菜花の寄り道🔞 第一話
社会人四年目になって、小森乃菜花は自分の変化に気づくことが増えた。仕事の責任も、心の揺れも、少しずつ重さを増している。
学生時代の友人たちとも、どこか距離ができて、一人の週末が増えてきた。
そんな金曜の雨の帰り道。
鞄の持ち手が少し湿るのを感じながら、菜花はいつものドラッグストアへ入った。
ルーティンのように店内を一回りし、菓子売り場や日用品の棚を眺めていく。
その途中、ふと足が止まり、視線がある棚の一角に吸い寄せられた。
女性用品が棚に並ぶ、その一角にマット調の上品な箱に入った柔らかな色合いのグッズ。淡いピンクや黄色で、先端に小さな溝がある口紅サイズのものとチューリップの蕾のようなスティックの2種類。菜花の頬が一瞬で熱くなった。
(……え、こんなところで……?)
周りをそっと見回した、残業帰りの夜の九時。雨もあって客は菜花一人。ここのレジは有人と無人の両方。もう一度通路をまわって、先に袋菓子をいくつかと、ソフトドリンクを二本かごに入れる。続いて女性用品の列で一番小さい生理用品を一つ。そして、震える指で二種類の箱と小さなチューブを一つ手に取った。菜花の胸の奥で心臓がどきどきと鳴り響く。白いマット調の上品な箱とイラストを指でそっとなぞると、お菓子の袋の間に滑り込ませ、さらに上から覆った。
セルフレジでは向かいの有人レジに立っている店員さんと目が合わないよう、慣れた手つきで紙袋に小さなナプキンとグッズを入れてゆく。自分のエコバッグに商品をしまう。いつもならスマホをかざしておしまいだったが、今日だけ現金で、ポイントもつけずに支払った。
店の外は少しだけ雨が強くなっていた。
金曜の夜なのに雨のせいか人影が少ない。
その中を駅まで少しだけ歩く。
電車も空いていた。通勤用のかばんを膝に置くとその上にエコバッグを重ねた。
中身が溢れない様に、菜花は両手で優しく抱きかかえる。
数駅乗って改札を降りる。雨は変わらず降り続いている。ライトベージュの晴雨兼用折りたたみ傘を再び開く。お気に入りのきれいに縁取られたレース模様も静かに雨空に染み込んでいく。それでもエコバッグを濡らさないように抱えた菜花は少しだけ足取り軽めに歩き出した。
自宅に帰ると、まずお風呂に入った。夕食は職場で簡単に済ませてある。お湯に浸かり体を沈ませると菜花はそっと自分の下半身に視線を落とした。
(……アンダーヘア、ちょっとお手入れしたほうがいいのかな……)
今まであまり考えたこともなかったのに、今日はなんだか気になってしまった。湯上がり後、鏡の前で丁寧にトリミングし、柔らかいタオルで優しく拭いた。なんだか自分がとても可愛くなったような気がして、くすっと笑ってしまう。
お風呂上がりの化粧水もいつもより多めにたたいた。
クローゼットから選んだのは、オーガニックコットンで淡い黄緑色の前開きワンピース型パジャマ。襟や胸元に小さなレースがついていて、とても可愛らしい。ブラとショーツも、今日は夜用の中でも特別にフリル付きの柔らかい下着を取り出す。
色合いもグッズと同系色で、下着の生地が触れるだけで、いつもより肌が震える様な気がした。
ベッドルームの明かりを落とし、枕元の小さなスタンドライトだけを残す。カーテンの隙間から街灯の柔らかい光が差し込み、シトラス系のアロマの煙を揺らしている。薫りに包まれながら、これからの体験に、胸がとくんと響いてゆく。
雨脚は変わらず、雨樋から落ちる水滴の音が菜花の部屋を包む。
菜花はベッドに潜り込み、膝を軽く立ててワンピースの裾を少しだけめくった。箱を一つ開けると、口紅そっくりのスティックが現れる。スイッチを入れると、ひゅーんと低い優しい振動が手に伝わってきた。
(本当に……買っちゃったんだ、よね……)
心臓が今にも飛び出しそう。まずはパジャマの布越しに、太ももの内側にそっと押し当てた。
「ひゃ、ん……っ」
柔らかい振動がじんわりと伝わり、菜花は小さく息を吐いた。怖いのに、なんだか温かくて心地いい。円を描きながら、付け根のほうへ近づけていく。
右から、左から、ふくらみの下のほうまで。パジャマの生地が振動を優しく包み込んでくれる。だんだん体が熱くなり、呼吸が細くなってきた。
「はぁ……ふぅ……」
勇気を出して、そこを覆う布のすぐ外側にスティックを当てる。下腹の奥がじわっと熱くなって、気づいたら腰が浮いていた。
ワンピースの前ボタンを一つだけ外し、スティックをレースの下着に滑り込ませる。まだ直接ではなく、柔らかい茂みのあたりや左右の膨らみの周りを、ゆっくりと往復させた。自分でも分かるくらい、しっとりしていく。
(ジェルも買っておいたけど、必要なさそう……)
そんな自分に菜花は顔を紅くする。
(こんなに、感じやすかったっけ、私……)
やがて、恐る恐るスティックの先端を、既に少し膨らんだクリトリスの……その少し上あたりに——最初は布越しに優しく——押し当てた。
「あ……っ、んん……」
息が、止まった。菜花は枕を抱きしめ、目をきゅっと閉じた。スティックを微かに動かしながら、周りを愛おしむように撫でては、中心に帰ってくる。その繰り返しで、快感がゆっくり、波のように高まっていく。
「気持ち……いい……」
小さな声が零れた。ワンピースの裾が乱れ、太ももが震える。限界が近づいている。
そして——
「え、あっ……んん……ん…」
熱い波が優しく、けれど強く全身を包み込んだ。菜花は体を小さく弓なりに反らし、長い余韻に包まれた。足の指がぴんと伸び、そこが、小刻みに震えた。
息を整えながら、菜花はスティックをそっと胸に抱きしめた。頬は桜色に染まり、目元は小さな珠が滲んでいる。
(……私、ちゃんとできた、よね)
小さく呟いて、満足げに微笑む。ふと、スイッチを切ろうとして指が滑り、振動が最大になった。
「わっ、びっくりした……」
予期せぬ強い刺激に少しだけ顔を赤らめながら、今度は慎重にスイッチを切る。
(……次は、これも試してみようかな)
もう一つの箱を眺めながら、丁寧に拭き上げると、スタンドライトの脇に置いた。
学生時代の、初めてお喋りした友達のような、自分だけの新たな楽しみを胸に、菜花はシーツに身を沈めた。
雨脚が弱くなった夜は優しく、静かに更けていった。
