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中国SNSのREDは新車発表会と都市をどう「売り場」に変えた?

©CHINA CASE

膨大なSNS生活者ビッグデータでプラットフォームが自動車事業を牛耳る方法論(3)


中国のSNS「小紅書(RED)」が中国自動車フォーラムで提示した自動車マーケティング事例の中でも、吉利星願と小米SU7は、同社の事業範囲がオンライン広告にとどまらないことを明確に示している。

吉利(GEELY)星願では、REDが新車発表会そのものの企画へ入り、会場を複数の生活シーンで構成された巨大なコンテンツ制作拠点へ変えた。

小米(Xiaomi)SU7では、一つのボディカラーを、癒やし、自由、洗練、余白といった感情へ翻訳し、都市空間、カフェ、地域イベント、試乗、UGCへ拡張した。

両者に共通するのは、新車やボディカラーを宣伝するだけではなく、ユーザーが撮影し、検索し、共有し、問い合わせたくなる環境そのものを設計している点である。

さらにREDは、ブランド公式、地域販売店、営業担当者をそれぞれ発信者として組織し、SNS上の関心を現実の店舗や商談へつなげようとしている。

これは、SNSを広告媒体として使う発想とは異なる。

発表会、都市、店舗、人を一つのメディアとして扱い、自動車販売の全工程をコンテンツ化する試みである。

吉利星願でREDが新車発表会そのものを主導

吉利星願の事例で最も注目されるのは、REDが新車発表会の宣伝だけでなく、発表会そのものの設計へ深く関与した点である。

通常、SNSプラットフォームは、新車発表会の前後に広告を配信し、KOLを招待し、ライブ配信や関連投稿を増やす役割を担う。

発表会の企画自体は、自動車メーカー、広告代理店、イベント会社が担当することが多い。

しかし吉利星願では、REDが生活者インサイト、コンテンツ設計、クリエイター運営、検索、ライブ、販売転換までを一体化した。

つまり、REDは完成した発表会を拡散する媒体ではなく、発表会をどのような体験として作れば、投稿、検索、購買意欲が生まれるかを考える企画者として入った。

この変化は大きい。

発表会は従来、メーカーが商品情報を発表する場所だった。REDの構想では、発表会は、ユーザーが商品を自分の生活へ置き換え、その体験を自ら撮影・発信する場所になる。

中国の新車発表会が陥る「千場一面」

中国の自動車市場では、毎週のように新車発表会が開かれている。

多くの発表会では、創業者や経営幹部が登壇し、デザイン、航続距離、加速性能、スマートドライビング、コックピット、価格などを順番に説明する。

大型スクリーンに競合比較表が映し出され、「同価格帯で最大」「業界初」「百万級体験」といった言葉が並ぶ。

こうした形式は情報を効率的に伝えられる一方、発表会ごとの差が小さくなりやすい。

REDは、これを「千場一面」、すなわち、どの発表会も似たものになる問題として捉えている。

特に若いユーザーにとって、新車発表会は長く、技術説明が多く、商品との距離を感じやすい。

発表会を視聴しても、仕様や価格は分かるが、その車が自分の生活でどのような意味を持つのかまでは想像しにくい。

そこで吉利星願では、パラメーターを中心とした発表会から、生活シーンを中心とした発表会へ転換した。

スペックを五つの生活シーンへ翻訳

吉利星願の発表会では、会場内に複数の没入型生活シーンが設けられた。資料では、シルクロード、江南の路地、熱帯雨林、地中海の港、草原という五つのテーマが示されている。それぞれが異なるユーザー像と車両価値を表現している。

