軒下の琴の意味を求めて~当てが外れた藤田美術館
※当館は撮影フリ—なので
記事内の指定以外の画像は
全て4月7日に撮影したものです
今回、藤田美術館を訪れたのはどうしても見て、確認したかった事があったからです。
それは昨年の10月に訪問した明日香村・岡寺の「三重塔」にぶら下がった「琴」についての謎です。
上記記事でも書いていますが、軒下にぶら下がった琴が音を奏でるのか?
もしくは単なる飾りだとしたら、何か謂れや故事に基づく「おまじない」的な意味があるのか?

これと同じように琴をぶら下げた五重塔が描かれた絵を、なんと藤田美術館が所蔵していて、4月1日から1ヵ月間展示されるというではありませんか!
岡寺訪問での疑問を掘り下げてみる機会が、思いのほか早く訪れた事に驚きつつも意気揚々と出かけたのです。
国宝・両部大経感得図

お目当てのものはどれだと思って物色していると、一番奥でトリを飾っていました。

しかし、私が見たい方の絵がない!
実はこの国宝の「両部大経感得図」は2枚セットの大きな障壁画なのです。
私が見たかったのはもう1方の五重塔が描かれたものでした。
(下記写真右)
《両部大経感得図 りょうぶだいきょうかんとくず 左:龍猛 りゅうみょう 右:善無畏 ぜんむい》国宝
— 日本美術史bot (@NihonBijutsushi) April 2, 2025
1136年・12世紀・平安時代
絹に彩色・額
大阪・藤田美術館 pic.twitter.com/DOIb6RIFpQ
どうせならセット展示して欲しいよ💦
せこいなぁ。大きさは約179×143㎝という大きなもので、平安時代の宮廷絵師・藤原宗弘が保延2年(1136)に描いた密教仏画です。
それぞれ曼荼羅が描かれた方が表で、その裏に密教では最も重要な「大日経」と「金剛頂経」という経典の入手にまつわるシーン描かれています。
2つの経典にまつわるものだからこれを「両部大経」というのですね。
「大日経」は仏の智慧、「金剛頂経」は現実に現れた智を示しているそうです。
龍猛と善無畏
描かれている主人公はそれぞれ中国の高僧で、向かって左が「大日経」を得た龍猛、右が「金剛頂経」を得た善無畏です。
この日の展示は「大日経」の龍猛の方で、残念ながらお目当ての五重塔が描かれた方は、また後日のようです。

(現代美術家・杉本博司の作品)
さて、現地の学芸員の方の説明によると、この絵は龍猛が大日経を保管している鉄塔を訪ねて、ちょうど扉が開かれた場面です。
ところが、出迎えた武将神と金剛力士が立ちはだかり、中へ入れてくれません。
大日経は胎蔵法を説く長大な経典で難解なため、空海が胎蔵界曼荼羅にして図式化したほどのものなので、龍猛としては借りて写したかったのですが叶いませんでした。
見せてもらう事は聞き入れてもらえたので、なんとその場で見て憶えて帰ったそうです。
そんなことが可能か!
と信じられない話ですが、それだけ密教界では大事な経典なので、どうしても手に入れなくてはならないという龍猛の強い意思があればこそなのでしょうか💦
とにかく、とんでもない集中力です。
日本人が描いたからか、場所は南インドなのですが、景色は日本っぽいところが面白いですね。
その鉄塔もお釈迦さまの舎利(骨)を収めるためのもので、屋根の軒下には琴ではなく風鐸が吊るされています。
うそ!琴の存在も知らない!?
学芸員の説明が一通り終わると、すぐに私は捕まえて質問してみました。
ところが、その方は五重塔の軒下の「琴」の存在すら知らなかったのです。
あろうことか、「軒桁が出ているだけではないですか?」という返答に、思わず固まってしまうほど驚きました。
というのも、当館のHPのこの絵に関しての紹介文にちゃんと明記してあるのを私は知っていたのです。
五重塔の軒先には、風鐸(ふうたく)と箜篌(くご)が描かれています。箜篌は弦楽器で、風によって音が出ると言われています。
いやいやいや~
岡寺の事は知らなくても、展示品に関しての事ぐらいは勉強してよ。
しかもあなたの勤める美術館のホームページですよ。
と心中で思いながら、私はスマホでそこを示して見せてみました。
そこで初めて納得したようなのですが、私としては肝心な質問にも進めず、なんとも消化不良に終わりました。
当日にその絵がなくても、知っていて当然ではないでしょうか。
私には琴にしか見えなかったのですが、箜篌だという。
しかも風になびいて音を奏でるらしい。
実際に見た事はないので検索してみるとこんな画像が出てきましたが、琴というよりハープみたいでどうも形が違います。

次回、いつになるかわからないですが、「金剛頂経」を得た善無畏の五重塔の絵の展示を楽しみに待つとしましょう。
学芸員さん、その時にはちゃんと説明できるようになっていてね。
さもないと、創立者の藤田傳三郎さんが泣きますよ。
心に残った展示品たち

さて当館の今年4月の展示スケジュールは以下の通りです。

常に3つのテーマに沿って、3カ月間、1ヵ月ずつ順にずらしながら展示されています。
この日は「瀑」「巡」「似」が挙げられ、それらにまつわる展示品がありました。
そのテーマごとの記憶に残った展示美術品を紹介いたします。
「瀑」落水を望む
・竹花入 那智
特に右の「竹花入」は以前観た利休の花入れを思い出したので比べてみました。

正面中央にまっすぐに皮が剥げているのをそのまま生かして滝に見立てています。
その直線的に落ちる様子は、和歌山県の「那智の滝」のようなので、「那智」と銘されました。
・観瀑観音図
岩の上でリラックスしている観音がボーッと上方を眺めているのですが、その視線の先には滝があると考えられています。
学芸員の説明では、おそらくもう1枚、滝の絵があって一対になっていた?
もしくはもともと大きな1枚に描かれていたのを、滝のある左半分を切った?
今となっては判らないのですが、もし滝の部分が出てきたら、お宝ですね。

室町時代
「巡」名所を巡る
・平家琵琶 吉野

春に山全体が桜で彩られる吉野山を撥面である表に描き、金属製の満月があしらわれています。
平家琵琶となっていたので、平安時代の作かと一瞬は驚きましたが、さすがに江戸時代に作られたものでした。
「似」似て非なる 秘して似たる
・交跡大亀香合

交跡焼きとは中国南部で焼かれた鮮やかな色合いの陶磁器で、その香合も多く日本に伝わっているのですが、「大亀」は希少です。
右側の黄土色の物は、当館創始者の藤田傳三郎氏が長年追い求めたもので、臨終の10日前にやっと手に入れる事ができたという、大変貴重な品です。
これがそんなに値打ちがあるなんて、私には絶対に判断できません。
下手したら100円ショップにでもありそうにも見えてしまうという、まだまだ見る目のない私です。
この日は晴天だったので、庭園も散歩してみました。
旧藤田邸の庭園ですが、今は公園として無料開放されてます。
家族連れも多く、みんなゆったり春を満喫している様子に私もホッコリさせていただきました。
”謎の解明”が空振りとなりましたが、その不満もこの景色で一気に帳消しです。


いいなと思ったら応援しよう!
サポートいただけましたら、歴史探訪並びに本の執筆のための取材費に役立てたいと思います。
どうぞご協力よろしくお願いします。