200 A Reason to Meet Again
『傘…使うか?俺、家近いからさ』
朝…快晴だった
天気予報なんか見なくても
今日は良いことある。
根拠なんか無くて良い
私がそう思えばそれで良いのだ
家の鍵を閉めて振り返る
社会人になって2年目の夏
また新しい子も来たんだししっかりしなくちゃ
朝はそんな言葉といつも向き合う
両親の元から離れ一人暮らしの自分を励ますのは仕事だ
学生時代は大人しく
目立たぬようにしてきたけど
今の私は違う
大人のオンナ
まだその一歩を踏み出したこと変わらないの
仕事もしたいし、恋もしたい
そして今までの自分とサヨナラもしたい
閉じこもってるのが嫌だったから
『次は品川ぁー品川ぁー…』
もう…なんなのよ…
リュックくらい前で背負うか下におろしなさいよ
こんな狭いとこで新聞出さないでよ
スマホばかり見てないで周りの状況見なさいよ
混雑に巻き込まれながら通勤する
せっかく朝早く起きてキメたメイクが崩れるのだけは嫌だから顔面は死守したわ
この戦いはずっと続くのかしら…全く…
今回の話は「恋心と雨」をテーマで送ります
「おはようございます!」
『お、今日も元気がいいねぇ』
『おはよう!』
『アレ、昨日の資料出来てる?』
自分のデスクに着くまでに声を掛けてくれる
そうして話しかけてくれる事自体とても嬉しい
私、生きてる感じがするから
そうよ、目指すはバリバリ仕事ができるオンナ
ただそれだけ。今私が目指すのは
『なぁ、雫…わりぃんだけどさ、今度歓迎会の段取りを頼まれたんだけど手伝ってくんねーか?』
「お断りしますっ!」
『まだなんも言ってねーじゃねーかよ。』
「はい、それでもお断りしますっ!」
『じゃ、じゃあさ…OUTBACKでステーキはどうだ?なんならワインもつけるぞ』
食べ物で釣られると思ってたら大間違いなんだから…
「ホ、ホントですか?」
『あぁ、約束は守るよ。だからどうだ?』
「…そ…そうですね。じゃあ二回分…
どうですか?」
『お前マジかよ…。』
「じゃあ無かったことにしても?」
『…分かった。手を打つよ』
こんな食べ物にめっぽう弱い私にお願いしてくるのは2つ年上の先輩カズヤである
『今回入ってくる新人もさ、15人位いるだろ?それで店のキャパとか…』
仕事が終わってからスタバで打ち合わせをしている、いや。打ち合わせではない
ただの残業みたいなものだ
だって歓迎会なんて仕事の一環なんだから
って言ってもカズヤと話すのはキライじゃない
先輩だけど先輩面をしないそんなオトコ
むしろ私の中ではスキな方だと思う
口には出さないけどね
『じゃあさ、こういう風にしてこう段取りしていくようにするよ。予算とかも後は詰めて出せそうだね』
「そうですねぇ、きっとこれでいいかと思いますね」
『流石ぁ!さすが雫だよ!頼んでよかった!』
軽く肩をポンッとされる
何故か胸の奥がキュッとなった
「そ、それで…いつ行きます?…ステーキは…」
『わかってるよっ!いつでも良いぜ。っと、言いたいけど…そうだなぁ…雫に合わせるぞ』
「は、はい…」
そんな答えを持ち帰り
部屋の鍵を開けた
仕事の疲れなんか無く
カズヤに戸惑っていたんだ
何故だろう…
触れられた肩に手を重ねる
…好きなのかナ?
