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子どもを「話せるのに中身スカスカ」にさせないための英語教育戦略|CALPの育て方・実践編

「インターに通わせているのに、英語の本を読みたがらない」
「普段英語で楽しそうに話しているのに、意見を求められると急に中身が薄くなる」

インター通いのお友達でも、小学校高学年以上になってくると、そんな子どもが増えてきます。
そして、これは児童期の一時的なものではなく、ビジネスの場でも同様の大人に会うことがあります。

インター卒で一見英語は流暢、相手の言っていることもわかっている。
けれど英語文書は誤字脱字だらけだったり、構成がめちゃくちゃ。
会議での発言では、浅い根拠や感想程度のコメントしか出てこない。

これは、単に英語力の問題ではありません。
英語CALP(Cognitive Academic Language Proficiency:学習言語能力)が育っていないという問題です。

英語で話せることと、英語で思考・読み・書き・議論ができることの間には、想像以上に深い谷があります。

この記事では、CALPとは何か・なぜ必要か・ないとどうなるか・どう育てるか、を戦略的に整理します。

そもそもCALPとは何か、なぜそれが必要なのか

カミンズ(Cummins, 1979)は言語能力を2種類に分けました。

1つは、BICS(Basic Interpersonal Communicative Skills:生活言語能力)。

日常会話・遊び・雑談など、対面のやり取りで使われる言語力。
身振り・表情・文脈という手がかりが豊富なため、比較的早く習得できます。
第二言語環境に入った子どもがBICSを習得するまで1〜2年程度といわれています。

もう1つが、CALP(Cognitive Academic Language Proficiency:学習言語能力)。

教科書を読む・論文を書く・抽象的な概念を議論する・複雑な文章を理解する。文脈の手がかりが少ない状況でも、言語だけで意味を構築・伝達できる力です。
こちらは習得に5〜7年、時にはそれ以上かかるとされています(Cummins, 1981; Collier, 1987)。

つまりBICSは、「その場の空気や表情に助けられながら会話する力」。
一方でCALPは、「文脈の助けがなくても、言葉だけで複雑な意味を扱う力」です。

だから、子どもが英語で楽しそうに遊べていることと、将来英語で学問・仕事・議論ができることは、まったく同じではありません。

CALPがないと、実際の世界で何が起きるか

CALPが育っていない言語は、「発音はきれい、会話は流暢、でも中身が幼い」という状態になりやすいとされています。

例えばインターや英語教室でBICSが育つと、低年齢のうちは英語ができるように見えます。
発音も良い。先生の指示もわかる。友達とも話せる。
親としては安心したくなります。

でも小学校高学年以降、英語の世界で求められるものは変わります。

「好きな色は?」
「週末何した?」ではなく、

「なぜそう考えるのか」
「この文章の主張と根拠は何か」
「別の立場から見るとどうか」を扱うようになります。

ここでCALPが育たないと、英語が急に幼く見え始めるのです。

BICSがある英語は、

  • 外国人の同僚と雑談できる。天気・食事・週末の話ができる

  • 英語の会議に出ると「なんとなく雰囲気はわかる」

  • でも、プレゼン資料の英語を論理的に構成できない

  • 英語の契約書を読んで、法的なニュアンスを理解できない

  • 英語でメールを書くと、主張が曖昧になる

  • 英語のニュースを読んでも「わかった気がする」で終わる

  • 英語で議論するときに、薄く単純な表現に逃げてしまう

  • 自分の中では複雑なことを考えているのに、知的レベルを低く見られる

CALPもある英語は、

  • 英語で自分の考えを構造化して説明できる

  • 英語の複雑なテキストを批判的に読める

  • 英語で論述・報告書・提案書が書ける

  • 海外の大学・大学院に出願できる

  • 英語が共通言語のグローバルな場で「発言する側」になれる

要するに、BICSがあれば「英語の場所に入れる」一方で、CALPがないと「戦えない」ことがあるのです。

英語教育の多くが目指すのは、BICSの獲得です。
でも「英語が話せる」の先に、本当はもう一つの山があります。

そして、英語教育にこだわる親が本当に気にすべきなのは、むしろこの二つ目の山です。

幼少期に英語がペラペラに見えることよりも、10歳以降も英語で知的に伸び続けられるかが重要だとした時に、その分岐点にあるのが英語CALPです。

「日本人は読み書きはできるのに話せない」という謎

日本人は、学校生活を通じて日本語CALPを育てています。

算数の文章題を読む、国語で論説文を読む、理科の実験結果を考察する。
こうした学校生活そのものが、日本語で抽象的に考え、読み、書く力(日本語CALP)を育てています。
特別なことをしなくても、多くの子はこの土台を持っているのです。

そして、カミンズの言語相互依存仮説では、「ある言語で育ったCALPは別の言語に転用できる」という考え方があります。
つまり、育った日本語CALPは、英語CALPにも移転するはずなのです。

さらにカミンズの氷山理論で考えると、日本の学校英語教育は、英語CALPを重点的に育てる設計になっています。

文法・読解・長文・英訳。
日本の中高英語教育が力を入れてきたのは、全部CALP領域です。
BICSの訓練(話す・聞く・即興でやり取りする)がほぼない代わりに、言語の認知的処理能力は鍛えられています。

そうなると、こんな疑問がわいてきます。

「日本語CALPはすでにある。それは英語CALPにも移転するはず。しかも英語CALPは学校教育でもある程度カバーされている。だとすると、足りないのはBICS(会話力)だけ。BICSはCALPより習得のハードルが低いとされているのだから、英語環境に数年行くか、集中的に会話練習をすれば、全部揃うのでは?」

