自治体契約を調べる実務メモ 契約の構造は「別紙・仕様書・添付書類」に出る
自治体の契約を調べるとき、契約書の本紙だけを見ても、実際の業務構造が分からないことがあります。
契約先は分かった。
契約金額も分かった。
契約日も分かった。
それでも、
「実際に誰が仕事をしたのか」
「別の会社へ再委託されていないか」
「誰がどの業務を担当したのか」
「選定されたときの体制と、実際の体制は同じなのか」
が見えないことがあります。
こうした情報は、契約書本紙ではなく、
別紙、仕様書、添付書類、実施体制に関する書類、再委託関係書類
などに書かれていることがあります。
自治体契約を調べるときは、
「契約書を取る」ではなく、「契約関係書類を取る」
と考えた方が実務的です。
1.まず公開されている資料を集める
最初に自治体のホームページで、当該事業に関する資料を探します。
公募や選定に関しては、次のようなものです。
公募要領
仕様書
プロポーザル実施要綱
審査基準
評価項目
配点
質問回答
選定結果
契約については、
契約相手方
契約金額
契約日
契約方法
随意契約理由
などを確認します。
事業がすでに終了している場合は、
実績報告書
完了報告書
履行報告書
成果物
検査関係書類
が公開されていないかも探します。
この段階では、全部を細かく読む必要はありません。
最初に確認したいのは、
何が公開されていて、何が公開されていないのか
です。
2.契約書より先に「要綱」を確認する
プロポーザル方式の事業を調べる場合は、自治体の実施要綱やガイドラインを先に確認すると効率的です。
検索するときは、
「○○市 プロポーザル 実施要綱」
「○○市 公募型プロポーザル ガイドライン」
「○○市 業務委託 選定要綱」
などの言葉で探します。
確認したいのは、たとえば次の項目です。
審査結果を公表することになっているか
得点を公表する規定があるか
審査委員を公表する規定があるか
選定理由を記録することになっているか
応募者が1者の場合の扱い
最低基準点の有無
利益相反や審査回避についての規定
選定後の契約手続
ここを先に確認しておくと、
「なんとなく不透明だ」
という感想ではなく、
自治体自身が決めたルールと、実際の手続が一致しているか
を確認できます。
3.情報公開請求では「契約書」だけを請求しない
情報公開請求で、
「○○業務の契約書を開示してください」
とだけ書くと、契約書本紙だけが対象として扱われることがあります。
そこで、欲しい文書をできるだけ具体的に書きます。
たとえば、次のような請求です。
○○業務委託に係る契約関係書類一式。契約書本紙のほか、別紙、仕様書、添付書類、積算内訳書、見積書、実施体制に関する書類、業務分担に関する書類、再委託に係る申請書及び承諾書、変更契約書、変更仕様書を含む。
大切なのは、
「一式」とだけ書かず、欲しい文書の種類を具体的に書くことです。
自治体内部では、
「契約書」
「仕様書」
「再委託承認書」
「実施体制に関する書類」
が、それぞれ別の行政文書として管理されていることがあります。
4.契約書を受け取ったら「別紙」を探す
契約書を取得したら、本文だけを読まず、
「別紙」
「別添」
「仕様書」
「添付書類」
という記載を探します。
たとえば本文に、
「別紙仕様書のとおり」
「別紙に定める」
「別添のとおり」
などと書かれていれば、その資料も契約内容の一部です。
複数の契約を調べている場合は、簡単なメモを作っておくと便利です。
たとえば、
「A業務には別紙あり」
「B業務には仕様書あり」
「C業務には再委託関係書類あり」
という程度で構いません。
別紙があるから問題だという意味ではありません。
ただし、
本紙の定型条項だけでは説明しきれない内容が書かれている可能性がある
ため、優先して確認する価値があります。
5.再委託を確認する
自治体との契約相手が、すべての業務を自社で行っているとは限りません。
たとえば自治体がA社へ業務を委託し、その後A社が、
システム開発をB社へ依頼する
イベント運営をC社へ依頼する
広告制作をD社へ依頼する
という場合があります。
これ自体が直ちに問題というわけではありません。
契約で再委託が認められ、必要な承認手続が行われているのであれば、通常の業務形態である場合もあります。
確認するのは、
再委託が契約上認められているか
