【特集 医療的ケアが必要な子どもと,きょうだい, 家族によりそう ①医療的ケアが必要な子どもと, きょうだい,家族によりそう】
ひばりクリニック,認定特定非営利活動法人うりずん 髙橋昭彦
2025年6月号の特集は「医療的ケアが必要な子どもと,きょうだい, 家族によりそう」。そのなかから紹介する1本目の論文は,医療的ケア児の暮らしを取り巻く多くの課題と取り組みについて,医療関係者の視点からをご執筆いただきました。
※こちらの記事は,『チャイルドヘルス2025年6月号』に掲載されたものです.記事の著作権は株式会社診断と治療社に帰属しており,無断での転載は禁止されています。

はじめに
医療の進歩によって,人工呼吸器や,気管切開,経管栄養,酸素吸入などの医療的ケアが必要な子ども(医療的ケア児)が増えています。しかし,医療的ケアがあることで,外出や食事,お風呂などには,多大な時間と労力が必要になります。また,保育や教育,就労などの,育ちや社会参加についても,かなりの制限を受けています。
ここでは,医療的ケア児にはどんな子どもがいるのか,2021 年に施行された医療的ケア児支援法,そして,医療的ケア児の暮らしの現状と課題に触れ,子どもの育ちと今後のために必要なことを考えてみたいと思います。
医療的ケア児とは
生まれたばかりの赤ちゃんや救命された子どもが,すぐに「医療的ケア児」とよばれることはありません。子どもが自分で呼吸ができない場合,人工呼吸器をつけます。自分でミルクが飲めない場合には,鼻から管を入れてミルクを注入します。
病院での治療を受け,多くの子どもは,やがて自分で呼吸をし,ミルクを飲むようになり,必要のない管を抜いて退院していきます。それでも,どうしても管が抜けない子どもが「医療的ケア児」とよばれるようになるのです。現在,在宅で暮らす20 歳未満の医療的ケア児は,およそ 2 万人で,そのうち,4 分の 1 以上が人工呼吸器をつけた子どもです(図 1)。人工呼吸器が常時必要な子どもは,片時も目が離せなくなるため,家族への負担が特に大きくなります。

医療的ケア児には,寝たきりでかつ,重い知的障害を有する「重症心身障害児」が多いのですが,歩ける,走れる,など移動能力がある子どもが 3 割ほどいます。知的障害がない子どももいます。多様な医療的ケア児を受け入れるには,準備と配慮が必要となります。
医療的ケア児支援法
2016 年に児童福祉法が改正され,法律のなかに医療的ケア児の文言が初めて明記されました。やがて,永田町子ども未来会議の発案で,超党派の議員立法として医療的ケア児支援法案が国会に提出され,2021 年 6 月に成立,同年 9 月に「医療的ケア児支援法(以下,支援法)」が施行されました。
支援法では,医療的ケア児とその家族の生活を社会全体で支援すること,国,自治体,保育所や学校の設置者等の責務を明らかにし,家族の離職防止に資すること,安心して子どもを生み育てることができる社会の実現に寄与することがうたわれています。さらに,医療的ケア児が医療的ケア児でない児童とともに教育を受けられるよう最大限配慮することや,医療的ケア児が 18 歳以上となったあとも支援をすること,医療的ケア児とその保護者の意思を最大限に尊重すること,地域間格差をなくしていくことなども盛り込まれています。支援法により,各都道府県に,「医療的ケア児支援センター」が設置され,各地の取り組みが加速しています。
子どもと家族の暮らしの課題
医療的ケア児と家族の暮らしの課題をひと言で表すと,「親の代わりができる人がその地域にいない」ということです 1)。医療的ケア児の世話には,技術と経験が必要で,個別性も高いため,たとえ親戚や友人であったとしても,他人に預けることは容易ではありません。
子どもや家族の状況,地域によっても違いますが,暮らしの課題の一部をお伝えします。
1) 外出は容易ではない
医療的ケア児の外出には,「家出するくらいの荷物」が要るといわれます。まず,医療機器や備品を置くスペースのある車いすを用意します。医療的ケア児の車いすは折りたたみしないことが多く,車いすを搭載できるリフト車やスロープ車を入手する必要があります。また,安全に車で移動するには,医療的ケアに対応できる人材と運転する人の 2 人の同乗が必要です。
2) 日々の子育ての負担がある
ミルク,おむつ,お風呂 2),あやす,寝かせるなどの通常の子育てに加え,24 時間の医療的ケアを行うと,親の余裕はなくなります。筆者がかかわった,医療的ケア児とその家族の生活実態調査では,家族の抱える生活上の悩みや不安等として,「慢性的な睡眠不足である」「いつまで続くかわからない日々に強い不安を感じる」が「当てはまる」「まあ当てはまる」と答えた人は,7 割を超えていました 3)。
3) 保育施設に入ることが難しい
医療的ケア児を受け入れる保育施設(保育所,幼稚園,認定こども園)は徐々に増えてはいますが,まだ多くはありません。連絡したらすぐに駆けつけられる状態にしてほしいといわれると,親はいつ呼ばれるかわからない状態で仕事を続けることになります。人工呼吸器をつけた子どもの場合は,入園できる保育施設がひとつもない地域が少なくありません。
4) 学校へ通学するための負担が大きい
文部科学省の実態調査によると,2023 年5 月の時点で,特別支援学校に通学する医療的ケア児 6,674 人のうち,学校生活で保護者等が医療的ケアを行うために付き添いしていたのは 336 人,一般の幼稚園, 小・中・高等学校に通学(園)する医療的ケア児 2,199 人のうち,同じく保護者等が学校に付き添っていたのは, 426 人でした 4)。入学後も,学校看護師への引継ぎの期間は,親は学校に滞在を求められます。校外待機となっても,何かあればいつでも連絡が来ます。医療的ケアがあるとスクールバスに乗れず,親が個別で送迎を要することが少なくありません。
5) 18 歳の壁がある
障害児が大人へ移行する年齢(18 歳)に,利用している制度やサービスの根拠法が変わるため,生活に支障が出ることがあります。これが「18 歳の壁」です。たとえば,高校を卒業すると,進学や就労以外の日中活動の場所として,「生活介護」というデイサービスの制度があります。しかし,医療的ケアがあると利用できる生活介護は少なく,終了時間も早いことが多いので,親の就労の時間が減る原因にもなります。本人も,家で過ごす時間が長くなり, 社会参加の機会が減ってしまいます。また,この時期は,病院主治医が小児科から成人の診療科に替わりますが,さまざまな理由で円滑な移行は難しいのが現状です。
あったらいいな,というしくみ
医療的ケア児の育ちと自立,今後の家族の暮らしにとって,あったらいいな,というしくみについて述べます。
1) 身近なところに通うことができる
制度上は,就学前は保育施設や児童発達支援,学齢期は学校と放課後等デイサービス,卒後は生活介護などに通うことができますが,かなり 限られたところしか利用できないのが現状です。できれば,30 分くらいまでで行ける身近なところへ通えるとよいでしょう。安全,安心のケアを受けつつ,人と交流し,楽しい場所が必要です。


