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信長の“甘さ”と悲劇。長政裏切りの本質とは

※俳優名は敬称略

主役はやはり、良いように描かれます。
それが私が思う「豊臣兄弟」の率直な感想です。

大河にはお馴染みの豊臣秀吉だからこそ、過去作品の描き方とどうしても比べてしまいます。

まだ記憶に新しい2023年の「どうする家康」ではムロツヨシが秀吉でしたが、泥臭い上に野心むき出しのサイコパス的な描写でした。
その前の2020年「麒麟がくる」での佐々木蔵之介の秀吉は、飄々と明るいながらも野心をチラつかせる人物像。

今回の「金ヶ崎の退き口」も何度も描かれてきた題材ですが、そのたびに秀吉は全く違う立ち回りで表現されてきました。
そして毎回、その時の主人公に合わせて都合よくキャラクター設定され、「引き立て役」の存在でもありました。

今回の秀吉は「やりすぎクン」

さて今回の池松●●秀吉。
いきなり大声を張り上げて一同の注目を集めると、自分の右足の甲を刀でぶっ刺しました。

私も含め、視聴者はみんなギョっとしたことでしょう。
意表を衝かれて完全に一本取られました。

この狂気的な自傷行為は、良く言えば信長(小栗旬)の傷心を慮って寄り添ったものだとも取れますし、悪く言えば認めてもらうための異常な執着心にも見えます。

どちらにしても、”命を懸けた戦い”を前に、まともに戦えなくなるような事をするわけがありません。
ここまで過激な感情を笑顔の裏に秘めているのが今回の池松●●秀吉の特徴なのでしょう。

すでにタヌキじじいの家康

秀吉に対して、早くも腹黒さを見せているのが家康(松下洸平)。
そして、その様子に眉をひそめているのが石川数正(迫田孝也)です。

これは、のちに数正が豊臣家へと離反する伏線なのでしょうか?
だとすると、「どうする家康」の時とはまったく逆の理由となり、今から展開が楽しみで仕方がありません。

考察!長政はなぜ裏切ったのか

さてこの「金ヶ崎の退け口」、今まで大河でも何度も取り上げられ、長政が裏切るに至る心情もそれぞれ描かれてきました。
一般的な理由としては次の4つが挙げられます。

①朝倉氏との深い繋がりと恩義から

②信長による約束の破棄

③対等な同盟関係ではなかった

④父・久政の意向に逆らえなかった

今回も過去の大河と同様に、長政と信長の関係は個人的には良好でありながら、これらの要因に板挟みとなり、苦悩の末に裏切るという描かれ方でした。

長政の心中は?

では実際のところ、長政と信長は互いをどう思っていたのでしょうか?
長政は本当に信長に惹かれていたのか?
ちょっと妄想してみましょう。

浅井氏はまだ北近江の一国衆に過ぎず、この時点での織田氏とは大きな力の差がありました。
尾張・美濃に加え、北伊勢や南近江まで支配を広げていた織田に比べれば、浅井はまだ小勢力です。