事前承認が必要になっているか
誰へ再委託したのか
何を再委託したのか
再委託申請日はいつか
承認日はいつか
です。
そのため、
再委託申請書と再委託承認書
は重要な資料になります。
6.いちばん重要なのは「日付」
自治体事業を調べるとき、文章の意味以上に重要になることがあります。
それが、
日付です。
最低限、次の日付を拾います。
公募開始日
質問受付期限
提案書提出期限
審査日
選定通知日
契約日
再委託申請日
再委託承認日
業務開始日
成果物提出日
検査日
支払日
そして、時系列に並べます。
たとえば、
4月1日に公募開始。
4月15日に提案書提出期限。
4月20日に審査。
4月22日に選定通知。
4月25日に契約。
4月26日に再委託申請。
4月28日に再委託承認。
5月1日に業務開始。
という形です。
このように並べるだけで、契約の流れがかなり見えるようになります。
7.契約当事者以外の名前が出てきたら日付を見る
別紙や仕様書に、契約相手ではない会社や団体の名前が出てきた場合は、特に日付を確認します。
重要なのは、
その会社が怪しいかどうかを考えることではありません。
見るべきなのは、
その会社の名前や担当業務が、いつの時点で文書に書かれていたのか
です。
たとえば、選定通知より前の日付の資料に、後に業務を担当する会社の名称や役割が具体的に書かれていたとします。
このとき、まず確認できるのは、
少なくともその日までに、その内容が文書化されていた
という事実です。
そこから先の評価は、その後で考えればよいのです。
8.プロポーザルでは「選定時」と「実施時」を比べる
プロポーザルは、金額だけで受託者を決める制度ではありません。
実施体制、担当者、経験、技術力、提案内容なども含めて評価されます。
そのため、可能であれば採択された提案書も確認します。
提案書では、
責任者は誰だったか
担当者は誰だったか
協力会社はどこだったか
どのような実施体制だったか
誰がどの業務を担当する予定だったか
を確認します。
その後、契約後の資料を見て、
実際の責任者
実際の担当者
再委託先
実際の業務分担
と比べます。
もし大きく変わっていれば、
「いつ変更されたのか」
「変更について承認が必要だったのか」
を確認します。
9.審査資料もまとめて請求する
選定過程を確認したい場合は、
「審査結果をください」
だけでは足りないことがあります。
たとえば、次のように請求します。
○○業務公募型プロポーザルに係る選定関係書類一式。審査委員名簿、審査基準、評価項目、配点、各審査委員の採点記録、応募者別得点、順位、審査会議事録又は議事概要、選定理由、応募者数が分かる文書、利益相反確認及び審査回避に関する書類を含む。
全部が開示されるとは限りません。
個人情報や法人情報などを理由として、一部が非開示になることもあります。
それでも、
何が存在し、何が開示され、何が非開示になったのか
を確認することができます。
10.「不存在」という回答も保存する
情報公開請求をすると、
「当該文書は不存在です」
という回答が返ることがあります。
この通知も保存します。
たとえば、
「利益相反確認書」
「再委託承認書」
「審査会議事録」
「検査記録」
などについて不存在という回答が来れば、
少なくとも、
自治体がその文書を保有していないと正式に回答した
ことになります。
ただし、
「不存在だから違法だ」
とすぐに判断するのは避けた方がよいでしょう。
そもそも作成義務がない文書もあります。
そのため、
まず不存在通知を保存する。
次に要綱、規則、契約書を確認する。
その文書を作成する決まりがあったのかを調べる。
この順番が重要です。
11.随意契約なら「理由書」を確認する
随意契約の場合は、
随意契約理由書
を確認します。
見るのは、
なぜ競争入札ではなかったのか
なぜその事業者でなければならなかったのか
どの規定を根拠に随意契約としたのか
です。
そして、できれば積算内訳も確認します。
たとえば契約金額が1000万円だったとしても、
その大半がシステム開発費なのか、
人件費なのか、
広告費なのか、
イベント費なのか、
専門家への謝金なのか、
によって事業の実態は大きく変わります。
契約総額だけではなく、
何にいくら使う予定だったのか
を見ることが重要です。
12.議会に何が説明されたかを見る
