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短編小説|春の入口に腰かけて/シロクマ文芸部/詩のような物語

晴れた日に、
思い立ったようにパンを焼く。

冷蔵庫の奥に残っていたハムと、
少しだけ元気をなくしたレタス。
形は不揃いでも、
重ねればちゃんとサンドイッチになる。

ポットにはコーヒー。
湯気は、まだ冬の名残りみたいに白い。

公園へ向かう道すがら、
風が、私のコートの裾を軽く持ち上げる。
「もうすぐだよ」とでも言うみたいに。

ベンチに座ると、
子どもたちの笑い声が
空に放たれては、また戻ってくる。

本を開こうとして、やめる。

ページよりも、
この空気のほうが、
いまは読んでほしそうだから。

深く息を吸う。

パンの匂いと、土の匂いと、
遠くのブランコの軋む音。

どこからか、草のやわらかな香りも少し。

何も起きていない。
でも、ちゃんと満ちている。

ああ

と思う

これでいいんだと。

派手じゃなくていい。
誰かに見せるためじゃなくていい。

こうして
春の入口に腰かけて、
自分の鼓動を確かめている。

サンドイッチの断面みたいに、
今日はちゃんと、重なっている。

それだけで。

私は、しあわせだ。



シロクマ文芸部に参加させていただいています。
小牧部長さま、いつもありがとうございます!
今回のお題
「晴れた日に」から始まる文芸作品です。



【詩のような物語】という、小さな物語たちを紡いでいます。
もし、今日の物語が、あなたの心にふれていたら
──それだけで、うれしいです。ありがとうございます。
これからも、日々の光や影を、そっと言葉にしていきます。
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