理屈としては、筋が通っているように見えます。
日本語CALPが高い子ほど英語習得が速い傾向があるのは事実で、これは相互依存仮説を裏付けています。

しかし実際には「日本語CALPがある」「学校で英語CALP寄りの教育を受けている」という2つの前提が揃っていても、なおかつ英語環境に何年かいても、話す内容がいつまでも薄いまま……という人は珍しくありません。

その理由は、以下の4つに整理できます。

① 日本の学校で育った英語CALPは「受容型」に偏っている

日本の英語教育では「読む・訳す・文法を理解する」は訓練されますが、「英語で考える・書く・アウトプットする」経験は少ない傾向にあります。

つまり、認知的な処理能力はあっても、それを英語で出力する回路が育っていないのです。

英語環境に入ると確かにBICSは育ちますが、出力する英語CALPの回路が弱いと「話せるようにはなった。けれど薄い内容しか出せない」という状態になりやすいのです。

② そもそも英語CALP習得に必要な時間に、絶対的に足りない

日本の学校英語がいくらCALP寄りの内容(文法・読解・長文)を扱っていても、CALPの習得には5〜7年以上の継続的な接触が必要とされています(Cummins, 1981; Collier, 1987)。

週数時間の授業や宿題を積み重ねても、この必要時間には到底届きません。

「カリキュラムの方向性はCALP寄りでも、量が全然足りていない」というのが実情です。

③ 日本語と英語は、言語の距離がかなり遠い

日本語での賢さを英語に移すとき、単語だけを置き換えれば済むわけではありません。

日本語は文脈や余白に意味を持たせやすい言語です。
一方で、英語は結論・理由・具体例・反論への配慮を、比較的はっきり言語化することが求められます。

だから、日本語でロジカルに考えられるだけでは足りません。
日本語の思考を、英語の談話構造、つまり英語で伝わる順番・型・密度に変換する回路も必要になります。

④ 翻訳コストで、思考が窒息する

日本語では高度なことを考えているのに、英語で話そうとした瞬間に頭が真っ白になる。
これは能力が低いからではありません。
脳のワーキングメモリが「日本語で考える」「英単語を探す」「文法を組み立てる」「発音する」という処理で埋まってしまうからです。

その結果、本当は複雑な意見を持っているのに、英語では浅い言葉しか出てこない。
思考そのものが浅いのではなく、英語で思考を運ぶ器が小さすぎるのです。

英語CALPとは、この器を大きくすることです。
英語のまま読み、英語のまま考え、英語のまま構造化して出すための回路を作ることです。

では、この翻訳コストによる思考の窒息を防ぎ、子どもの脳内に「世界のどこでも戦える」英語OSの器を構築するには、何をどう仕掛ければいいのでしょうか?

この逆説が、親がやるべきことを教えてくれる

子どもが日本の学校教育を受けながら英語力および英語CALPを伸ばすための戦略は、シンプルにこうなります。

  • 日本語CALPをしっかり育てる(学校の算数・国語・理科・社会)

  • 英語のインプット量を増やしてBICSの自動化を促す

  • 英語CALPを同時に育てる。特に英語でのアウトプット回路を意識的に鍛える

日本語CALPはすべての土台。これは学校がある程度育ててくれます。

英語CALPは、その土台を英語の世界で使える形にする変換回路。
これは学校だけでは難しく、それ以外の場所で育てることになります。

CALPは英語教室だけでは育たない

教室での英語接触時間は万能ではない

英語教室の授業時間は週1〜3時間程度が一般的です。
ここに学校の授業などを足しても、英語CALPの習得に必要とされる接触時間から見ると、明らかに不足します。

さらに、多くの英語教室のプログラムはBICS(会話・発音・日常表現)を中心として設計されています
CALPに必要な「英語で論理的に考え、表現する」訓練は、家庭での意識的な関わりなしには育ちにくいのです。

英語教室は、英語を好きにする・会話の抵抗を下げる・発音やリスニングを育てるには有効です。
話すことの楽しさをここで覚えれば、自然と自分から英語を学ぶ意欲が増す子もいるでしょう。

ただ、週1〜3時間の教室に「英語で読める子」「英語で書ける子」「英語で意見を言える子」まで期待するのは、設計上かなり無理があります。

日本で暮らすことの現実

公立小学校に入学すると、生活の中心(週25〜30時間以上)は完全に日本語です。
本格的に英語アフタースクール(週3日・計9時間程度)と組み合わせても、ネイティブと比較すると、英語接触時間には年間10倍近い差ができることもあります。

そして、たとえインターに通っていても。
両親が日本語ベースで、日本に住んでいる限りは、ネイティブの英語接触時間には到底及びません。

この時間差の影響が表面化するのが9〜10歳頃のことが多いです。
低学年では「色・形・動物」など具体的な語彙(BICS)で通用しますが、高学年になると「光合成」「権力」「因果関係」といった抽象的な概念(CALP)が授業に登場します。

この時、抽象的語彙への接触頻度が低すぎると、結果として「日常会話は流暢なのに、社会や理科の話になると英語が幼くなる」という停滞期に入るのです。

ここで失速すると、親は「昔はあんなに英語ができたのに」と感じます。
でも実際には、英語力が落ちたというより、求められる英語のレベルが上がったのです。

低年齢の英語は、聞く・話す・楽しむで目立ちます。
高年齢の英語は、読む・書く・考えるで差がつきます。

なお、この年齢が期限というわけではなく、英語CALPは日本語で育った思考力を土台にできるぶん、9歳以降に鍛えても伸ばせます。

家庭の重要な役割

このように、日本で生活している以上、英語CALP育成は学校の授業や英語教室などだけでは実現しづらいのが現実です。

だからこそ、家庭の生活動線の中にいかにして機会を埋め込むかが重要です。
ここから先は、家庭で今日から実行できる具体戦略や、年齢別ロードマップを整理します。

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