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[noteでBL] 残雪

あらすじ
ある時とつぜん風景が崩壊する奇妙な現象に巻き込まれてしまった僕。
奇跡に的に友人の残雪と合流することはできたけれど…。
異常な体験を通じて自分の感情と折り合いをつけていくことはできるのか…。

5千文字以内
ジャンル:SF

※注意:人体破損の描写があります


残雪

 ふと、振り返るとそこには崩壊した風景があった。左右前後がぐちゃぐちゃでまるで失敗したパズルのようだ。

 整合性が取れない。画像に酔うような感覚。僕は顔をしかめる。ダメだ…吐きそう。

 そう思った矢先、向こうから人が走ってくるのが見えた。

 残雪ざんせつだった。崩壊した風景と風景の間にある小さな隙間を器用にすり抜けて走ってくる。

「タダシぃー!」

 残雪は僕の名を呼びながら必死に走ってきた。それから僕の手を取ると「よかった、タダシいたぁ」と何度も言った。

 残雪の今にも泣きそうな顔を見て、僕はこの異様な風景が残雪にも見えているのだ、幻覚ではないのだとわかり、少しほっとした。僕だけだったら気が狂うところだった。

「残雪、どこから来たの?」

「あっちの、上町の方」

「あっちはまともなの? その、このバラバラな感じ」

「いや、あっちはもっと酷い。誰もいないし。俺、タダシもいなくなってたら地獄だと思って怖かったぜ」

「僕もだよ」

「とにかく、誰か探そう。ほらあっち、山田商店があるだろ?」

 残雪が指差した方を見ると道なりに崩壊状態が途切れている箇所があった。

「この壊れているところに触るとどうなるのかな?」

「さぁ?」

 本能的に感じ取っていた。風景がズレている場所には触れない方がよい。

 しばらく歩いていくと山田商店があった。店は無事なようだが周囲が完全にバラバラ風景に囲まれていて行き止まりになっていた。

「おばちゃーん?」

 残雪が店のガラス戸を開けて中に入った。商店の中は薄暗く誰もいないようだった。

 空っぽ。商品はいつも通りに並んでいるのに、まるでそこから忽然と人がいなくなったかのように。店は空っぽに思えた。

「いないみたいだね…」

「とりあえず、ここで誰か助けが来るのを待つか。食料もあるし。ここから先に進めないしな。戻ってもあっちは何もない」

 店の奥は住居になっていて休んだりもできそうだった。緊急事態だ。勝手にあがっても文句は言われないだろう…。

 もうすぐ日暮れだった。おばちゃんがどうなったのか心配でもあったけれど、とにかくこの店に辿り着けたのはラッキーだった。

 僕はポケットから小銭を出すとカウンターに置き、パンをひとつ手に取り口へと運んだ。正直あまり食欲は無かったけれど何か食べておいた方がいいと思ったのだ。

 残雪も同じようしてパンを食べていた。

 そこへ、予期せぬ客がやってきた。

「あー人がいるー!」

 突然の声に僕はビクッとなった。若い女がひとり、店の中をのぞいていた。

「君たち、ここの子?」

 店の中に入って来ながら彼女は行った。

「いえ、俺たちも避難中」

「そうなんだ。お腹すいちゃった。あたしももらっていいかな」

 女は手にパンを取り、躊躇うことなく食べ始めた。僕はこの人をあまり好きになれないなと思った。

 パンにかぶりつきながら、値踏みするように残雪を見ている。残雪は容姿がいいので女の人にこのような視線を向けられることが多い。本人はまるで気にしてないようだけど…。

