丸刈りーだ|アマノ文筆クラブ作品
「マルゲリータをくれ。グラスの縁のソルトはきつめでな」
俺は場末のバーの片隅で、乾いた喉を鳴らした。
裏社会の泥水を啜り慣れた俺の五臓六腑には、あの気取ったカクテルが必要だった。
バーテンダーは何も言わず、ただ不敵に微笑んだ。
彼が懐から鈍く光る銀色のマシン――凶悪なバリカンを抜くまでは、
それが極上の夜になるはずだった。
「お待ちどうさま。何ミリにします?」
「……3ミリだ。プロなら言わせるな」
冷たい金属が俺のうなじを這う。
「うちの特製です。『丸刈りーた』」
凄まじい駆動音が静寂を切り裂き、俺の誇り高き髪が、容赦なく床へ舞い散っていく。
抵抗する気力さえ、その鮮やかな手並みに奪われた。
三分後、鏡の中には、青々とした頭皮を晒した見知らぬ男が佇んでいた。
「……悪くない。頭が軽くなった分、次のヤマへのフットワークも軽くなりそうだ」
「次は『五分刈りーだ』でお待ちしております」
俺は千円札を叩きつけ、夜の街へと消えた。吹き抜ける夜風が、いつもより容赦なく、むき出しの頭皮に染みた。
(了)
こちらに参加させていただきました。
