noteでBL、書き出しが「ふと、振り返るとそこには」「過去回帰や回想無し」縛り回。
書き出しが「ふと、振り返るとそこには」
「過去回帰や回想無し」縛り
3000〜5000字のブロマンス〜BL小説
『めぐりくるはる』
ジャンル:職業モノ、ヒューマンドラマ
■あらすじ■
とうとう国際学会の大会で講演する日がやってきて、大抵のことには動じない藤川先生もさすがにガチガチ。お供についてきた助教の南も心配顔。
寝不足と時差がたたったのか、なんとか発表を終えて戻ってきた途端ダウンしてしまい、気づくと控室のソファに寝かされていた。
南がiPadを持ってきて着信が続いてることを知らせる。そこにはまさかの名誉教授のおじいちゃん(見立先生)から着信が。
思ってもいなかったことを言われて先生は…。
『めぐりくるはる』
ふと、振り返ると、というか回転してたらそこに呆れた顔で腕組みしてこちらを見ている姿があった。
「ちょっとぉ、落ち着いてくださいよ〜さっきからぐるぐる回って何やってんですかぁ」
控室のドレッサーの前で椅子に座ったまま延々と回転しているおれに、南が言う。
おれは国際学会で表彰されて、大会で講演することになり今遠路はるばるチェコ共和国に来ている。
準備で寝不足、時差ボケ、頭は半分霞んでいてグダグダだ。
「な〜南〜、いっそもうおれの代わりに出て喋ってよ〜」
「バカ言わないでくださいよぉ、おれが出たって喋ること何もないですぅ」
南は容赦なく椅子に座るおれを強引に立たせて、手際よくジャケットを着せて、強引に会場に連行していく。
舞台袖で壁に凭れている間、南は資料が入っているパソコンを確認して、映像機器に接続する。
「内容はOKです。ん〜ここで操作するから問題はないとは思いますけど、何かあったら目配せしてくださいねぇ」
「ありがと、信じてるよ」
おれの前の発表者の先生の質疑応答が終わり、拍手と共に袖で待つおれの方に向かって戻ってくる。
"I’m really looking forward to your talk."
"Likewise.Thank you."
短く交わす。余計なことは言わない。
おれの発表の題と名前が呼ばれた。
「…行ってくる」
舞台照明に照らされたステージに踏み出す。
演台に立つとそこは思いの外暑い。
スポットライトの熱か、それともやはり緊張からかじわりと熱を感じる。
普段使わない言語で長時間話すのは神経を使う。
生まれ育ちが非英語圏で、普段仕事で読み書きこそはするけど話す機会は少ないから不慣れだ。
できるだけ丁寧に慎重に話すよう心がけ、深く息を吸う。
「本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。
本邦においては、法医心理学の正式な制度的枠組みはいまだ確立されておらず、実務の中に十分に浸透しているとは言いがたいのが現状です。
しかし私は、警察および検察の一部と協働し、トラウマ・インフォームドな聴取プロトコルを試験的に導入してきました。
まだ脆弱な取り組みに過ぎませんが、その過程で、制度内部に存在する抵抗と、予想外の支援の双方を目の当たりにしてきました。
ここ数年、重大な刑事事件において生存被害者への聴取に立ち会い、傍聴し、心理学的観点から助言を行う機会を得ています。
私の役割はあくまで心理的サポートと観察に基づく意見提示に限定されていましたが、年単位で関与することにより、面接直後の反応のみならず、長期的な心理的影響についても検討することが可能となりました。必要に応じて、然るべき専門機関への引き継ぎも行っています。
本日は、そうした実例のいくつかをご紹介するとともに、制度の確立に向けた今後の課題についてもお話しします。早速ですが、本題に入ります。」
20分ほど実例を上げながら解説をし、質疑応答に入る。
「あなたの存在が証言に意図せず影響を及ぼさないようにするにはどうすればいいでしょうか?」
「ご指摘の通り、影響がゼロであるとは考えていません。
そのため、事前に役割を明確に定義し、構造的に関与を制限しています。
私は発話内容に直接介入せず、質問も行いません。
主たる役割は聴取後の心理的安定化と、必要に応じた専門機関への橋渡しです。
むしろ問題は、心理的負荷が未処理のまま聴取が繰り返されることにあると考えています。
記憶の再活性化が再トラウマ化につながる可能性を踏まえ、その点を重点的に管理しています。
これは個人的な経験にも基づく関心ですが、聴取そのものが二次的外傷となり得ることを、私は重く受け止めています。」
会場の空気が変わる。
キーボードを打っていた音が止まり、前列で腕を組んでいた研究者がゆっくり姿勢を正すのが見えた。
最前列で腕を組んでいた若い研究者がペンを止める。後方から誰かの咳払いが小さく響く。
「ですから、私たちは“中立”という言葉を、心理的負荷を放置することと同義にしないよう、構造設計を行っています。」
打ち合わせていたとおり5名分質疑応答に答え、挨拶をして壇上をあとにした。
この時間帯の発表は自分が最後だ。
舞台袖に戻るとステージの灯りが消え、薄灯りの奥で見慣れたおかっぱ頭がこちらを振り返って見上げた。
その瞬間、緊張の糸はぷつんと切れてしまった。
