ワークショップから受託まで――「外部専門家」が地域事業の中枢へ入るとき
自治体の事業は、ときに一回のワークショップから始まります。
地域の課題を整理する。
関係者の意見を聞く。
将来像を描く。
新しい財源を検討する。
外部の専門家が議論を進行し、複雑な意見を整理してくれること自体は、決して悪いことではありません。地域の内側だけでは見えにくい課題を、第三者の視点から明らかにする役割もあります。
しかし、注意しなければならないことがあります。
その専門家が、課題を整理するだけでなく、事業計画を作り、財源を提案し、組織の設立に関わり、最後には本人や所属法人が事業を受託する側へ移っていないでしょうか。
ワークショップは、単なる話し合いではありません。
そこで何を「地域の課題」と定義するかによって、次に必要とされる事業も、予算も、受託者も変わります。
課題を決める人は、事業を生み出せる
例えば、ある地域で外部専門家が次のように助言したとします。
地域には情報発信力が不足している。
新しい観光組織が必要である。
自主財源を確保しなければならない。
デジタル技術を使った新事業が必要である。
この診断を前提にすれば、当然、その後には、
観光戦略の策定
DMOや地域商社の設立
収益モデルの設計
ウェブサイトやシステムの構築
イベントの開催
人材育成
販売促進
といった事業が生まれます。
つまり、最初の課題設定に関わる人は、後続事業の入口を作ることができます。
その人物や所属法人が、後に「この地域を最もよく理解している」「これまで伴走してきた」という理由で受託者となれば、形式上は自然な流れに見えるでしょう。
しかし、公費を使う事業では、ここに厳格な確認が必要です。
課題を定義した人が、自ら受託できる事業を設計していないか。
仕様書や予算案の形成に関わっていないか。
本人や関係法人が応募する段階で、意思決定から外れたか。
他の事業者が公平に応募できる条件だったか。
この確認がなければ、「伴走支援」は、そのまま営業活動と区別できなくなります。
福島県国見町で起きたこと
この構造を考えるうえで重要な事例が、福島県国見町の高規格救急自動車研究開発事業です。
国見町では、企業版ふるさと納税による寄付を原資として、高規格救急車を開発する事業が進められました。町議会は事業を調査する百条委員会を設置し、最終的に調査報告書をまとめています。事業は、受託事業者との信頼関係が失われたとして中止されました。
問題となったのは、完成した救急車の性能だけではありません。
誰が事業を提案したのか。
誰が制度設計に関与したのか。
企業版ふるさと納税をどのように集めたのか。
受託者の選定に公平性と透明性があったのか。
国見町議会の調査が示したのは、自治体事業では、最終的な契約だけを見ても全体像が分からないということでした。
その前段階にある「事業形成」の過程を見なければならないのです。
民間提案制度にも同じ論点がある
近年、多くの自治体が民間提案制度を設けています。
亘理町も、民間事業者の自由な発想を生かし、行政サービスの向上や公共施設の活用につなげる制度を運用しています。民間の創意工夫を取り入れることは、本来、行政にとって有益です。
一方で、提案した事業者が、そのまま実施者となる制度では、慎重な設計が必要です。
提案者は、行政よりも詳しい情報や技術を持っています。そのこと自体が制度の利点です。
しかし、提案内容を知的財産として保護することと、提案者に後続契約を事実上保証することは別です。
提案者だけが実施できる仕様になっていないか。
競争性を確保できるか。
金額の妥当性を誰が検証するか。
提案者と審査者の間に利害関係はないか。
こうした仕組みがなければ、民間提案制度は、
自分で課題を設定し、
自分で解決策を提案し、
自分が受注する
ための経路にもなり得ます。
国の専門家派遣制度から後続契約へ
観光分野でも、国は自治体やDMOへ専門家を派遣しています。
観光庁の専門家派遣事業では、専門家が地域課題の解決に向けた戦略策定、施策の展開、人材育成などについて助言します。令和8年度のDMO支援制度でも、専門家は要請団体へ助言・指導を行い、派遣後には月例報告書や最終報告書の提出が求められています。
ところが、制度の公開情報だけでは、専門家派遣後に、
本人が自治体のアドバイザーへ就任したか
本人の所属法人が計画策定を受託したか
関係会社がシステムやイベントを受注したか
後続事業の仕様形成に本人が関わったか
を全国横断で確認することは困難です。
専門家派遣は「助言」の制度です。
後続の業務委託は「契約」の世界です。
それぞれ別々に管理されているため、両者を結ぶ線が公表資料から見えにくいのです。
この空白こそ、最も注意すべきところです。
「地域を理解しているから」は、選定理由になるのか
自治体側は、継続して同じ専門家や法人へ依頼する理由として、
これまでの経緯を理解している。
地域との信頼関係がある。
ワークショップから関わっている。
特殊なノウハウを持っている。
と説明することがあります。
確かに、継続性が必要な仕事はあります。
しかし、「最初から関わっていた」という事実が、そのまま随意契約や再受託の正当性を保証するわけではありません。
むしろ、その専門家が地域課題や事業内容の形成に深く関わっていたなら、他の事業者より圧倒的に有利な立場にあります。
