」など、多くのトリマーさんから熱い支持を得るブランド・製品の企画卸販売だけでなく、経営塾・未来塾など経営を学ぶ場を積極的に提供することで、ペット業界、とりわけトリミング業界を常にけん引し続ける。
2013年には、佐久間ら仲間とともに、一般社団法人 日本ペットサロン協会を立ち上げ、トリミングサロン経営の安定と発展に尽力。
現在もMG(マネジメントゲーム)の講師をはじめ、常に「これからの業界を引っ張る人材」の育成に全力を注いでいる。
<CHOKIP代表 佐久間プロフィール>
1992年 P&Gマーケティング本部に入社。退社後の2000年7月にペット関連事業を行う株式会社カラーズを設立し、20年間トリミングサロン6店舗を運営してきたほか、ネット通販の立ち上げ等を行う。2013年、日本ペットサロン協会設立・副理事長に就任。2022年10月には小売&サービス業を対象にしたDX /OMOサポートを行う株式会社DAY ONE設立。トリミングサロン向け電子カルテ「CHOKIP」を開発・運用を行う。