「で、君たち誰? 私はユナ。大学のサークルでバーベキューに来てたんだけど…」

「俺たちは地元の高校生。俺は残雪。こいつは同級生のタダシ」

 僕がペコリと頭を下げると、ユナはニコッと微笑んでくれた。そんなに悪い人じゃないかもしれない。

「ふーん、残雪って珍しい名前ね。苗字?」

「あ、いえ、なんか母親が小説から取ったとかで」

 ふーん、と言いながらユナは名前の由来にはあまり興味はないようだった。

「それで、お姉さんの…」

「ユナって呼んで」

「あー…、ユナさんの仲間はどうしてます?」

「みんないなくなったよ…歩いてたらここに来たってわけ」

「どっちの方から来ました?」

 ユナの指さす方向はさっきまで行き止まりになってた方向だった。

 店から出て確認すると隙間が出来ていた。

「ここから先に進めそうだな」

「あたしそこから来たんだけど」

「俺たちは反対側から来ました。そっちは何もありません」

「こっちも何もなかったけどな…」

 今日はもう暗くなる。朝になるのを待って探索してみることになった。

 今夜はおばさんの家に泊めてもらうしかなさそうだった。

 さすがに寝室を借りるわけにもいかないので、店に面したお茶の間とキッチンを寝床として使わせてもらうことにした。

 テレビがあったのでつけてみたが、どのチャンネルもザーッとノイズが走るばかりで何も映らなかった。

 僕と残雪で布団を探しに行こうとすると、ユナが残雪を呼び止めた。

「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いい?」

 それで残雪がユナのところに戻ってしまったので僕は一人で布団を探しに家の奥へと入った。奥の床間のある部屋に来客用と思われる肌掛け布団がいくつかあったので、それを持って戻った。

 茶の間に戻ると、ユナと残雪がキスをしていた。

 二人とも僕には気がついていなかったので、咄嗟に身を隠してしまった。

 どういうこと? どういうこと? どういうこと!?

「何するんだよ!?」

 残雪が言っているのが聞こえた。ムッとした声だった。

「嫌だった?」

「…こういうのはいきなりするもんじゃないだろ?」

「あれ~? 君、童貞くんだった? 遊んでそうに見えたのに」

 イラついた様子の残雪がお茶の間から出て来た。そして隠れている僕を見つけてため息をついた。

「いたのかよ」

「いや、その…」

 残雪は僕が持って来た肌掛けを一枚取ると、お茶の間に戻ってユナに渡しながら「俺たちあっちで寝るから、邪魔しないで」と言った。

 それを聞いてユナは「あーそういうこと?」と言った。

「そーゆうことだよ」

 残雪は怒った顔のまま、僕の手を引いてキッチンから出ると、奥の床間のある部屋へと入った。

 僕は残雪が何に怒っているのかよくわからず孤独を感じた。時々こういうことになる。僕は残雪を怒らせるのだけど理由がわからない。

 さっきの…ユナと本当は続きをしたかったのかな…。

 そう思うと胸の奥がギュッと苦しくなった。残雪はああゆう女の子が好きなのかな…。

 なんだかムカつく。

「残雪…あっちにいたければ行けば」

 思ってもいないことが口から出た。それで涙も出てしまった。泣くなんて。僕はどうしようもない。

「何でそんなこと言うんだよ」

 残雪はますます怒っている。感じ悪い言い方をした。しかも泣くなんて。もっとサラッと言いたかったのに。

「俺があっちに行って、ユナとセックスしたりしてもお前は平気?」

 セックスしたり?!

