191 自戒
『いつまで失敗したことを引きずってんだよ…もういいだろ?』
「うーん…もう少し時間があったら出来たんだけどなぁ」
『気持ちはわかるよ、だけど少し駄目だなって思ったら時間を置いて頭冷やすのもいいと思うんだ』
「まぁ、そりゃそうやね…。」
仕事の失敗なんていっぱいあるわけで
その日もそんな話を仕事が終わってから話をしてた
彼はマサ(3つ上)の男
一時は自分が現場を任され、その彼と2人で現場を回してた時のことなんだけど
他職の職長と大喧嘩した時だ
『お宅の仕事、ちょっと荒いんじゃないの?ワシが見てきた時のサッシ屋さんはもうちょいちゃんとしてたけどねぇー』
「すいません…ちょっと確認不足でした…」
『第一さ、アンタたちの後にウチらがやるわけでしょ?そうしたらしっかり確認するよね?そして工程も決まってるんだから…わかるでしょ?ねぇ…』
そこの部下、他の職種大勢のの前でわざわざ大きい声で説教をしてきたもんだ
最初は耐えた
そして、その説教を見ながら少し笑い声も聞こえてくる…
その作業は応援を呼んでやってもらってたんだが、何せベテランだったもんだから安心はしてて
だから最後の引き渡しの時の確認を怠ってしまった
確かに俺が悪い。
その作業が遅れることにより、工程が一日遅れる。すなわちその業種の予定が一日ずれると金(人件費)の問題にも繋がる
だが黙って謝るしかないとこに終わる気がしない言葉攻め…俺はマゾじゃない
このオヤジ…ここまで言うか…
10時の休憩時間の時だったから公開処刑みたいなもんだ
サッシ屋の職長がシール屋にボロカス言われてるよ。と、笑いもんである
傍から見ればね
『ちょっと聞いてるか?あん?こうして話もちゃんと聞けないんだったら辞めたほうがいいんじゃないかなぁー』
…ほぉ。
プチときた。
「おいコラオッサン…なんでそこまで言われなアカンねん、そこまで言われる筋合いも無いぞコラ」
キレちゃった。
二回りも歳が上であろう人にゆっちゃった。仕方ない…我慢できねーんだもん。
自然の摂理だろ、こんなもん。
「好き放題言いやがって、じゃあなにかい?今日のうちに直します。それでええんちゃうんかい!ひと言で終わることをガタガタ抜かしやがってゴラァッ!!
」
途端にキレられると思っていなかったのだろう…唖然としてる
知ったこっちゃねえ…
明らかにこっちが悪いが、ここまで言われて黙ってはいられん。
だが、言ってはいけないものである。
シール屋の部下だろうが、他の業者がいようが関係ねぇっ!
でも。本当は
「へへ…すんません、今日中に直しますんでお許しを…へへへ」
って言えば事は済んでいたのだと思う
ただ、尖ってしまってたのかもしれない…
だが言い過ぎて取り返しがつかないことになると気づいた所で
「やってやんよっ!それでええんやろっ!」
完全に逆ギレである
『フンッ…』
そこで話は終わったが…最初に話した結果となる…
「直せねぇ…どうしたらこうなるんだ…」
『やっちゃったね銀…どうすんの?』
「ここまでヒデェとは…2日掛かるぞ…これは…」
休憩時間も昼飯も抜いた。
修復させるのに取り付けたものをグラインダーで削り、再調整、溶接…
あぁ…どうすんだよこりゃ…他のところもみな狂ってる
遠くでシール屋の職長が見てるなと
残業しても終わらないとなるとコレはまずい…
だが…終わる見込みがない…
辺りは暗くなってくる…
近隣の協定もあるから18時を超えての残業は出来ない…
「駄目だ…終わんねぇ…参った。
明日…謝るしかねぇな…」
『まぁしょうがないよ、明日やろうよ』
そして
「すんません…先日でかい口叩いて終わりませんでした。今日もう1日だけ何とかなりませんか?」
『そうだろ…?終わんないだろ?解ってたよ。だから違う段取り入れたからもういいよ。』
「申し訳ありませんでした…」
ただ謝った。皆が見てる前だが、落とし前もつけられないのに啖呵を切ってしまったから…
『だがよぉ…昨日は俺も悪かったよ。言い過ぎた。それはこちらも申し訳ないと思う…
…痛み分けで良いか』
「すいません…」
烈火のごとく怒りに身を任せた先日の状態もお互いの理解により穏やかな1日となる
そうして修繕も無事に終え作業を引き渡す事も出来たところで報告に行った
「お待たせしました、作業は終わりましたのでシール打設お願いします、皆さんにも迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありませんでした…」
もう屈辱とかの感情は無かった
ただ、申し訳無いと心から思えた
『サッシ屋さんよ、俺もアンタぐらいの時はそんな風になってたと思うんだ。
だけど、そうして頭を下げられたら何も言いようがあるまい。ワシらもちゃんと仕事をやるからさ、だから次は頼むぞ』
「分かりました…。
ありがとうございます…」
深々頭を下げることができた…
こうした現場仕事は単体の作業だけでならず、その後の作業に影響することが殆どである
どんな仕事でもそうだが、自分達だけで回ってると勘違いすると大きなしっぺ返しを喰らうというのを痛感した話でもある
いつしか鳶の親方が飲み会の時に言ってたなぁ…
『おー…アレだ。昔は悪いことやってました的な奴っているだろ?
俺たちの世界でもそんな奴ばっかりだ。だがな覚えておけよ、現場に来た以上よぉ、ケンカとかの話で粋がられてもどうしようもねえんだよ。
仕事で粋がってくれよって話だ。
いい大人だったらよ。』
水割りのグラスを回しながら言ってたな…カッケーな。
「…と、言う話なのよマサさんよぉ…」
『良い話だねぇ…まぁ、今回はいい経験になったんじゃない?』
「まぁ、そうだね。生意気な事言っても腕で勝負しないといけない世界だからねぇ…」
『おぉ、わかってきたじゃん。
…ところでさ500円貸してくれる?』
「あるけど、どないしましたんや?」
『帰りにビールでも買って帰ろうかなぁって思ってさ』
そっと500円を渡した…
俺もそんな彼には仕事で世話になってるしそんな500円なんて貸す貸さないなんてどうでもよかった…
その後の話なんだけど彼は小金を返さないことで会社では有名だった。
その数年後、会社の若い子たちからとんでもなく借金してる話がバレていつしか行方をくらました
そりゃ自然とそうなるわな…
借りたら返せよ。
少しは頼れる男だと思ってたのによぉ…
って話。
