[ひと色展:ショートショート] たまりゆく思い
雨がずっと降っている。この世が始まってからずっと。
彼女はふぅーとため息をついた。
窓の外には大きな湖が広がっていた。
もしかしたらこれは海なのかもしれない。
だってずっと雨が降っているから。
彼女は立ち上がって玄関に向かうとドアを開けた。
ドアのすぐ近くまでヒタヒタと波が打ち寄せていた。
一隻のボートが向こうから漂って来た。
ボートはいかにも彼女に “乗れ” と言っているかのように玄関先で止まった。
彼女はボートに乗った。
彼女はあてもなくボートを漕いだ。
雨はシトシト降り続いた。
彼女の髪は雨に濡れ、雫がポトリポトリと連なって落ちた。
その音が、彼女にはこう聞こえてきた。
ボケ
ナス
スットコ
ドッコイ
デキソコナイ
ハジシラズ
カエレ
彼女はその声を振り払うかのように必死にボートを漕いだ。
その声を聞いちゃいけないって誰かに言われた気がするのだった。
闇雲にボートを漕いでいると、彼女は小さな島にたどり着いた。
そこには唐突にドアがひとつ建っていた。
漫画で見る魔法のドアのようだった。
ボートを停め島に上陸すると、彼女はドアの前に立った。
ここを開けるべきだと彼女は知っていた。
だけれどもその勇気は彼女の中にはまだないようだった。
そうして果てしない時間、彼女はドアの前に立っていた。
どれくらの時が過ぎ去ったのかわからなかった。
何百年にも思えたし、数秒だったような気もした。
ようやく意を決した彼女はゆっくりとドアを開けた。
すると、向こう側に待っている人がいた。
「やっと出てきた。それで?」
ドアの向こうの人が言った。
彼女はその人に自分の思いを伝えなければいけないと思った。
「あ、あたし…」
うん、とドアの向こうの人が頷いた。
「みんなと一緒にいたいの」
彼女は勇気を出してそう言った。
これだけのことを言うのに気が遠くなるような時間を費やしてしまった。
それでもドアの向こうの人は怒っていないようだった。
「そうか、よかった」
と言って、彼女の手を引いてドアの向こうへと彼女を引っ張り出してくれたのだった。
(おしまい)
▽イシノアサミさんの『ひと色展2023』に参加します
▽こちらの色の子ちゃんから発想を得た物語です
▽この企画で、歌も作ってます。
よかったら聞いてみてください。
よろしくお願いします。
