187 Siren's Call
自分の住んでいる街は朝のバスが来る頃、既に満員に近い状態でやってくる
今は違うけど、一時はそれで通っていた
ヘッドホンってのは良いものだ。
周りの音をほとんど消してくれる
目線だけを走らせてれば状況は解る
週半ばの頃だったかな…
そんな満員でバスはカトリック系の高校前の停留所で止まった
乗ってくる人も
『えっ、乗れないじゃん』
列の3分の1も乗れない。
けれども降りる人もいる
『おります…』
ん?
か弱く声が聞こえる
『おります…』
女子高生だな。
ってかさ、後ろに立ってるのはあるけど満員で声を出すのが恥ずかしいのもあるかもしれないが、誰も運転手に言わねーのかよ
「降りるってよっ!!!」
つい大きい声を出してしまった
締まりかけたドアがまた開いたのだが
これにはビックリした
マジかよ、コイツら…
と、なった時もあった。
また別の日なのだが、同じような電車
混雑で身動きはかろうじて取れる状態
変わらずヘッドホンはしている
周りの雑音はなるべくなら遮断して自分の音楽を聴いていたいからだ
次は大森ぃー大森ぃー
一時は電車が見合わせになっていたから乗客がごった返している
ヤレヤレ、ドアの横に立てなかったか…と真ん中で手摺に捕まっていたのだが
『降ります…降ります…』
入ってくる人が優先みたいな感じで迫ってくるものの、降りる人間が先だってのがわかんねーのかなぁ…
「空けてやれよ、降りるんだからよぉっ」
とまたしても声を荒げてしまった。
別にどうでもいい、自分がそれで嫌な顔されても、どう思われても
感謝されたいわけでも無いし
ただ、嫌なだけだ。
それを見過ごすことだけが
だからまたヘッドホンを戻す
耳からはまたシャカシャカと流れ出す
こんな事を書いてるのは
別にこの世界でいい人と思われる必要は無い
ただ違和感を感じたなら言いたいだけ
面白いと思ったことはいろんな形にして言いたいだけ
好きな時に好きなような形で思ったことを綴るから好きなだけ
けれども、その中でも書いてく中で勘違いで誰かを傷つけるような事があるかもしれない
もしくは誰かの心に少し響くのかもしれない
だけどそこまで計算してものを書くほど俺は器用じゃない
ただ、声を出してゆく
そして聞き耳を立ててる
俺はこの世界ではそれだけでいいという風に思っている。
この積み重ねがこうして読んでくれている皆さんなんだなぁ…て感謝をしている
悪くない。
この世界は俺はとても好きだ…
ありがとよ
…そう。
五反田のガールズバーの話だ。
聞いてくれるか?
俺はクレーンオペレーターが連れて行ってくれた店でオーナーと知り合うことができた
まだ開店して一年足らずだが、ちょくちょく月に二回くらいは通っていた
まぁ、ちょこちょこ飲んでるくらいの感じ
そのオーナーも
『銀ちゃんはいつもこんな感じだから』
女の子も本来はカウンターで向き合うスタイルなのだが、隣に座って話をしてきなさいなと気を使ってくれたりした
「じゃあ、また遊びに来ます」
そんな風に何回かは出入りしていたのだが
何回目かのことだろうか
「アレ?そう言えばマネージャー、いなくなりました?」
『そうなのよ、銀ちゃん。うちの女の子とどうやらデキたみたいで…逃げたんだよね。見つけたら半殺しにしてやろうかと思ってんだけど、連絡つかなくてね』
「えー、マジっすか?」
そう。店内スタッフの恋愛はそういうとこは基本的に禁止である。
理由は色々だろうが…
相当、他にも理由があるのかもしれない
が、俺はそれ以上は聞かなかった
また別の日である
『えーっ!銀さんってモンハンやってるんですか?私もやってるんですぅー』
いわゆる2ndGってやつだ。
PSPというポータブルで出来る通信型の狩りのゲームである
『良かったら…連絡先交換しません?今度一緒にやりましょうよ』
俺は一瞬、マネージャーと女の子の話が頭を巡った…
「あ、あぁ、良いけど…彼氏とか怒られないの?」
『私、今彼氏は居ませんよぉ…』
…ゴクリ。
「そ、そっかぁ…」
脳内を駆け巡る。どうするか…と
「じゃあ…番号は…」
やっちまった…いや。俺はまだ何もしていない
彼女は可愛らしかった…少し年下で
少しだけ、少しだけトキめいた…
オーナーには内緒で…ってのがずっと胸に引っかかってはいたが
そして日が経ち
その子から連絡が来る。
いついつの週末に遊びません?