その状態で公平な競争を実現するには、
助言内容と後続契約を明確に分離する
仕様書を独立した職員や第三者が作成する
本人や所属法人が応募する場合は利益相反を申告する
選定委員や審査過程から当事者を除外する
公募期間、評価項目、採点結果を公開する
随意契約なら具体的な選定理由を公表する
ことが必要です。
よくある六段階
各地の事業を追うと、次のような流れが見えることがあります。
第一段階 ワークショップ
「地域の声を聞く」「課題を整理する」という形で専門家が入ります。
第二段階 計画策定
専門家が、観光振興計画、地域再生計画、DMO形成計画などに関与します。
第三段階 財源設計
補助金、交付金、企業版ふるさと納税、宿泊税、新規事業などが提案されます。
第四段階 組織形成
DMO、地域商社、協議会、実行委員会などが設立されます。
第五段階 後続業務
専門家本人や所属法人が、運営支援、計画策定、広報、イベント、システムなどを受託します。
第六段階 再委託・提携
受託法人から、専門家と関係する企業、会員企業、提携先などへ業務が流れます。
この流れ自体が、直ちに違法というわけではありません。
専門性の高い人が、助言から実行まで一貫して支援することで、事業が成功する場合もあります。
問題は、その過程が公開されず、誰がどの段階で利益を得る立場になったのか分からないことです。
ワークショップは成果ではない
行政の事業報告では、しばしば次のような数字が成果として示されます。
ワークショップを9回開催した
関係者50人が参加した
観光振興プランを策定した
有識者を招聘した
勉強会を実施した
しかし、これらは基本的に「何をしたか」という投入量や活動記録です。
市民が本当に知るべきなのは、その後です。
自主財源はいくら増えたのか
補助金依存率は下がったのか
観光消費額は増えたのか
地域事業者の売上は伸びたのか
計画に記載した事業の何割が実行されたのか
外部委託費に対して、どのような効果があったのか
計画を作ることと、地域が良くなることは同じではありません。
ワークショップを開くことと、課題が解決することも同じではありません。
なぜ失敗が見つからないのか
外部専門家やコンサルタントは、自らの仕事を「失敗」とは発信しません。
自治体も、事業が期待した成果を上げなかったとしても、
一定の成果が得られた。
実証期間を終了した。
今後の事業化を検討する。
関係者との協議を継続する。
という表現で終えることがあります。
そのため、「失敗」「打ち切り」「契約解除」と検索しても、実態はなかなか見つかりません。
見るべきなのは、もっと静かな痕跡です。
翌年度予算から事業が消えている
KPIの記載がなくなっている
成果報告書が公開されていない
公式ページが削除されている
アドバイザーの肩書が消えている
同じ事業が別名称で再出発している
「改革」「再生」「第二次計画」が繰り返されている
専門家本人の実績には残るが、自治体側の評価がない
行政の失敗は、大きな発表で公表されるのではなく、小さな文書の欠落として消えていくことがあります。
公開すべき「専門家関与台帳」
この構造を防ぐためには、国や自治体が、専門家派遣と後続契約を一体的に管理する必要があります。
少なくとも、次の情報を公開するべきです。
専門家の氏名と所属法人
派遣・委嘱期間
助言内容
計画、仕様書、予算形成への関与
本人・所属法人・関係法人への後続契約
契約方法、金額、選定理由
利益相反申告と回避措置
成果物
KPIと実績
契約終了時の評価
現在は、「専門家を呼んだ記録」と「その後の契約」が別々の文書に分かれています。
それを一本の台帳にすれば、
専門家として無料または国費で入り、
その後、自らの法人が受託した
という流れを、市民も議会も確認できます。
問うべきは、専門家の肩書ではない
地域活性化伝道師。
地域力創造アドバイザー。
観光庁登録専門家。
DMOアドバイザー。
肩書だけを見れば、国が能力や活動を保証しているように感じるかもしれません。
しかし、登録されていることと、個別事業が適正に行われたことは別です。
重要なのは、
その人物が何を提案したのか。
その提案によって、どの事業が生まれたのか。
誰がその事業を受託したのか。
公費はいくら使われたのか。
地域に何が残ったのか。
という事実です。
「伴走」の先を見よう
外部専門家は、地域に必要な存在です。
専門性の乏しい自治体に、新しい知識や方法を持ち込む役割があります。継続して地域を支援すること自体も、否定されるべきではありません。
しかし、「伴走」という言葉だけで、役割の境界を曖昧にしてはいけません。
伴走者がコースを決め、予算を決め、車を売り、運転手まで務めるのであれば、誰がその妥当性を確認するのでしょうか。
自治体が確認しない。
議会にも詳細が出ない。
国は専門家派遣と後続契約を別々に扱う。
成果はコンサルタント自身の広報だけに残る。
その状態では、市民が構造を知ることはできません。
だから、私たちはワークショップの開催報告だけではなく、その先を見なければなりません。
誰が課題を決めたのか。
誰が事業を作ったのか。
誰が契約を取ったのか。
そして、地域に何が残ったのか。
ワークショップは入口です。
問われるべきなのは、その扉の向こうで、誰が公費事業の中枢へ入っていったのかということです。
