うなぎ はし本 (江戸川橋)
夏になると食べたくなる料理の筆頭は、おそらく鰻であろう。しかし、この「土用の丑の日」にうなぎを食べる風習は、江戸時代の発明家・平賀源内が広めたそうで、 夏に売れにくいうなぎを売るためのアイデアだったんだとか。こういうのに乗せられやすいというか、好むのはいかにも日本人らしいと、我ながら「やれやれ」と呆れた気持ちになる。
「野田岩」に行こうと定休日を調べてみると、「土用の丑の日」とある。これには少し驚かされたが、注文が殺到するために「いつもの "野田岩のうなぎの味" を提供できない可能性が出てくるから」というのがその理由のようだ。他の店を当たらなければならなくなったわけだが、東京での鰻屋選びは非常に難しい。なぜなら、単純にお店が多すぎるし、そのどれもが老舗や名店の名に恥じないものばかりだからである。私の琴線に触れたのは「うなぎ はし本」である。
「ロオジエ」や「菊乃井」もそうだったが、やはりお店の顔ともいうべき外観は疎かにできない要素である。その前で足を止める、思わず目を向ける、そんな外観なのである。単に構造上の見た目というだけではなく、店先の状況、手入れの状態もまた、お店について多くを語る。ホームページの案内もまた重要で、お客さんの多くは、それを見て、確認してからやってくるのだ。私も、訪問の際には大いに参考にしている。鰻屋のホームページは、えてしてもっさりしているが、「はし本」のそれは、意外にも商売気がある。商売である以上、ある程度はアピールしていく姿勢は必要だと思う。
さて、店内の雰囲気は私の好みで、しばし「満寿泉」と葉唐辛子の佃煮で鰻の焼き上がりを待つ。私はこの時間を尊く感じ、それゆえに店内のつくりや雰囲気を重視する。「はし本」はふらりと入った田舎の鰻屋のような飾らないが、歴史と上質がそこはかとなく漂う。鰻重はまさに宝石箱。開けた瞬間の立ち上る香り、煌めく鰻。箸で身がほぐれる時の緊張と頬張った後の至福。絶品というよりも、鰻はこうであってほしいというような、心の拠り所となる鰻。それが「はし本」の鰻である。
