『和食は体にいい』は子どもにも当てはまるのか——日本食パターンと脳・発達の研究
1975年型日本食の健康効果と、子どもの食事パターン研究から見えること
「やっぱり和食が一番体にいい」——これは多くの方が感覚的に信じていることかもしれません。2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、和食の健康的なイメージは国内外で広く浸透しています。しかし、「和食は体にいい」という主張は、子どもの発達にもそのまま当てはまるのでしょうか。都築(2017)の日本食の健康機能に関する研究と、近年の子どもの食事パターン研究をもとに、冷静に考えてみましょう。
研究が示す「1975年型日本食」の健康効果
都築(2017)は、東北大学で日本食全体の健康効果を科学的に評価する研究を行いました。現在の日本食と米国食をラットに与えて比較したところ、日本食はストレス性が低く、エネルギー消費を促進する傾向が示されました。さらに興味深いのは、「1975年頃の日本食」に特に高い健康効果が認められたことです。1975年型の食事では、内臓脂肪の減少、糖尿病発症リスクの低減、認知症発症リスクの低減、そして寿命の延伸が報告されています。この効果の一部は、ヒトを対象とした介入試験でも確認されています。
「1975年型日本食」とは、魚介類、大豆製品、野菜、海藻、きのこ、果物をバランスよく含み、調理法として煮る・蒸す・生食が中心で、油を多用しない食事パターンを指します。現在の日本食よりも、発酵食品や多様な食材が使われていたとされています。
「和食だから安心」とは言い切れない理由
ここで注意が必要なのは、「和食」と一口に言っても、その内容は時代によって大きく異なるということです。都築の研究が高く評価しているのは「1975年型」の食事であり、現代の日本食はそれと比較して動物性脂肪や砂糖の摂取量が増加しています。また、子どもの食事に関しては、保護者の食に対する意識や調理スキル、経済状況、生活リズムなどが食内容に大きく影響します。
さらに、和食の一つの特徴である塩分の多さは、小児期の食事として注意すべき点です。味噌汁、漬物、醤油ベースの料理は日本食の基盤ですが、子どもの塩分摂取量が過多になりやすい要因でもあります。「和食だから安全」という思い込みは、この重要な点を見落とすリスクがあります。
この研究を読むときに知っておきたいこと
都築(2017)の研究は、主にラットを用いた動物実験に基づいており、ヒト、特に子どもへの効果を直接証明するものではありません。ヒト介入試験も成人を対象としたものであり、成長期の子どもに対する「1975年型日本食」の効果は検証されていません。また、「日本食パターン」の定義は研究によって異なり、何をもって「和食」とするかの統一的な基準はありません。食事パターンと健康の関連は多くの交絡因子(運動、睡眠、社会経済的要因など)が絡み合っており、食事だけを切り出して効果を論じることには限界があります。
今日からできること
「和食が最高」と信じ込むのではなく、和食の良い面を活かしつつバランスの取れた食事を心がけるために、以下のことを意識してみてください。
1. 一汁三菜にこだわりすぎない。味噌汁とごはんとおかず一品でも十分です。完璧な和食を毎日用意しようとするプレッシャーは、かえって食卓を苦しいものにします。
2. 塩分に注意する。味噌汁は薄味に、醤油は「かける」より「つける」に。子どもの味覚は大人より敏感なので、薄味で十分においしく感じられます。
3. 発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルトなど)を意識的に取り入れる。1975年型日本食の特徴の一つは発酵食品の多さでした。腸内環境と免疫機能の関連が注目されています。
4. 多様な食材に触れる機会をつくる。「和食」に限定せず、さまざまな国の料理を経験することも、子どもの食の幅を広げる大切な機会です。
5. 食事を「正しさ」で縛らない。「これを食べなきゃダメ」ではなく、「いろいろ食べてみよう」というスタンスの方が、長い目で見て子どもの食の発達を支えます。
和食には多くの良い面がありますが、「和食だから安心」「和食が最高」という思い込みは、かえって食の選択肢を狭めてしまう可能性があります。大切なのは、特定の食文化を絶対視するのではなく、子どもの発達と個性に合わせた柔軟な食事づくりを心がけることではないでしょうか。
都築毅. 日本食の健康機能の科学的評価. 日本栄養士会雑誌. 2017;60(11):625. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjda/60/11/60_625/_article/-char/ja/
Miura A, et al. What constitutes healthiness of Washoku or Japanese diet? Eur J Clin Nutr. 2021;75(6):875-883. doi:10.1038/s41430-021-00872-y
※ 本記事は国際的な研究知見と保育現場の経験をもとにした一般的な情報提供です。個人差があり、すべてのお子さんに当てはまるものではありません。お子さんの健康や発育に関するご不安は、かかりつけの医師・専門家にご相談ください。情報は投稿時点のものであり、新しい研究によって見解が変わる場合があります。