そのため浅井は、織田とも朝倉とも「同盟」というより、主従に近い関係にあったと言えます。

そう考えると、信長が浅井を家臣扱いしたのも無理はありません。
もし織田も朝倉も浅井を軽く見ていたのなら、浅井が付き合いの深い朝倉を選ぶのも自然の流れでしょう。

つまり浅井にとっては、どちらも対等な同盟ではなく、実質的には従属関係。
―そこに苦しさがあったのだと思います―

若い長政は、もしかすると織田に未来を見ていたのかもしれません。

ロマンチスト信長クン

一方の信長は、相撲を取って心を通わせたことで、長政をすっかり信じていました。

信長の不思議なところは、その苛烈さの裏に「甘さ」がある点です。
過去にも家中の騒動で重臣に裏切られた経験がありながら、なお人を信じ続ける。

そして周知の通り、この先も近しい者に裏切られ続け、ついには大きな裏切りによって人生の幕を閉じます。

何度も何度も裏切りに遭いながらも、信長はどうして教訓を得ることができなかったのか。

本来の信長であれば、もう一歩踏み込んだ疑念を持てたはず。
それでも裏切られ続ける様を見ると、教訓は活かされなかったようにも見えます。

慎重さと大胆さ、そして甘さと残酷さ。
相反する性格を備えたのが信長です。
こうした性格こそが、日本史を大きく動かした要因なのかもしれません。

根底のテーマ「兄弟」に沿って

今年の大河の主旨はそのタイトル通り「兄弟」であり、豊臣家と織田家、それぞれの兄弟関係の対比が描かれています。

それぞれの兄弟は、織田家は激しく対立、一方で秀吉と秀長の強い絆という対照的な関係です。

織田家の兄弟争い

秀吉と秀長が仲の良い兄弟なのに対して、信長には過去に実弟と骨肉の争いがありました。

織田家のいざこざを書くには字数が膨らみすぎるので、簡単に経緯を記します。

これより14年前の1556年、粗暴な振る舞いが目立つ信長に対し、品行方正な弟・信勝(中沢元紀)が反旗を翻しました。
いわゆる稲生いのうの戦い」です。

・信長方ー森可成よしなり(水橋研二)、佐久間信盛(菅原大吉)など、兵力700。
・信勝方ー柴田勝家(山口馬木也)、林秀貞(諏訪太朗)など兵力1700。

兵力では信勝側が優勢でしたが、知略を尽くした信長が勝利。

信勝は、母・土田どた御前のとりなしで助命され、家臣の柴田・林の両名も謝罪して許されて以降は信長に従います。

しかし、信勝は懲りずに約1年後に再度謀反を企み、柴田勝家に信長が病気だと騙されて、見舞いに訪れたところを暗殺されてしまいました。

この一連の流れは、やはり悲劇としか言いようがありません。
臣下の者に裏切られて誅殺されたのを見ると、信勝も甘かったとしか言いようがありません。

もしかしたらそもそも、最初から家臣にそそのかされた上での謀反だったのかもしれません。

もし兄弟が結束していれば、織田家はさらに盤石となり、本能寺の変すらなかったかもしれない…そんな想像もしてしまいます。

もっともこの時期、兄弟や身内の争いは織田だけではありません。
武田や上杉もそうで、だからこそ天下統一を成せなかったとも言えます。

同母弟の記憶

ドラマ中には信長の脳裏に信勝のことが何度もフラッシュバックしています。
たくさんの兄弟姉妹がいた信長ですが、同じ土田御前を母とするのはこの信勝とお市の方(宮崎あおい)のみです。

現代もそうですが、母が同じならその兄弟の縁は深くなる傾向があり、信長にとって自ら死に追いやった信勝は、数ある弟たちの中でも別格だったはずです。
その弟を自らの手で死に追いやったことは、生涯消えない傷となったことでしょう。

だからこそ、義弟である長政に「心の弟」が重なったのでしょう。
そう考えると、この裏切りはあまりにも残酷です。

実弟を誅殺してまで織田家を手中に収め、やっとここまで来た信長にとって、長政の裏切りは”可愛さ余って憎さ百倍”といったところだったのかもしれません。

「兄弟」というテーマの妙

実弟を失いながらも織田家を守った信長。
兄を支え続ける秀長(仲野太賀)。

この対比こそが、今年の大河の大きな軸になっています。

脚本は八津弘幸やつひろゆきさん。
「下町ロケット」「半沢直樹」などの池井戸作品を手掛けた実力派です。

こういうヒットを飛ばした方に脚本を依頼するなんて、NHKの努力が見えますね。

今年の大河の最大の特徴は、派手な人物ではなく、あえて秀長という“地味な存在”を主役に据えたこと。
この背景には、「兄弟」というテーマで人物の内面を描き切る狙いがあり、地味な人物もこれならスポットが当たります。

もし秀長が長生きしていれば、豊臣政権の行く末も大きく変わっていたかもしれません。

今後、この兄弟がどのように描かれていくのか、引き続き注目していきたいです。


※サムネイル画像はCanvaで作成


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