糞の形でオス・メス分かる?!
夏の風物詩、カブトムシ。
彼らは、一生の多くの期間、幼虫として腐葉土中で過ごす。
白くて、ややプニッとした体を器用にくねらせ、
土中を移動しているようだ。
暖かくなってくると、蛹室を作り、蛹になる準備を始める。
成虫になれば、立派な頭角があれば雄、と明確に判別できるが、
幼虫時代は、それほど明確な雌雄差があるわけではない。


ところで、彼らの餌は、生活環境でもある腐葉土である。
顎で砕き、栄養を吸収し、腸で不要物を固めて糞として排出する。
粉体工学者の私からすると、この工程は、
粉を砕き、形を整え、糞という製品として排出しているように見える。
私たちの身の回りには、粉がたくさん活躍している。
薬やインスタントスープの顆粒も、粉を扱いやすくするために形を整えたものだ。粉体工学ではこれを「造粒」という。
カブトムシの幼虫の糞の排出工程も造粒と似ている気がする。
糞は“顆粒”という製品。
腐葉土という原料を、腸筋を使って押し固め(成形)、腸(後腸)の先から押し出す。
腸で水分が吸収されるから、糞の形が決まるらしい。
※観察記録として撮影した動画のリンクを貼っています。カブトムシ幼虫の排泄シーンが含まれます。苦手な方は動画を飛ばしてください。
さっき、幼虫時代は雌雄に明確な差があるわけではないと書いたけど、
雄の幼虫のお腹のあたりには、V字マークがあって、
それでおおよそ判別できる(*1)。
そのV字マークは生殖器由来とのこと。
糞の形が決まる後腸と、V字マークの場所は近い。
ってことは、
糞の形は、もしかしたら雌雄差があるんじゃない・・・?
と思った。
ただ、糞の形を眺めていても、明確な差があるようには見えなかった。
もちろん、雄の幼虫の方が体が大きいから(*2)、
必然的に大きな体の雄の糞は、雌よりも大きくなる。
じゃあ、糞の大きさだけで雌雄に分けられるか?を試してみたけど、
100%は分けられなかった。
ということは、糞の大きさ以外に、雌雄の違いがあるってことだよね?!

夫が、機械学習(*3)をどう使うかという研究をしていて、
「人の目では判別できないような、
小さな違いを見つけるのに長けた機械学習があるよ」
と教えてくれた。
もしかしたら、機械学習を使ったら、雌雄差が見えてくるかも?!
夫にやり方を教えてもらったんだけど、、、
Excelの計算式がエラーだらけになり、早々に断念した(笑)。
「私は私の得意なところで頑張ろう!」ということで、
飼育と糞の収集、並べて写真をとってデータ化までやって、
機械学習は夫にお任せした。
分業大事。
ある夏の日、夫から渡された結果を眺めていたら、
本当に、糞の形だけで雌雄に100%分類できるってことが分かった。
嬉しすぎて、家でどんちゃん騒ぎになり、息子に迷惑がられた。
そりゃあね、普段自分がお祭り騒ぎをしたら「静かに!」って怒られるのに、両親が騒いでいるんだから。
大人ってずるいと思ったことでしょう(笑)
だけど、研究の面白さってここだと思うの。
仮説を立て、試して、失敗して、また考える。
その繰り返しの先に、「できた!」という瞬間がある。
私は、その瞬間が好き。
ああ、研究者になって良かった、と心から思えるし、
この工程楽しかったな、と思える。
特にこの研究は、
単なる昆虫の糞を雄雌分類できた、という話だけではなくって、
(もちろんそこが一番ワクワクする部分ではあるんだけど(笑))
私たちの身の回りで活躍する粉たちの可能性をもっともっと広げられるよっていう成果に繋がると思ってる。
自然の粉はバラツキが多い。
だけど、年中を通して静かに循環させていってる。
バラツキが多いことが鍵なのかもしれないし、
バラツキが多くなってしまうけどそれを上手にハンドリングしているのかもしれない。
自然という壮大な粉体の先生から、学びたいことはまだまだたくさんある。
今回の成果はその第一歩だと思ってる。
バラツキの大きな昆虫の糞から、
意味のある(雌雄分類に寄与する)データを
取り出すことができたということ。
あの夏の興奮は今でも忘れられない。
あのとき心から「楽しかった」と思えた研究が、
いつか誰かの役に立つ技術につながったら、
研究者としてこんなに嬉しいことはない。
高井千加(名古屋工業大学)
粉体工学研究者

参考・出典
(*1) 幼虫のV字マークについて
ニューワイド学研の図鑑「カブトムシ・クワガタムシ」P15
(*2) 幼虫の体のサイズについて
小島渉、「不思議だらけカブトムシ図鑑」彩図社
(*3) 機械学習とは
人の目では「同じように見える」ものでも、コンピューターは小さな違いを見つけられることがある。その仕組みを利用して、糞の形から雌雄を分類した。今回用いたのは、「マハラノビス・タグチ法(MT法)」と呼ばれる手法。詳しく知りたい方は、
★手島昌一、長谷川良子、立林和夫(編集)、「入門MTシステム」、日科技連出版社
★Chika Takai-Yamashita, Seiji Yamashita et al., Sex determination of Japanese rhinoceros beetles, Trypoxylus dichotomus (Coleoptera: Scarabaeidae), based on their dropping shape, Advanced Powder Technology, 33(5), 103552 (2022)
★高井(山下)千加、山下誠司ら、マハラノビス-タグチ(MT)法を用いたカブトムシ三齢幼虫糞形状による雌雄判別、粉体工学会誌、59 巻 12 号 p. 620-627(2022)
などをご参照ください。
イラストは、いらすとや さんの素材を使用しました。
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