シルクロード:家族と長距離移動

シルクロードのシーンは、長距離旅行、家族、安全性を象徴する。ここで表現されるのは、単なる航続距離や車体剛性ではない。

家族を乗せ、遠くまで安心して移動できるという生活体験である。技術的な安全性能は、家族旅行への安心感へ翻訳される。

江南の路地:都市生活と取り回し

江南の狭い路地は、若い女性、街乗り、駐車、取り回しを表現する。車体サイズ、旋回性能、駐車支援などを、都市部の日常へ置き換える。

「小回りが利く」という説明よりも、狭い路地や駐車場で扱いやすい場面を見せる方が、ユーザーは自分の生活を想像しやすい。

熱帯雨林:ペットとアウトドア

熱帯雨林は、ペット、キャンプ、荷室、自然との接点を表現する。

荷室容量やシートアレンジを数値で説明するのではなく、ペット用品やキャンプ道具を積み、郊外へ出かけるシーンとして見せる。

商品の実用性が、週末の自由へ変換される。

地中海の港:デザインとファッション

地中海の港は、車のデザイン、色、ファッション、撮影との相性を表現する。

自動車を移動手段ではなく、人物や街並みと一緒に写るライフスタイル商品として扱う。

ここでは、車そのものが撮影対象であると同時に、ユーザーの自己表現を引き立てる背景になる。

草原:航続距離と自由

草原は、旅行、航続距離、開放感、自由を象徴する。

航続距離を「何km走れるか」という数字から、「どこまで行けるか」という感情へ置き換える。

REDが行っているのは、技術を隠すことではない。

安全、駐車支援、荷室、デザイン、航続距離などの機能を、ユーザーが撮影し、共有できる生活体験へ翻訳することである。

発表会を「見る場所」から「作る場所」へ

従来の新車発表会では、来場者はステージを見る側にいる。メーカーが情報を発信し、メディアや来場者がそれを受け取る。

吉利星願の発表会では、この関係が変わった。

来場者やクリエイターは、用意された生活シーンの中に入り、自分自身で写真や動画を制作する。

発表会は商品情報を受け取る場所ではなく、商品を使ったコンテンツを作る場所になる。

REDの資料では、200人を超えるクリエイターと、約500のメディアが参加したとされる。

重要なのは、単に多くの発信者を招いたことではない。

会場そのものが、異なるジャンルのクリエイターが投稿を作りやすい構造になっていた点である。

  • 自動車系は性能や試乗を撮影する

  • ファッション系は車と人物の組み合わせを撮影する

  • ファミリー系は家族利用を表現する

  • ペット系は愛犬との外出を撮影する

  • 旅行系は遠出や風景との相性を発信する

  • ライフスタイル系は日常のワンシーンとして紹介する

同じ車が、発信者ごとに異なる意味を持つ。この多様性が、UGCの量だけでなく、ユーザー層の広がりを生む。

UGCは自然発生ではなく「設計」される

UGCは一般に、ユーザーが自主的に作る自然なコンテンツと考えられている。しかし、企業マーケティングにおけるUGCの多くは、完全な自然発生ではない。

投稿しやすいテーマ、撮影場所、話題、ハッシュタグ、人物、音楽、商品体験が用意されることで生まれる。

吉利星願の発表会では、投稿の方向性も生活テーマごとに整理されている。例えば、

  • 社会人になったばかりの若者

  • 恋愛やデート

  • ファッション

  • アウトドア

  • ペット

  • ファミリー

  • 女性の都市生活

  • 週末旅行

といった切り口である。自動車メーカーが「自由に投稿してください」と依頼するだけでは、似た外観写真や仕様紹介が大量に生まれやすい。

REDは、異なる生活者が異なる角度から車を解釈できるよう、投稿の入口を複数用意する。

UGCの自発性を完全に管理することはできないが、UGCが生まれやすい条件は設計できる。

吉利星願の事例は、その設計を発表会の空間から始めたものといえる。

「星願」と「心願」を結び付ける

吉利星願の事例では、車名の「星願」と、人々が心に抱く願いを意味する「心願」を結び付ける情緒設計も行われた。

中国語では両者の音が近く、言葉遊びとしても成立しやすい。

さらに国民的に知られる楽曲や記憶と結び付けることで、商品名を単なる固有名詞ではなく、感情の入口へ変える。

この構造は、

車名

言葉の連想

音楽や記憶

個人の願い

投稿

という流れになる。自動車ブランドが商品名を覚えてもらうために、広告を大量に配信する方法もある。

しかし、ユーザー自身の思い出や願いと結び付けば、商品名はより感情的に記憶される。

REDは、商品を生活シーンだけでなく、言葉、音楽、記憶へ接続する。これは、同社がいう「情緒価値」を発表会へ実装した例である。

発表会後の検索を占有する

新車発表会で話題が生まれても、ユーザーが後日検索した際に、情報が分散していれば関心は失われる。

競合車との比較記事、否定的な投稿、古い情報、非公式な価格情報などが検索結果を占める可能性もある。