みたいな。
俺もその時は独り身であるし、彼女もおらず二つ返事でオーケーを出した
そうしてだ、大井町に住んでいた俺、そして彼女も大井町
駅前で飯なんか食べたりして
この後どうするか?って話になる
そんな終電も考えなくていい
いざとなったら家ってものもある
いやいや、変なことをしたらオーナーに顔が立たない。
だけどコイツは可愛い…
カラオケでも行くか。
そうだ、彼女はモンハンをやろうと言っていたのだ。そうだ!
一狩り行けばいいんだよ。
通りにあるカラオケに行った
「うーん…どうしようかなぁ…なんか歌う?」
『何でも良いですよぉ…』
すこしの静寂が訪れるが、なんか歌いたい気になれず。そしてずっとモヤモヤはしている…
「オケ。じゃあちょっとここなら良いんじゃない」
とPSPを取り出した。
2時間の予約で取った部屋は空のBGMだけ流れてる。
異様な光景だ…
あはは、と言いながら狩りをしてる
いや、本当は違う狩りがしたかった…
目の前にランク1でも狩れる獲物がいるのに…と。渋々ボタンをポチポチ押している
途中でなんか気がついた…
俺は何をやっているのだろう…
解ってはいた…
店で隣に座ってお酒を一緒に飲んでくれている
会話が弾んで、連絡先も交換してご飯も食べている
明日が休みな俺を誘ってくれて今、目の前で完全無防備な状態で笑っている
しかし…いるのだよ。
オーナーの静かな怒りが…
手を伸ばせば触れられる柔らかな肌
抱きしめれば応えてくれそうな唇
それは勘違いかもしれない…
けれども紛れもない事実
「よしっ!辞めよう!出ようぜっ!」
『えっ…』
俺は手をポケットに入れたまま彼女の家の方角へ歩いた
「今日はさ、楽しかったよ。また…遊ぼうよ、ね」
『う、うん…』
少し表情が寂しそうである
けれどオーナーのあの気持ちはやっぱり裏切れない…
だから、変な気を起こす前に辞めた。
声を出せた
自分の気持ちをごまかしたくなかったから…
『じゃ、じゃあね…』
彼女は寂しく歩いて行った
見えなくなるまで俺もそこで見送った
そして月をまたぎ
あくる日にオーナーから電話が来る
『銀ちゃんさぁ、○○○と遊んだんだってっ!?』
すごい剣幕でくる
「いや、モンハンを一緒にやろうと誘われたからやってただけですわっ!」
『○○○が銀ちゃんに手を出されたっ!って仕事来なくなったんだけど』
「出してませんってっ!」
『そ、そうかも知れないけど、店の女の子にそんな話が流れてるからちょっと来ないでくれる?』
「ん…んなアホなぁ…」
カッコつけたつもりがこのような形で牙を剥いてくる…
俺…間違えたのかな…
いや、分からない。
その後彼女に電話することは無かった
ただ虚しくなる気がしたからな
そして店はしばらくして閉店を迎える
理由は分からない
きっと…水面下で変なことがあったのだろう…
ただ、覚えておいたほうがいいぜ
怪しいと思われてるときは
違う違うそうじゃなーいと声を出すのだ!
こんな事で色々不利になることもあるからな
って、最初の話が台無しだが。
まぁ、ええか。その辺はどうでも
こんなことならあの時に…
狩っておけばよかったと言うお話。
ね。ゲスいでしょ
