「礼の形」と「祈りの形」は似て非なるもの
先日、「黒牢城」を劇場で見た時、新作キングダム・魂の決戦の予告編を見て、どうしても見たい衝動に駆られました。
しかし、私はこの作品を1作もまともに見たことがなく、見るなら過去作品の全てを網羅しなくては楽しめません。
只今公開中のものはすでに5作目。
つまり、現在時点で過去4作品が公開されており、しかもその全てが2時間を超える長編ものです。
新作を楽しむためにとはいえ、アマプラで見ようにも、ちょっとした覚悟が必要になります(笑)
そう思って少しためらったのですが、ついに意を決して、時には寝不足になりながらも空いた時間に見終えることができました。
これでいつでも新作に臨めます。
もう一つ、唐時代の中国をモデルとして架空の時代設定の「薬屋のひとりごと」も以前から鑑賞していて、私の中で中国文化が密かなマイブームとなっています。
双方の作品は「キングダム」が紀元前の春秋戦国時代末期、「薬屋…」が唐時代なので千年以上の差がありますが、作品中に登場する中国儀礼が今さらながら気になり、後学のためにちょっと調べてまとめてみました。
というわけで、残念ながら作品の感想文ではないことを、最初にお断りしておきます。(後日、書くかもしれませんが…)
同じ動作でも手の形が違う

中国系の映画やドラマの中で挨拶するときに、両腕を前に出して軽く頭を下げる動作を見たことがありますよね?
前述の2作品でも、それぞれの手の形が違うことに気付き、きっと何か意味があるに違いないと思ってしまったのです。
調べてみると吉事と凶事など、場面によって手の位置が異なるとされ、映画やドラマで何気なく見ていたこの仕草にも、実は細かな決まりがあるようです。
1基本形の拱手
※「きょうしゅ」ともいう

片方の手を握りグーを作り、もう片方の手でそれを包み込むように覆います。
これは相手への尊敬、敬意、お祝い、感謝を表すものです。
由来は、そもそも右手は武器を持つ攻撃するための手とされ、それを左手で包んで封じ、「あなたに敵意はありません」という平和的な意思を示しています。
一般的に左手が外側で、凶事には右手が外側だとされることもありますが、実際には時と場合によって異なるため、一概には断定できないものの、手の形と意味だけは知っておきたいものです。
手を重ねる拱手
前後に重ねるパターン

中国の伝統文化では「手を重ねる」という動作は、お互いの距離を保ちつつ最大の敬意や感謝を伝え、格式高く大変美しい挨拶とされています。
古代中国では、左手が前(または上)、右手に重ねるのが敬意を表す最上の形とされているとのこと。
上下に重ねるパターン

写真下は、主に女性が右手を上にして両手を平らに重ね、それを腰やお腹のあたりに添え、膝を軽く曲げて一礼します。
これを見てふと思い出したのが、仏像の印相でした。
中国の礼法を調べているのに違うところに共通項を見つけてしまったのです。
それが長野県の善光寺に代表される「善光寺式阿弥陀三尊像」の脇侍たちが結ぶ印相・梵篋印でした。(写真上)
パッと見は同じようですが、上下の手のひらの向きが違い、両手の平が向かい合っているのは、経典を挟み持っているからだそうです。
どちらも水平に手を重ねることで、気品のある所作に見え、一見するとよく似ていますが、その意味するところはまったく異なるのです。
2抱拳礼

右手は拳にし、左手を開いた掌(パー)にして、胸の前で合わせます。
中国武術、カンフーや太極拳などの挨拶で使われ、文武両道であることや謙虚さを表しています。
左手の平は「知恵(文)」、右手の拳は「武力(武)」を象徴し、「武力をひけらかさず、礼を重んじる」という意味なのです
3作揖とは?
「拱手」と同じく、どちらも中国の伝統的な挨拶の動作です。
「拱手」が組む手の基本形でしたが、「作揖」は一連のお辞儀の動作全体を指します。
状況や相手との関係性に応じて、膝を軽く曲げたり、腕を突き出す角度や深さなど、様々なバリエーションが存在します。
したがって、「作揖」というお辞儀の中で、手を組む動作が「拱手」や抱拳礼ということになります。
中国儀礼と印相の共通点は?

上記をまとめると、中国儀礼の一連動作を「作揖」、その時の手の形は主に「拱手」や抱拳礼があり、その限られた一部に仏像の印相とかなり似たものがあるとわかりました。
ではその共通点と相違点は、それぞれどのようなものなのか?
順に整理してみましょう。
・共通点
①精神の集中を重視する、いわば身心統御。
②敬意や意思、精神性を目に見える形で表す。
③一定のルールや作法に基づき、秩序を形にする。
どちらも手や身体の形を整えることで、敬意や意思、精神性を目に見える形で表しています。
・相違点
中国儀礼の始まりは定かではないぐらいさかのぼり、実態として確認できるのは西周時代₍紀元前11世紀頃₎。
そして、今に遺る形として成立したのが、春秋戦国時代から前漢時代₍紀元前5世紀頃〜1世紀頃₎とのことで、ちょうど「キングダム」の時代背景にあたります。
儀礼は社会秩序を守るためのものであり、仏の印相はインド発祥の仏教思想に基づいたもの。
さらに言えば、儀礼は、相手への敬意を自分の所作によって表すもの。
一方、印相は、仏の悟りや教え、救済などを手の形によって象徴的に示すもの。
中国儀礼と仏の印相は同じように「手の形」を整えていても、その一連動作の意味は大きく違ってくるのです。
以上、中国文化のひとつを調べていたら、偶然にも仏像の印相との共通点を見つけてしまい深掘りしてみました。
参考にしていただけたら嬉しいです。
さて、冒頭の2作品はどちらも完結していません。
創作ものとはいえ、時代設定に伴う風習や文化のちょっとした豆知識を得ることで、ますます楽しめそうです。
ご覧になっている方、あるいはこれからご覧になる方は、以上のことを念頭に鑑賞してみるのもオツではないでしょうか。
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