そこでREDは、発表会と検索を一体で設計する。ブランド名や車種名を検索した際に、

  • ブランド公式情報

  • 商品ページ

  • 発表会動画

  • 著名人の投稿

  • クリエイターの体験

  • オーナーや一般ユーザーのUGC

  • 販売店情報

  • ライブ配信

  • 問い合わせ導線

がまとまって表示される環境を作る。これは「検索品専」と呼ばれるブランド専用の検索体験に近い。

重要なのは、検索結果を広告だけで埋めることではない。

公式情報、第三者の体験、購入導線を組み合わせ、ユーザーが検索後に次の行動へ進みやすくすることである。

二重ライブで認知と販売を分ける

吉利星願では、ライブ配信も一種類ではない。

ブランド側が行うKOB型のライブと、販売店や営業担当者が行うKOS型のライブを組み合わせる。ブランド側のライブは、

  • 新車の位置付け

  • デザイン

  • 技術

  • 価格

  • 発表会の世界観

を伝える役割を持つ。一方、販売店や営業担当者のライブは、

  • 実車の細部

  • グレードの違い

  • 納期

  • 地域の試乗車

  • 購入条件

  • ユーザーからの質問

  • 店舗への誘導

を担当する。認知を作るライブと、商談へ進めるライブを分けることで、発表会の熱量を地域の販売現場へ渡す。

ブランド公式だけでは対応しきれない個別の質問を、販売店や営業担当者が受け止める構造である。

吉利星願の成果数字をどう見るか

REDの資料では、吉利星願の施策成果として、複数の数字が提示されている。

  • 検索数370万件超

  • 人群資産4,500万超

  • 14日以内の購入転換率19.65%

  • 自動車検索熱度1位

  • 販売台数3万8,751台

これらは、REDが発表会、検索、UGC、販売導線を一体化した効果を示すものとして提示している。

ただし、数字の評価には注意が必要である。

検索数や人群資産の定義、計測期間、購入転換率の対象母数などは、公開資料だけでは十分に確認できない。

また、実際の販売台数は、価格、商品力、販売店網、補助政策、納期、競合状況などにも左右される。

吉利星願の販売実績を、REDの施策だけの成果と見ることはできない。より客観的には、

REDは、発表会で生まれた認知を検索・UGC・ライブ・販売店へつなげ、自社プラットフォーム上で購入に近い行動まで追跡できることを示そうとしている

と捉えるべきである。

小米SU7:「カプリブルー」を色ではなく生活へ変える

小米SU7の事例では、吉利星願のように発表会全体を再設計するのではなく、一つのボディカラーを中心にマーケティングを展開している。

対象となったのは、「カプリブルー」と呼ばれる青系のボディカラーである。

自動車のボディカラーは、通常、商品カタログや広告で視覚的に紹介される。人気色、限定色、若者向け、女性向け、スポーティーといった分類がされることも多い。

しかしREDは、青を単なる色として扱わなかった。青に対するユーザーの投稿や反応を分析し、

  • 癒やし

  • 静けさ

  • 自由

  • 洗練

  • 高品質

  • 余白

  • スローライフ

  • 自然

  • 都市的な美意識

といった複数の感情や価値へ分解した。そのうえで、同じカプリブルーを、異なる生活者に異なる意味で届けた。

三つの生活者像に分ける

REDの資料では、青に反応するユーザーを複数のタイプへ整理している。

松弛追求者

「松弛感」は、中国の若者文化で近年よく使われる言葉である。力を入れすぎず、他人に急かされず、自然体で余裕を持つ状態を指す。松弛追求者にとっての青は、

  • 森林

  • 静けさ

  • 癒やし

と結び付く。この層には、車のスポーティーさよりも、忙しい都市生活から一時的に離れられる感覚を提示する。

克制美学派

克制は、過剰に装飾せず、抑制された美しさを好む価値観である。この層にとっての青は、

  • 建築

  • 直線

  • 余白

  • ミニマルデザイン

  • 洗練

  • 冷静さ

と結び付く。小米SU7のボディラインや色を、派手さではなく、抑制された都市的な美学として見せる。

生活留白家

生活留白は、予定や仕事で日常を埋め尽くさず、自分のための余白を残す考え方である。この層にとっての青は、

  • 犬との散歩

  • カフェ

  • 休日

  • コーヒー

  • ゆっくりした移動

と結び付く。車を速く目的地へ到達する道具ではなく、急がずに過ごす時間を支える存在として表現する。

車ではなく「Chill Moment」を売る

小米SU7のカプリブルー施策では、「Chill Moment」という考え方が使われている。

ここで売られているのは、青い車そのものではない。誰にも急かされず、目的地を急がず、自分の時間を過ごせる一瞬である。

