【短編小説】 #せりふ三題噺(キツネ、煮付け、歴史)
はらとけいさんの企画に参加させていただきます☺️。
●今週のお題
■セリフ「どこにやったの?」
■三題
・キツネ
・煮付け
・歴史
※またちょっとホラーになってしまいました…
***
親友のコハルと、日帰り旅行の計画を立てた。
コハルは神社仏閣巡りが好き。
私は歴史的建造物が好き。
私たちの好みは、似ているようで少し違う。
その両方の好きのありそうな候補地を、今回いくつかピックアップしていたのだが。
「あ!この日にするなら、ここの市にしない?」
先に決まった予定日に、お稲荷さんで夜イベントがある。
そんな情報を見つけたコハルが、断言した。
「もう、ここに行くっきゃないね!」
「でも……神社仏閣とは少し違うし、だいぶ現代アートだよ?ちょっと、奥ゆかしさや、いつもの風情がないんじゃない?」
コハルを心配してそう言ってあげたのに。
「何言ってるの?お祭りだよ?こんなのめったに見られないし、朝と夜、少しずつでいいから両方楽しませてよ!」
なんだかコハルは、いつになく乗り気だった。
「この際、昼はまるっとヒトエに譲って付き合うからさ。できることなら、夜は終電に合わせて、ギリギリまで楽しもうよ」
すでにテンション高く、もうすっかり気持ちは固まってしまったみたいで。
周辺検索まで続いていて……。
「期間中、浴衣で行くとあちこちの入館料が半額ですってよ。どうする、ヒトエさん?」
そのひと言が、決定打になった。
大好きな浴衣を着て、早朝にコハルと待ち合わせ。
楽しみに待ちわびた、ちょっとお得な日帰り旅行は……そうして始まった。
赤い鳥居。
いろんな表情をした、キツネの石像。
お稲荷さんで参拝をして……。
それからいよいよ、私がスケジュールを立てた観光名所巡りだ。
散策したり、お決まりの食べ歩き。
名物というお稲荷さんや、うずらの煮付けを頬張って。
「もうお腹いっぱい!」
っていつもみたいに笑って。
その要所ごとに、記念の写真もしっかり撮って……。
……あっという間に、辺りはどんどん夕闇に沈んでいった。
そう。
楽しい一日だった。
なのに、コハルは時々上の空。
気になって問い詰めると……。
どうやら、朝イチの神社で素敵な出会いがあったらしい。
「それでね。夜にまた誘うねって言われちゃったんだ……」
一日、心ここにあらずだったその理由に、私は呆れるしかない。
「悪いけど!もう今日は帰る時間だから無理ですって、ちゃんと断ってよね?」
そう口にしたら、何だか泣けそうになった。
今日を楽しみにしてたのに。
私はとっても楽しかったのに。
……コハルはひどい。
今日しか見られない幻想的な光が、コハルを包んでいるというのに。
これを見たいといったのはコハルなのに。
この魅惑的な境内すら、目に入っていないようで……。
こんなコハルを見るのは、耐えられないと思った。
何か悔しくて、面白なくて。
私は、コハルを置いてトイレに走った。
ーーあのコハルをあんな風にしちゃう男って、どんなのよ……。
赤い縁取りをした鏡の向こう。
私は、とてもひどい顔をしていた。
……朝の私とは、大違い。
ーーそういえば……。
朝も同じように、この鏡を見た。
一旦コハルと離れ、このトイレで手を洗ったのだ。
その時のことを思い出したら……背筋が急にざわりとした。
トイレから戻ると、コハルは私を置いて、
一人でどこかに向かおうとしていて……。
コハルの様子がおかしかったのは、それからだ。
「……コハル?」
急に怖くなって、コハルの元へ急いで戻ったのだけど……。
もう、コハルの姿は消えていた。
スマホも圏外で繋がらない。
嫌な汗が、じとりと沸いて玉になる……。
朝、コハルが一人で向かおうとしていたのは……赤い鳥居だ。
場所は、その後に一緒に行ったから、今もまだ覚えている。
「コハル、行かないでよ?」
思わず上ずった声でつぶやきながら、鳥居に向かって私は走った。
……でも。
そこにもコハルはいなかった。
『もう!びっくりするから、こんなとこに私を置いて行かないでよぉ』
今朝は、ふざけ合いながら、この場所でそんな話をしたのに。
私は、今度こそコハルに置いていかれたのだ……。
ーーいや。そんなのだめ……。
そう思うのに。
もう、コハルの顔が、はっきりと思い出せない自分がいる……。
その時だ。
薄暗い闇の中、ふわりと白い影が現れて、鳥居の奥に消えた気がした。
……それは、大きな尾をなびかせる白い獣のようにも見えて。
「ねぇ!コハルをどこにやったの?……お願いだから、コハルを私に返してよぉっ!」
消えてしまいそうなコハルのことを、必死で胸に繋ぎ止めながら。
どこか生温かいような薄闇に向かって、震える声で、私は声を限りに叫んだのだった。
※稲荷神社で有名な某市に寄せていますが、諸々は創作の場所での架空の物語になります。
はらとけいさん、ありがとうございます😊。