 そこまで具体的には考えてなかった。いや、わかってたけど。

 想像するだけで嫌だった。具体例を言わないで欲しかった。残雪にだっていつか彼女ができる日は来るのだろうけど…。

 僕の知らないところでやってほしかった。

 それが顔に出てしまった。残雪の方をまともに見れなかった。

 残雪が腕を伸ばしたのでど突かれるのかと思い縮こまった。だけれども残雪は優しく僕を抱きしめただけだった。

「バカだなぁタダシは…。しないよそんなこと」

 残雪の腕の中で僕は安心してしまった。親指で涙を拭かれた。優しい手だった。癒されてしまった。

「余計なこと考えないで寝るぞ」

 何かちょっとモヤモヤした気持ちを抱えながらも、とても異常なこと続きで疲れ切っていた僕は横になるとすぐに寝てしまった。

 目を覚ますと朝になっていて、残雪がいなくて飛び起きた。

 お茶の間に向かうと、ユナが大の字で寝ていた。ビールの缶がいくつも転がっている。

 昨晩は僕だけ安心して眠ってしまった。この人にもいろいろ事情があるのかも…と思った。

 残雪は店の外でユナが来た道を確認していた。

「通れる場所は変化するのかもな。持てるだけの食料を持って行ってみるか」

 店の中に戻るとユナが起きてビールを飲んでいた。

「俺たち、あんたが来た方に行ってみるけど、どうする」

「ああ、じゃ、あたしも一緒に行く」

 残雪は頷くと家の奥へと言ってしまった。リュックか何かを探しに行ったのだろう。

 ユナと二人残されて気まずかった。

「昨日はごめんね。あたしやけくそで、顔面がいい奴とやりたかっただけ。完敗だよ」

「何のことです?」

 昨日のキスのことを言ってるのだろうとは思ったが何か齟齬がある様子だった。

「ちょっと待って、あなた無自覚なの?」

 ユナは驚いたというより呆れた…という表情をした。

「罪な男だよあんたは…」

 はぁとため息をつくユナを困惑して見ていると、残雪が戻って来た。僕とユナが話しているのを見ると間に割って入って来た。

「あたしは何もしてませんよ、王子様」

 ユナは残雪の肩をポンポンと叩くと「察しますわ、ドンマイ…」と言った。残雪はその手を払い「うるさい」とひとこと言った。

 何か二人の距離が縮まっているように見えて、また胸がチクリと痛くなった。

 残雪が見つけてきたリュックに保存のきく食料を入れた。

 ユナが自分の財布から一万円札を取り出し、店のカウンターの引き出しに入れた。

 こうして僕らは山田商店を後にした。

 ユナが通って来た道は狭くて縦一列にならないと進めなかった。

 崩壊する景色は昨日より酷い気がした。ほとんど原型がわからないほどにぐちゃぐちゃだった。

「これ見てると気がめいる。うんざりだよ」

 ユナがぼそっと言った。その手が震えていた

 しばらく行くと、少し広くなっているところに着いたが、そこで行き止まりだった。

 道が終わっている先は、何がビラビラしたひだのようになっていた。
 まくれば入れそうな…でも触りたくないような。

「ユナが来たのってここ?」

 残雪の質問にユナは首を横に振った。

「もっと向こうだったと思う」

 残雪がビラビラに夢中になっている間、ユナが僕の横に来て腕を掴むと「気持ちは伝えないと」と小さな声で言った。

「いつ死ぬかわからないんだから」

 僕の返事を待たずに、ユナはビラビラに歩み寄り、唐突にそこへ手を突っ込んだ。

 止める隙がなかった。

 バリバリと音がして、ビラビラに触れた指が砕けて肉や骨が飛び散った。

 ユナは絶叫した。

 残雪が彼女の体を引っ張ったがビラビラはどんどん彼女の手を噛み砕いていく。

 まるで…まるでシュレッダーのように。

 僕もユナに飛びつき彼女を引っ張った。

「もううんざり! 何もかも!」

 ユナが叫んだ。彼女は僕らを押し退けると自らビラビラへと体を押し込んで行った。

 ユナの体がバリバリバリと砕けて飛び散った。

 それと同時に周辺の崩壊した風景がどんどん僕らの方へと迫ってきた。

「まずい! 閉じるぞ!」

 我に返った残雪が僕の手を引いて元来た道を走り始めた。

 道はどんどん狭まる。間に合わない。

 僕は半分もう諦めていた。残雪は諦めない。最後まで僕の手を引いて走った。

 やがて崩壊した風景は僕らをゆっくりと取り込み始めた。

 バリバリと肉と骨が砕ける音がして激痛が走った。僕は叫んだ。残雪も叫んでいた。残雪は僕を抱き抱えて守ろうとしてくれていた。

 だけれども、風景は無残にも残雪もろとも僕も一緒に粉々に破壊した。

 意識を失う寸前、僕は声を聞いた。

《再構築を開始します》

 確かに声はそう言っていた。

 気がつくと僕は自分の部屋で目を覚ました。

 遅刻だった。

 慌てて飛び起き、光の速さで準備をして家を出ると、残雪が僕を待っていた。

 彼は何事もなかったかのようにそこに立っていた。

 そして「遅いぞ」と言った。

 僕は彼に飛びつくと、しがみついた。

 残雪は驚いた顔で僕を見下ろした。その表情を見て、残雪にはあの記憶が無いのだと悟った。

 僕の夢だったのか?

 いや違う。再構築されたんだ。

 今、言わなくちゃ。ユナの言葉が胸に響く。

 僕はもう失わない。

 僕は残雪の耳元でそっとささやく。

(好き…大好き)

 残雪の心臓が早鐘のように鳴っている。僕の心臓も鳴っている。

 残雪の体温が伝わってくる。暖かい。残雪の体温だ。


(おしまい)


絵も描いてみました


なみさんの #noteでBL  です!
「ふと、振り返るとそこには」で始まる、「過去回帰や回想無し」のBL。

よろしくお願いします☆




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