自動車広告では、スピード、性能、自由、冒険などが描かれることが多い。小米SU7自体も、スポーティーなデザインや走行性能を強く訴求してきた。

しかしカプリブルーでは、速度とは反対の価値を加えている。

  • 静かな街を歩く

  • カフェで過ごす

  • 光と影を見る

  • 愛犬と出かける

  • 都市の中で立ち止まる

  • 急がずに運転する

これにより、小米SU7の人格を、単なる高性能EVから、都市生活の余白を象徴する商品へ広げている。

張園や静安の街そのものをブランド空間にする

小米SU7の施策では、上海の張園や静安など、都市の象徴的な空間が使われた。

張園は、歴史的な石庫門建築と現代的な商業空間が混在する場所である。静安は、カフェ、ファッション、建築、都市生活との親和性が高い。

こうした場所にカプリブルーの車を配置することで、色を都市の景観や生活と結び付ける。ユーザーは車だけを撮影するのではない。

  • 歴史的建築と車

  • カフェと車

  • 街歩きと車

  • ファッションと車

  • 光や影と車

  • 人物と車

を一つの画面に収める。ここでは都市そのものが広告背景になり、同時にコンテンツ制作の舞台になる。

REDは広告看板を増やすのではなく、ユーザーが自然に写真を撮りたくなる都市空間を作る。

その写真がREDへ投稿され、検索され、保存されることで、現実の街とオンライン上のブランド空間がつながる。

カフェ、AI体験、試乗を一つの回遊動線へ

都市イベントでは、車両展示だけでなく、カフェ、AI体験、フォトスポット、試乗などを組み合わせる。ユーザーは、

街を歩く

車を見つける

写真を撮る

カフェや展示を体験する

REDへ投稿する

車種や色を検索する

試乗する

という流れでブランドと接触する。従来のモーターショーや販売店では、車を見に行くこと自体が目的になる。

小米SU7の都市施策では、街歩きやカフェ利用の途中に車との接点を作る。まだ購入を考えていない人にも接触できる点が重要である。

自動車を自動車売り場から外へ出し、日常の都市生活へ埋め込む。

これはREDが持つファッション、カフェ、旅行、都市散歩などのコミュニティと、自動車を接続する方法である。

全国展開では同じ「青」を地域ごとに翻訳

カプリブルーの施策は、上海だけに限定されない。資料では、新疆、湖北、四川、福建、広東、湖南など、複数地域への展開が示されている。

ここで重要なのは、上海のイベントをそのままコピーしないことである。同じ青でも、地域によって結び付く景観や感情が異なる。

  • 新疆:空、湖、雪山、広大な自然

  • 四川:山、霧、森林、ゆったりした生活

  • 福建:海、島、港町

  • 広東:都市、海岸、夜景

  • 湖北:湖、川、都市と自然

  • 湖南:山、水、若者文化

ブランドの中心にある「カプリブルー」は維持する。一方で、その色を地域の景観、文化、生活へ翻訳する。

これにより、全国共通のブランド資産と、地域ごとの親近感を両立させる。REDが提案しているのは、全国へ同じ広告素材を配信する方法ではない。

一つのブランドテーマを、各地域の生活へ適応させる「地域翻訳」である。

吉利星願と小米SU7の違い

吉利星願と小米SU7は、どちらも生活シーンやUGCを重視しているが、その使い方は異なる。

吉利星願では、新車発表会という短期間に注目が集中するイベントを、巨大なコンテンツ制作拠点へ変えた。

  • 商品全体を扱う

  • 複数の生活シーンを用意する

  • 多数のクリエイターを招く

  • 検索、ライブ、販売へ一気につなぐ

一方、小米SU7では、一つの色を長期的なブランドテーマへ育てた。

  • 一つのカラーを扱う

  • 感情や価値観へ分解する

  • 都市や地域へ展開する

  • 日常の中でUGCを蓄積する

吉利星願は、発表会を起点とする集中型。小米SU7は、色を起点とする拡散型。

共通しているのは、商品を説明するのではなく、ユーザーが商品を自分の生活に取り込める場を作ることである。

KOB、KOb、KOSで販売組織全体をメディア化

REDの自動車事業構想は、発表会や都市イベントだけでは完結しない。最終的に重視されているのが、ブランド、販売店、営業担当者を一つの発信組織として動かすことである。

資料では、KOB、KOb、KOSという三層構造が示されている。

KOB:ブランドと影響力のある発信者

KOBは、ブランド公式、著名人、大型KOLなど、広い認知を作る存在である。主な役割は、

  • ブランドの世界観

  • 新車の位置付け

  • 商品の主要価値

  • 大型イベント

  • 話題形成

である。KOBは多くの人へ届く一方、個別の購入相談には向かない。

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