ふらついて数歩、そのまま駆け寄ってきた南に縋りつくように倒れかかってしまった。
次に目が覚めると、控室のソファに寝かされていた。
どうやらおれは倒れかかってそのまま南に頭突きをかましたらしく、額に氷嚢が載っていて、南も氷嚢を頭に当てていた。
「やぁっと起きた…よく寝てましたねぇ、割と乱暴にここまで引き摺ってきたのに…いてて」
「ごめんて…」
起き上がって、氷嚢が載ってた部分を触るとまだ結構腫れている。触ると痛い。
「さっきから先生のiPadにFaceTime着信してるんで、出てあげたほうがいいですよ」
「え、誰だろ…向こうまだ朝だよね」
ドレッサーに置いたままになっていたiPadを取りに行く。
通知を見るとそこにはおじいちゃんの絵のアイコンが並んでいた。
うちのおじいちゃんといえば、見立先生…見立名誉教授様々だ。
「おじいちゃん、本当に新しいもの好きだよね…こないだおれが会議にかけられたとき空気も読まずボクもiPad買った買った、今度通話しよってはしゃいで見せてきたんだよな…」
「…大好きですよね…先生のこと…」
「うん…なんでかわからないけどね…」
こちらから改めてFaceTimeで呼び出すと、待ち構えていたのかすぐに応答した。
「ハイハイ、太陽サンサンおはようさん。ついでに発表おつかれさん。かっこよかったよォ」
文字通りの好々爺が顔をくしゃくしゃにして笑顔で言う。
朝から白髪頭をきれいにオールバックにして、髭も小綺麗に整えて着替えている。
ノリは軽いが、黙ってたらダンディズム漂うイケオジという感じだ。
良くも悪くも戦中生まれっぽくない。
「かっこよかったって何スカ、まるで見てたみたいに」
「小曽川くんがつないでくれたから全部見てたもん」
え?いつの間に?
南は相変わらずシゴでき過ぎる。おれには勿体ないくらいだ。
「いや、しかし遺伝ってのはすごいもんだね、びっくりしちゃったよ」
「え?」
「立ち姿も、振る舞いもよく似てるよ。あと、耳の形とかも、お父さんに…まあボクは直接知り合いじゃなかったけどね」
「……そう、なの……?」
不意打ちだった。
見立先生がお父さんのこと知ってるなんて話、今まで一度も聞いたことなかった。
「そうだよぉ。てかね、水面下でそんな熱心に働きかけてたとは思わなかったよ?言ってくれたら政治屋さんでも法曹関係者でも紹介するのに、水くさいなあ」
「いや、だって、おれ自体問題児ですしそういうわけにも…」
口籠って言うと、先生はカッカッカと高らかに笑った。
「いいから、帰ったらできるだけ協力するから、早く戻ってらっしゃい。じゃあ出勤するからまたね、
バイバーイ」
おじいちゃんは抱っこしてたマルチーズのお手手を持って手を振ってから、通話画面を切った。
「観光したかったけど、こりゃ早く帰らなきゃいけないな」
おれが髪をくしゃくしゃ掻き乱しながら言うと、意地悪く笑って南が近づいてきて椅子を180度回す。
「ほんと、みんな甘いですよねぇ。先生、自分が可愛いってわかっててこのキャラやってるでしょ?」
「キャラってなんだよォ」
おれが尖らせて突き出した唇を南が摘んで左右に揺する。
されるがままになっていると、聞き捨てならぬ情報が出てきた。
「ほら、そういうとこですってぇ。やれやれ、この人は…もうすぐおじいちゃんになるってえのに…」
!?!?!?
おじいちゃん!?誰が?おれが?は!?
「に、に、妊娠してんの、ゆめ」
「や、近い将来多分そうなるって話ですよお」
一瞬上がったテンションが一気に下がった。
「んだよ〜…」
まったく、我ながらぬか喜びにもほどがある。
でも、いいなあ、おじいちゃん…自分にもおじいちゃんって呼ばれるような未来があったんだと思うと生き延びた甲斐があるってもんだ。
お父さんも呼ばれてたように「先生」って呼ばれるようになったのと同じくらい感慨深い。
年を取るのも悪くないな。
「南、帰ったら早速顔合わせセッティングしてよ。ゆめには、これ終わるの待たせて悪かったって伝えて?」
南は言われるや否や、素早くおれのiPadを奪い、ブラウザを立ち上げて予約サイトを開いておれに提示する。
「言われなくてもそのつもりで動いてますよぉ、個室で食事だとやりづらいでしょ?ここでヌン茶にしましょうよ〜。目つけてたんですよぉ前から〜」
ちゃっかり自分の行きたい店を指定する辺り、さすが。仕事ができる。
「いいよ、任せるよ」
色々ありすぎて春は豪速で過ぎてったけど、やっと心穏やかに向き合えそうだ。
「ほら、先生はそろそろ顔出さないと」
iPad引き換えに出された名刺を補充したカードケースを受け取って、おれはレセプション会場に向かった。
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あとがき:
地味に本編の続きを書きたいストレスがあったので書いてしまいましたすみません…このまま本編に組み込めそうな内容になってしまった…。
今回は、前回のお話で子供だった「藤川先生」の「今」です。
見えないところでお父さんのおかげで守られてたり、可愛さに身を助けられてたり、悪くない未来を歩んでいるなと思いました。
どこがBLかというと…実はおじいちゃん先生→藤川パパ、です!( ◜ᴗ◝ )ウフフ…💘
藤川先生の魔性はパパさん譲り…。

