英EV義務2030年目標の緩和を検討 世界自動車朝刊2026年8月15日
今日の結論
今日の主役は、EVそのものではなく、EVを普及させる条件の見直しだった。
イギリス政府は、2030年に新車販売の80%をZEVとする現在の義務について、50%程度まで引き下げる選択肢を含む制度見直しの協議を開始した。BEV販売は伸びているものの、需要と規制目標の間に依然として差がある。(Reuters)
北米ではStellantisが、アメリカの関税政策を受けてJeep Compassの生産をイリノイ州へ移した結果、停止状態となったカナダ・ブランプトン工場の売却を検討している。(Reuters)
一方、南アジア・東南アジアでは中東情勢による軽油高が、中国製電動大型トラックの経済性を一気に改善し、輸出台数を押し上げている。(Reuters)
今日の三つのニュースをつなぐと、電動化は「いつBEVになるか」という技術ロードマップではなく、規制、関税、燃料価格、工場稼働率によって速度と形が変わる産業現象になっている。
1. イギリス、2030年ZEV義務の緩和を検討――「目標」から「実需」へ
イギリス政府は8月14日、ZEV Mandateの2030年目標について見直し協議を開始した。現在は、新車販売に占めるZEV比率を2026年33%から段階的に引き上げ、2030年には80%とする制度になっている。しかし政府が示した複数案のうち三つでは、2030年の目標を50%程度まで引き下げる可能性がある。2035年に新車を原則ゼロエミッション化する最終目標自体は維持する方向だ。(Reuters)
これはかなり重要な変化である。
イギリスの7月BEV比率は27.4%まで上がっている。それでも、メーカーが要求される33%には届かない。SMMTは以前から、メーカーが目標達成のため大規模な値引きを行い、EV普及コストを自ら負担していると警告してきた。(Reuters)
つまり政策側も、「規制目標を高く置けば市場が追いつく」という段階から、「消費者需要とメーカー収益が耐えられる速度へ調整する」段階へ入りつつある。
これはEV政策の撤回ではない。2035年という出口は残す一方、途中の普及曲線を現実へ近づけようとしている。ヨーロッパ各国が今後同じ議論を始めるかは、重要な継続観測点になる。
2. Stellantis、カナダ・ブランプトン工場の売却を検討
カナダの自動車労組Uniforは、Stellantisからオンタリオ州ブランプトン工場の売却を検討しているとの通知を受けたと明らかにした。(Reuters)
同工場は2024年に改修のため閉鎖され、当初は2025年からJeep Compassを生産する予定だった。しかしアメリカがカナダ製品へ関税を導入したことで計画は停止され、StellantisはCompassの生産をアメリカ・イリノイ州へ移した。(Reuters)
ここで興味深いのは、工場の将来を巡って中国のLeapmotorも登場していることだ。
Stellantisは以前、Leapmotor製EVをカナダで生産する選択肢を検討していると報じられていた。しかしUniforは、中国企業との共同生産に強い懸念を表明している。(Reuters)
つまりブランプトン工場は、カナダに残すか、アメリカへ生産を移すか、中国系メーカーとの生産拠点として使うか、売却するかという、現在の北米自動車産業が抱える選択肢を一カ所に集約したような工場になっている。
前日版で見たUSMCA再交渉やFordのLincoln米国移管の続報ではあるが、今回は実際の工場資産そのものが宙に浮いたという点に新規性がある。関税政策は、輸入価格だけではなく、工場の価値まで変え始めた。
3. 軽油高で中国製電動トラック輸出が急増――商用EVの経済性が逆転
中国から南アジア・東南アジアへの電動大型トラック輸出が急速に増えている。Reutersによると、中東情勢が悪化した2月28日以降の4カ月間で、中国の大型電動トラック輸出は前年同期比で2倍以上の1万6,823台となった。このうち約半数が南アジア・東南アジア向けで、南アジア向けは5倍以上、東南アジア向けは約3倍となった。(Reuters)
最大の理由は燃料価格だ。
スリランカでは軽油価格が48%、フィリピンでは57%上昇した。Sanyによれば、電動大型トラックの購入費を燃料節約で回収する期間は、従来の約28カ月から約18カ月へ短縮したという。(Reuters)
乗用EVでは車両価格、航続距離、ブランドなどが購入判断を左右する。
しかし商用車では事情が違う。
トラックは走行距離が長いため、燃料単価が少し動くだけでもTCOが大きく変わる。
そのため電動トラックは、環境規制によって普及する商品ではなく、燃料代が高くなった瞬間に経済合理性で普及する商品になり得る。
中国国内ではすでに大型電動トラックがトラック販売の約30%を占め、2026年上半期だけで14万台が販売された。中国メーカーは今後、ヨーロッパだけでなく、東南アジア、アフリカ、中南米へ販売先を広げようとしている。(Reuters)
これは乗用EVとは別ルートで、中国の電動化技術が世界市場へ広がる可能性を示している。
今日の小さな変化
Teslaが、長年延期してきた新型Roadsterを早ければ8月中にも披露する可能性があるとThe Informationが報じ、Reutersも伝えた。(Reuters)
商品としては注目されるが、現時点では正式発表ではなく、Teslaや世界EV市場の事業構造を変える材料とも言いにくいため、今日は主軸には置かない。
また8月14日付で、中国メーカーの海外販売拡大を整理したReutersの分析も出ているが、国内販売減・輸出急増という基礎データは今週すでに扱っているため、重複を避ける。(Reuters)
今日の読み筋
8月15日土曜版のキーワードは、「電動化を動かすのは技術だけではない」である。
イギリスではEV規制が市場需要に合わせて修正される可能性が出てきた。カナダでは関税によって工場の生産計画そのものが消え、売却まで検討されている。南アジア・東南アジアでは、中東情勢による軽油高が電動トラックの投資回収期間を一気に短くした。
EVが普及するかどうかを、電池価格や航続距離だけで説明することはますます難しくなっている。
政策が変われば販売比率が変わり、関税が変われば工場が動き、原油価格が変われば商用EVの採算が変わる。
世界の自動車電動化は一つの技術曲線ではなく、地域ごとの規制・貿易・エネルギー価格が作る複数の曲線へ分かれている。
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