行政内部に詳しい事業計画が存在していても、議会への説明が同じ詳しさとは限りません。
そこで、
予算説明資料
補正予算説明資料
委員会資料
全員協議会資料
全議員説明会資料
議事録
なども確認します。
ここで見るのは、
行政内部で把握されていた内容と、議会に説明された内容に違いがないか
です。
たとえば内部資料では複数の具体的な業務が記載されているのに、議会には単に、
「観光振興事業」
「DX推進事業」
などとしか説明されていない場合があります。
その場合は、内部資料と議会説明資料を並べて確認します。
13.最後は成果物を確認する
契約が締結されたことと、業務が適切に履行されたことは別です。
最後に、
業務完了報告書
実績報告書
成果物
納品書
検査調書
検収記録
などを確認します。
見るべきなのは、
仕様書で求められていた成果物と、実際に納品されたものが一致しているか
です。
たとえば仕様書に、
「調査報告書を作成する」
と書かれていれば、その報告書が存在するか確認します。
「システムを構築する」
と書かれていれば、何をもって完成と判断したのかを確認します。
契約書を見ただけでは、契約調査は終わりません。
履行確認まで見て、初めて一つの契約の流れがつながります。
14.資料が増えたら、普通の時系列メモを作る
資料が増えると、頭の中だけでは整理できなくなります。
難しい管理表を作る必要はありません。
普通の文章で十分です。
たとえば、
4月1日。公募開始。根拠は自治体ホームページ。
4月15日。提案書提出期限。根拠は公募要領。
4月20日。審査。根拠は審査結果。
4月22日。選定通知。根拠は選定通知書。
4月25日。契約。根拠は契約書。
4月26日。再委託申請。根拠は再委託申請書。
4月28日。再委託承認。根拠は承認書。
この程度で構いません。
重要なのは、
一つの日付に、一つの根拠を付けておくことです。
あとから第三者が確認しやすくなります。
15.何を請求するか迷ったら、まずこの資料
最初から完璧な情報公開請求をする必要はありません。
契約関係では、
契約書
別紙
仕様書
積算内訳
見積書
再委託申請書
再委託承認書
を確認します。
選定関係では、
公募要領
審査基準
配点
採点記録
審査結果
選定理由
応募者数が分かる資料
を確認します。
事業実施関係では、
実施体制に関する書類
業務分担に関する書類
実績報告書
成果物
検査調書
を確認します。
予算関係では、
積算資料
予算要求資料
補正予算説明資料
議会説明資料
を確認します。
これだけでも、自治体ホームページの公表情報だけを見ている状態から、一段深いところまで確認できます。
16.調査では、先に結論を決めない
実務上、最も避けたいのは、
文書を確認する前に結論を決めてしまうことです。
たとえば、
「最初から受託者が決まっていた」
と書くのではなく、
「選定通知日は4月22日。4月18日付の文書には、後に受託者となる事業者の名称と担当業務が記載されている」
と整理します。
「審査が不透明だった」
と書くのではなく、
「実施要綱には選定結果を公表すると規定されているが、現時点でホームページ上の公表を確認できない」
と整理します。
この方が調査として強くなります。
なぜなら、
第三者が同じ文書を見て、同じ事実を確認できるからです。
「怪しい」を探すより、「順番」を確認する
自治体契約を調べるとき、
最初から不正や癒着を探す必要はありません。
確認するのは、
誰が、
いつ、
どの立場で、
どの文書に登場したのか。
公募はいつ始まったのか。
提案書はいつ提出されたのか。
誰が審査したのか。
いつ選定されたのか。
いつ契約したのか。
誰が実際に業務を行ったのか。
何が納品されたのか。
いつ検査されたのか。
それを一つずつ並べていきます。
問題がなければ、
「適切な手続だった」
という結果になります。
それも大切な調査結果です。
一方で、日付や文書の内容に食い違いが見つかったら、その時点で、
「なぜこの順番になっているのでしょうか」
と確認すればよいのです。
自治体の契約を調べていて、
契約先と金額までは分かったけれど、その先が見えない。
そんなときは、
「別紙はありますか」
「仕様書はありますか」
「再委託関係書類はありますか」
と確認してみてください。
契約の実際の姿は、契約書の表紙ではなく、
その周りに付いている文書から見えてくることがあります。
