【詩のような物語】まだ、この季節にきみがいる/シロクマ文芸部
夏の音が、した。
誰もいないはずの夕暮れに、
ぽつり、と心が揺れるような音だった。
カラン──
風鈴が鳴った瞬間、
時間がふいに巻き戻る。
「やっぱり、最後はスイカだよな」
そう笑った、あの声が耳に甦る。
中学のころ、となりの家に住んでいた幼なじみ。
毎年、庭でバーベキューをした。
焼きそばの匂い、アイスの争奪戦、
打ち上げ花火に、同じタイミングで「おおっ」と叫んだ夜。
その縁側には、いつも風鈴が吊るされていた。
ガラス玉の中に小さな金魚が描かれていて、
君は「金魚のくせに鳴くんだな」と、意味のわからない冗談を言って笑った。
その風鈴の音を聞くと、
不思議と胸がすこしだけ痛くなるのは、あの年の夏が、
最後の夏だったから。
転校のこと、
打ち明けられたのは、引っ越しの前日だった。
急に聞かされて、うまく言葉が出てこなくて、
私はただ「ふーん」と言って、麦茶を飲んだ。
氷のカランという音だけが、二人の間に残った。
あれから、何年もたったけれど──
風が吹いて、また、カランと鳴る。
耳をすませば、どこかで君が呼んでいるような気がする。
それは、幻なんかじゃない。
確かに、あの日の君が、そこにいる気がした。
君の声だけが、この季節の中で鳴っている。
それが、わたしにとっての──
夏の音。
シロクマ文芸部に参加させていただいています。
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