けれど仕事なんだから…と
自分の素の気持ちに蓋をするように
冷静にしないと失敗をするクセがあるのはわかっていたから
まだ恋をしてる場合じゃないって
…
『っと!言うことで挨拶はここまでにしておきます!乾杯!』
パチパチパチパチ…
「どうにかうまくいきましたね…」
『そうだなぁ、店のチョイスとか任せて良かったよ。俺こういうの疎いからさ、そんな奴に任せるなっつうの。』
「先輩の困ってた時の顔も結構でしたね。これはこれで終わりましたけど、先輩のミッションはまだ終わってませんからねっ」
『わーかってるよ、でもホント助かったよ…また何かあった時は助けてくれよな。雫』
「う…うん。」
思わずうんっていってしまった。
そんなカズヤはさり気ないタッチが上手い
少し赤くなった私の頭をポンとしながら
「頼りにしてるぜ」
だって…
チキショー
…
ガチャ…
いい天気だナ
今夜は楽しみだ
私の稼ぎはまだ少ないからステーキなんて行けるわけがない
今日はお腹いっぱい食べてやる
晴れ間が広がる夏の空
何か特別にあったわけじゃない
いつもと変わらない1日
けれど心は上向きだったのかもしれない
『だから、そうじゃないって。待って待って、そこでこうしたらこういう風になるわけでしょ?だからここを言ってんの?』
「何かあったんですかぁ…?」
『よぉ、雫!なんでもねーよ、大したことじゃないさ。それより今日18時な』
きっと仕事のことで部下が分からないことを聞いてたんだろうな、自分の仕事は後回しでもほっとけない。そんなところはいつもながら見てて思った
こんな上司になりたいなぁ…
私は私の出来ることをする
背伸びしてもまだ未熟者は失敗するだけなんだから、盤石盤石。
その言葉を噛み締めて仕事と向き合っている
それが私のスタイルだ
…
『悪いな、遅くなっちまった。ってか5分遅れくらいか?』
「じゃあポテトも追加ですねぇ」
『厳しいねぇ…』
「時は金なりですよー」
『そりゃそうだな…雫様の言うとおりです』
…
こうして食事を奢ってもらうのは初めてじゃない
何度かあるんだけどカズヤは他の部下とご飯食べに行ってるって聞いたことはない
少しだけ優越感を感じていた
『そう言えばさ、俺こないだアレ買ったんだよ、プロジェクター』
「あの、映像映すやつですか?」
『そうそう、スピーカーとかも一気に買っちゃって映画館みたいな部屋になっちゃってよ』
「へぇーそうなんですね?どんな映画とか見るんですか?」
『なんだろうなぁ…色々見てるけど、昨日見たのがネバーエンディングストーリーってやつ』
「えっ?なんですかそれ…」
『古ーい映画だよ。口で説明出来ねぇ。見なきゃわかんねー』
「そ、そうなんですか…」
『まぁ、なんだろうなぁ…とっても懐かしく感じたなぁ…リアタイで見たこともないけど、気付いたらちょっと泣いてた。曲がやべーんだよなぁ』
「先輩も涙でちゃうんですか…」
『どー言う意味だよ。俺だって人間だぞっ』
「ヘヘへ、じゃあ一回見てみようかなぁ」
『お?なんならうちで見ていくか?一回500円取るけど』
「んー。…上手く誘ったでしょ。その手には乗りませんからっ」
『何言ってんだっつうんだよ、可愛い部下に割引視聴を誘っただけだっつうんだよ』
「じゃあ無料でいいじゃないですかっ」
『ま、まぁ、そりゃそうだな…あはは』
…
ありがとうございました…
階段を登ると…
大雨なんですけど…。
ザーッと叩きつけるような雨
いつの間にか空は黒い
晴れ女だと思ってたのに…
『あっちゃーこりゃ参ったなぁ…駅までそんなに距離もないんだけどずぶ濡れになっちゃうよなぁ』
「傘も持ってきてないです」
『朝のあの天気じゃあな。そりゃそうだろうよ』
あいにく最寄り駅からも家までは歩いて10分
傘は家にあるからほんとは買いたくない。だから少し考えた
カズヤはゴソゴソと鞄から取り出す
『傘…使うか?俺、家近いからさ』
そしてこう続ける
『可愛い雫が風邪引いたら先輩として頭悩ますことになっちまうからな、どうする?』
雨は止む気配を見せない
私はなんだろう…
その一言に心が揺れる
雨音だけが二人の間を埋めていた
断れば、このまま「お疲れ様でした」で終わる
受け取れば、また先輩と会う理由が一つ増える
……たぶん、私が欲しかったのは傘じゃない
「さっきの映画…無料招待してくれませんか?」
『…ったく。
当たり前だろ?遠慮なく言えよ』
また頭をポンとされ、傘に入った
出てる肩に当たる雨
その時だけは冷たく感じなかった…
最後に。
…と、言うわけで200記事目となりました!皆様の温かい、いや、冷ややかな目で5ヶ月目にも突入できた事を嬉しく思います
そして、名前も職長から監督に昇格致しますので今後ともどうぞよろしくお願いしたいと思いますにゃ。
