日経-FT連合の10年を有報から読む

2015年にフィナンシャルタイムズが日経の傘下入ってから10年余が経過した。日経新聞の各年の有価証券報告書から、この10年のFTの財務状況や日経グループにおけるFTの位置どりが分かる。


1.FTの売り上げ10年で倍増

売上高は直後の2016年(2016年12月期、以下同様)が542億円、2025年は1112億円で倍増した。 コロナ禍の2020年にいったんは減収となったが、その後は持ち直し、2025年まで5期連続の売り上げ増を記録している。

最終損益はEU(欧州連合)脱退の影響による英国経済の不振を受けて2018年、2019年と2年連続減益、さらにコロナ禍の影響で2020年には赤字転落と苦境に陥った。しかし2021年以後は回復軌道に乗り、直近は3期連続の増益を記録している(図表1)。

フィナンシャルタイムズの売上高と純利益
図表1 フィナンシャルタイムズの損益状況

2018-2019年の停滞を受けて、世界最大のメディア市場である米国での事業展開を積極化してきたのが業績挽回の主因のようである。日経の社史サイト(2025年時点)で、買収当時社長だった岡田直敏は次のように述べているが、上述の数字はこれと付合する。

積極的なM&Aも実を結んで、当初はかなり高いハードルと思われた事業計画利益目標を最終年度の2025年末に達成できそうだ。

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5.アライアンス強化へ一層の革新を 〈インタビュー〉

2.米国事業を積極化

ほかの経営指標も検討しよう。自己資本比率(図表2左下)は買収直後は50%を超えていたが、2019年から30%以下に大きく低下した。2021年にインデックス会社のウィルシャーに出資、2025年にイベント会社インヴィッソを買収するなど事業を積極化している。慎重だった経営姿勢が攻めの経営に転じた様子が窺える。

ただ直近2025年のROAは4.4%(図表2左上)、ROEは12%(図表2右上)。ともに日経グループの水準を上回るが、振れ幅も大きく直近の数字は過去最高だった2022年に及ばない。投資成果の安定した収穫が今後の課題であることを印象付ける。

フィナンシャルタイムズの主な経営指標
図表2 フィナンシャルタイムズの主な経営指標

3.日経グループの国内売り上げ7割に

FT買収後の日経グループの海外売上高をみると、日本の売上比率(図表3左上)は、2016年当時の85%から2025年は70%へと下落している。

一方海外では市場開拓に注力している米国(同左下)は、5%未満から10%近くにまで上昇した。一方で本拠地の英国(同右上)、欧州大陸やアジア各国を示すその他地域(同右下)の売上比率も同じように上昇を続け、直近では10%を超えている。

日経新聞の海外地域別売上高
図表3 日経新聞の海外地域別売上高

4.M&Aで増えるのれん代

フィナンシャルタイムズの買収で指摘されたのが、日経が背負うことになった巨額ののれん代である。当時下記のような指摘も見られた。

最大の関心事はFT買収による「のれん代」が、なんと1555億6400万円に達したことだろう。EDINETでも入手できる前期(15年12月期)事業報告によると、FTの取得原価1663億円に 加え、アドバイザー費用などを合わせると1686億円の出費が発生したのに対し、FTの純資産は157億円。つまり10倍以上の“高値づかみ”で、差額がのれん代として計上されたのだ。

FACTA「日経「FT買収」の無残な財務」(2016年5月号)

実際詳細評価の結果、のれん代は約1000億と算定され、その後これを毎年50億円ずつ償却する方針が採られている。

バランスシートを時系列でみる(図表4)と、2020年までは順調に償却が進んできたが、FTの買収戦略の積極化で再び増加傾向を辿り、直近は800億に達している(図表上)。同時に毎年の償却負担も直近70億円にまで膨らんでいる(図表下)。

現状日経グループの収益状況は償却に十分耐えられる水準にある。しかしのれん代の大半はFTとその買収案件に集中しているとみられ、大きな減損処理を強いられた場合、グループ全体の業績に影を落とす懸念は消えていない。

日経ののれん代とのれん償却費
図表4 日経ののれん代とのれん償却費

5.日経のガバナンスに注目

日経は電子版ID契約数が106万件(2025年)に達するなど、国内メディアで唯一デジタル転換に成功している。しかし国内市場は今後縮小に向かうことが確実である。当面は紙の縮小が問題になるが、デジタルも同様の道を歩む可能性が高い。

よって日経の成長は、FTの米国市場でのデジタル戦略の成否に依存する構造が強まる可能性が高い。ここでデジタル技術の変化の速さを考えると、その成否はつまるところM&A戦略の良否が左右する。

とすれば親会社としての日経がFTをどうガバナンスするかが改めて問われる。FT買収当時の会長喜多恒雄は、そのガバナンスには意を用いた由を次のように語っている。日経・FT双方で経営の代替わりが進む中で、今後もそれが貫徹できるかが課題になるだろう。

買収直後にPMI(買収後の経営統合)の体制を確立した。FTのCEOと編集長、取締役の人事権は日経が握る、M&A案件はすべて日経の承認事項とする、月次決算の報告とCEOによる日経取締役会への定期的な経営報告を義務付ける、などだ。ヒト・モノ・カネの各面できっちりとガバナンスを効かせた。さらに日経側の代表者として会長がFTの統治代表者として最終権限を発動する体制を敷いた。(中略)僕は「経営の独立を認める」と言ったことはただの一度もなかった。

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(文中敬称略)


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