2) 親に頼らずに外出ができる
大人になったら,通院,通所に限らず,親に頼らずに外出できるとよいです。スーパー,公園,行楽地などに,自動車だけでなく,バスや電車など公共交通機関を使って出かける日常を目指しましょう。そのためには,親に代わって医療的ケアができるヘルパーを地域で育成する必要があります。


3) 何かのときに安心して利用できる預かり先(レスパイトケア)がある
たとえば,母親が急病で入院したときに,医療的ケア児が泊まれるところが必要です。レスパイトケアは,障害のある人を預かって,介護者をケアから解放する広い概念です。泊まりのレスパイトケアは短期入所とよばれ,福祉施設に泊まる「福祉型短期入所」と,医療機関に泊まる「医療型短期入所」があります。また,医療保険を使用して「レスパイト入院」する場合もあります。いきなりではなく,利用回数を重ねてスタッフと子どもの関係性があるほうが,子どももスタッフも安心できるのではないでしょうか。
4) きょうだいに対する理解が進む
病気や障害のある子どもの兄弟姉妹は「きょうだい」と表現されます。いつも後回しになりがちで,我慢していることが多いきょうだいには, 周りの大人たちが,名前で呼んで声をかけ,「あなたに関心をもっているよ」ということを伝えましょう。きょうだいの声に耳を傾け,きょうだいの支えになれる人が,増えることを願っています。
5) 親から自立する
医療的ケア児の多くは,すくすくと大きくなり,親も年を重ねていきます。これまでは,ほかに選択肢がなく,親が人生をかけて医療的ケア児の世話をしてきました。しかし今では,法律も,いろんなサービスもできています。親が介護できなくなる時期はいずれきます。できれば, 早いうちから親以外の他人が暮らしにかかわり,子どもが頼れる大人を増やしていきましょう。そうすれば,親は愛情を注ぎつつも,介護の手を引くことができます。最終的に,医療的ケアが必要な若者が利用できる短期入所や,地域で暮らしていけるグループホームなどが増えるとよいと思います。
おわりに
生きるために医療的ケアは必要ですが,子どもは医療的ケアを受けるために生きているのではありません。どんな子どもも,人と交わり,遊んだり学んだりして,楽しく過ごす権利を有しています。小さなうちから,子どものことを真摯に考えてくれる関係者とたくさん出会い,事業所も複数使っておくことは,子どもの未来をよりよいものにしていくことにつながるのではないでしょうか。
文献
1)髙橋昭彦:医療的ケア児を取り巻く現状と課題-当たり前の暮らしのために必要なものとは.月刊福祉 104:50—53,2021
2)とちぎ地域生活サポート研究会:在宅で安全・安心にお風呂を楽しむために~重度の障がい児者の入浴サポート BOOK~.
(https://npourizn.org/wp—content/ uploads/2024/03/f810d510e7b614
14632fb17d7735bc2e.pdf 参照2025/1/4)
3)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング: 厚生労働省 令和元年度障害者総合福祉推進事業「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」報告書.
(https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653544.pdf 参照2025/1/4)
4)文部科学省初等中等教育局 特別支援教育課:令和 5 年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果(概要).
(https://www.mext.go.jp/content/ 20240623—mxt_tokubetu01—000032
436_2.pdf 参照 2025/1/4)
著者プロフィール
1985 年自治医科大学医学部卒業,病院,診療所,施設での勤務を経て,2002 年栃木県宇都宮市にひばりクリニックを開業。午前中外来診療,午後在宅医療を行う。2003 年人工呼吸器をつけた子どもと出会い,小児在宅医療を開始。2008 年日中レスパイトケアを行う,うりずん開設。2012 年うりずんをNPO 法人にする。2022 年栃木県より,栃木県医療的ケア児等支援センターくくるんを受託。小児科専門医。
趣味は三線と奥日光散策。2016 年第 4 回日本赤ひげ大賞。著書『うりずんの風に吹かれて~重い病気や障害,医療的ケアのある子どもとともに~』(クリエイツかもがわ,2025)。
