見出し画像

【稽古日記9】楽譜が台本になる瞬間 〜オペラ演技の裏側〜

東京室内歌劇場スペシャルウィーク2025で出演する《修道女アンジェリカ》《サド侯爵夫人》、いずれも稽古が大詰めを迎えています。

《アンジェリカ》は連日稽古が続き、《サド侯爵夫人》は再演ということもあり、残すところゲネプロ(本番の衣装で行う通し稽古)と最終確認を残すのみとなりました。

コロナ禍以降、ありがたいことにオペラの稽古に入る機会が増えています。
演劇要素の強いオペラ作品に多く関わるようになり、学生時代から舞台に立ちながら学ぶ生活を20年以上続けてきた今でも、オペラが大好きな一方で「演技」に対する苦手意識は拭えませんでした。

そんな中、音源も映像も存在しない、文学性の高い《サド侯爵夫人》に出会い、「オペラの舞台で“演じる”とは何か」が少しずつ見えてきたように思います。

今回は、演出が入る前、舞台に立つ前に、自分でどんな準備をしているかをお伝えします。

一見特殊な世界のように感じるかもしれませんが、意外と一般的な仕事の下準備にも通じる部分があるのでは?と感じています。

演技のヒントはすべて楽譜の中にある

演じる役がどんな状況にあるか、そのほとんどは楽譜から読み取ることができます。

たとえば:
• 自分の台詞
• 相手の台詞
• 舞台にいる他の登場人物の台詞
• ト書きや指示語

私が今回演じる《サド侯爵夫人》のシミアーヌ男爵夫人の場面を例にとってみます。

台詞から読み取る「段取り」と「動機」

【相手役・サンフォンの台詞】
1. 「さあ耳をおふさぎあそばせ」
 (ムチを鳴らす)
2. 「おふさぎあそばせ」
   (ムチを鳴らす)
3.「そう、それでいいわ」

この流れから推測できるのは:
・最初の指示では耳を塞がなかった(もしくは反応が鈍かった)
・二度目でようやく耳を塞いだ
・その様子にサンフォンは満足している

このように、相手の台詞から「自分がどう行動したか」「どういう心理状態にあったか」が自然と浮かび上がってきます。

さらに、こんな台詞もあります:

「あら、あなたは目でお聞きになるのね」
→ 耳を塞いでいる“ふり”をしながら、スキャンダラスな話に目が離せない状態。
視線や表情で、その“欲望”を見せる。

台詞がなくても、舞台で「生きる」

自分が台詞を発していない間も、舞台上では役として生きていなければなりません。

たとえば:
・「そうやって十字をお切りになるといいわ」
→ 実際に十字を切っている最中。

・「お勤めをおろそかになさるわね?」
→ 図星を突かれ、動揺し、手が止まる。

・「結局素直におなりになることが神様の思し召しに適うわね」
→ サンフォンの言葉に心が揺さぶられ、理性では抑えきれない感情があふれ出す。

楽譜は「動き」と「感情」の地図

・そのとき舞台に誰がいるか
・台詞は誰から誰へ向けられているか
・相手の語り口や音量、表情記号(ff、ppなど)
・調性の変化

こうした要素を全体から読み解きながら、自分の演技や動線を組み立てていきます。

最終的には、同じ場面に出ている人の台詞(歌)を、自分も歌えるくらいに把握しておく必要があるのです。でないと、舞台上での整合性が崩れてしまうから。

事前準備が「自然な演技」につながる

演出がついたあとに修正が入るのはもちろんですが、事前に自分の中で状況や動作のつじつまを整理しておくと、動きや反応が自然になります。

たとえば、「気配を消してやってきたシャルロット(召使)の登場に驚く」という演出があるのに、それまでの流れでシャルロットが「出てくるところが目に入っている」演技をしてしまうと、観客に違和感が生まれます。

優先すべき動作(たとえば「気配を消して登場」)が自然になるように、前の動きや表情を調整することが必要なのです。

オペラとチームワークは似ている

縁あって、同じ作品を同じメンバーで再演できる機会に恵まれました。年月をあまり開けずに再演できたことで、これまで大学や研修所、ワークショップで言われてきたことが、頭と体にようやく落とし込まれてきた実感があります。

台詞や歌詞は、自分の感情だけでなく、相手が自分にどんな反応を期待しているかという視点でも読み解く必要があります。

自分が何も歌っていなくても、目の前の誰かの言葉が、自分の存在に反応して発せられていると考えると、舞台上での居方が自ずと見えてくるのです。

オペラも、仕事も、日常も

現在は毎日音楽漬け、オペラ漬けの日々ですが、こうした「相手の意図を読み取り、動きを組み立てる」作業は、かつてチームで働いていたときにも必要だったな、と振り返ることがあります。

人は集団の中で、それぞれの役割や感情をもって生きています。
そう考えると、演技に必要な要素やヒントは、実は日常生活の中にもたくさん落ちているのかもしれません。

難しく、取っつきにくいと思われがちなオペラの世界を、少しでも身近に感じていただけたら嬉しいです。

ご興味を持たれた方は、この機にぜひ劇場へ足をお運びください。
お問い合わせフォームからのご連絡もお待ちしております。


同じカテゴリの記事がこちらのマガジンから読めます

こちらからサイト内の記事にアクセスできます。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。この記事がなにかのヒントになれば嬉しいです✨💖

スキ・コメント・フォローを頂けると大きな励みになります。今後ともよろしくお願いします

いいなと思ったら応援しよう!

ちえ🎈✈︎旅するソプラノ歌手♪ 思考のおもちゃ箱 ちえです。いつもありがとうございます! 毎日楽しくnoteを更新しています。 チップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!また大きな励みになりますので応援していただけると嬉しいです💖

この記事が参加している募集