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見ろ、これがアメリカ人だよ。ON THE ROAD

オン・ザ・ロード
ジャック・ケルアック著
青山南訳
河出文庫 2010年

最初はなかなかとっつけなくて読むのに苦労した。
この違和感はなんだろうと考えてみてわかった。この感覚はまるですでに盛り上がっている知らないパーティに突然放り込まれたようなものだった。なかにいるひとたちは楽しそうにおしゃべりしている。気のおけない友人同士といった風で、ぼくひとり知り合いがいない中でぽつねんと佇んでいる。実に居心地の悪い。

それが、オン・ザ・ロードを読み出したころの読みにくさの正体だった。そしてそれは第一部が終わる頃まで続いた。俄然面白くなったのは第二部からである。それはパーティに打ち解けたから面白くなったわけではない。そもそも、出てくる人種がめちゃくちゃすぎて、ぼくだったら絶対に友達にはなれないから。主人公のサル・パラダイス(なんちゅー名前だ)はジャック・ケルアック本人だと思うが、こいつもまあちょっと普通じゃない。

しかしなんだな。サル・パラダイスを否定したらアメリカ人全体を否定してしまうようでもある。アメリカ人なら、大なり小なりサル・パラダイス的要素は持っているのだ。サルの親友ディーンくらいトチ狂ってしまえばあれは俺とは違うと言うかもしれないが、サルはあり得るでしょうと問えば否定はできまい。

第二部は本当に面白い。パーティに打ち解けたわけではないのに面白くなる理由は、アメリカ人の真髄をそこに見た気がするからである。自分とは明らかに違う異文化の中心を覗いている楽しみである。世界の様々な暮らしを知ることを楽しめるひとはオン・ザ・ロードを楽しめるだろう。見知らぬ未開人ならともかく、アメリカ人ならなんとくわかったような気になっていないか。いいや、キミはわかっていないねとぼくは言いたい。キミとはぼくのことであるが。

オン・ザ・ロードを読めば、アメリカ人のほとばしるようなエネルギーを体感できる。ああこれがアメリカ人だよそうだよそうだよ。金がない。食料を万引きする。ガソリンを盗む。女を調達する。ヒッチハイカーをガソリン代目的に乗せる。江戸時代の江戸人は宵越しの金は持たねえなんて言っていたらしいが、彼らは今夜食う食べ物のお金すら持っていない。でも夜になるとキチンとただしく泥酔できるのである。その金はどこから?である。

読めばなんだかんだで食べ物にありついたり酒を飲めたりする理由はわかるのだが、とても真似できる代物ではない。そしてやっぱりアメリカ人だよなと妙に納得できるのである。

一番面白かったのは第二部で、第三部から五部まではあってもなくてもよい。結局東西の旅をなんどかやって、最後はメキシコを目指した南北の旅があるのだがまあぜんぶ一緒と言えば一緒である。ディーンのいっちゃってる度がどんどん増していくだけである。

ちなみに旅の道中が本編ではない。目的地についてからの話のほうが長いくらいだから。旅そのものはたしかに破茶滅茶だが、肝心の車が壊れるなどクリティカルな状況になるとあっさり列車や飛行機で移動してしまうのだ。車で何日もかけて移動した距離を飛行機で数時間で済ませてしまったりするから生死を賭した旅を期待しているひとは肩透かしを食らうだろう。そういうシリアスな話ではないのだ。1940年代のアメリカ。日々を自堕落に生きる若者たちが羽目を外してめちゃくちゃをやる。そういうのがイケてるかっこいいという時代の出来事なのだ。そしてオン・ザ・ロードはそのブームの一端を担った作品になって大ベストセラーになる。

ぼくはひとつ関心したことがある。それは音楽に対する態度である。とりわけジャズの聴き方についてである。ジャズは演奏しているほうも聴いているほうもその音の洪水に飲み込まれてすべての感覚を放り出す。リズムとビートで思考と感情がほとばしって音楽に持っていかれてしまう。そして音楽が終わって自分を取り戻したときに、深い感動が打ち寄せてくるのだ。そういう感動を生み出せるプレーヤーは天才であって、そのビートに心が震えないプレーヤーは糞味噌に批判されることになっている。どちらにせよジャズってこうだよなこれがジャズだよなという描写をぼくはとても気に入った。

図書館で借りたオン・ザ・ロードであるが、その分厚さに二週間で読み切れるかなと心配したが途中からぐんぐんとスピードが上がった。それもそのはず。この小説は細部をじっくり味わうというよりはノリで読む本だからであった。音楽を聴くようにリズムとビートに合わせて読めばいい。あとがきでジャック・ケルアックはオン・ザ・ロードをノリで書いたと言っていてその読み方の正しさをはからずも証明された形になった。

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