【おはなし】ある夏の幸せ #3つのお題に空想のひらめきを
遅くにすみません。
みかんさんの企画、もう一つお邪魔させていただきます。
●3つのお題(昭和ノスタルジー)
***

暑い。
本格的に、夏だ。
眩しくて、溶けてしまいそう……。
ナツは眩しい空に向かって満面の笑みを見せた。
「いい笑顔だねぇ、なっちゃん。何かいいことあったんか?」
ニコニコ、空を見上げていると……近所の浜野おじちゃんが声をかけてくれた。
「うん、聞いて聞いて!今日のお昼ね、お母ちゃんのカレーなの!
夏休みだからね、特別なおっきなお鍋で、たあっくさん作ってくれたんだよ!
さっきまでグツグツしててね、今、おいしくなるために寝てるんだって!」
浜野おじちゃんはアハハと笑った。
「そりゃあええなぁ。夏といえば、やっぱりカレーだ」
「ううん。お母ちゃんのカレーはね、冬でもとっっても美味しいのよ!
でも……どうしよう。ナツ、夏カレーも大好きなの!
ほっぺた、もうとろとろに溶けちゃうかも」
そう言って、夏子はカレーの味を思い出し……もうたまらない!という顔をした。
それを見たら……浜野おじちゃんの口元も、ついつられてしまう。
「なっちゃんのお母ちゃんは料理上手だからなぁ。なっちゃんも、おいしいご飯を作って、家族を幸せにするんだぞ」
「えー、絶対に無理だよぉ……」
そんな……輝いていた夏の、懐かしい一コマを、ナツはふと思い出した。
どこかから、カレーの香りが漂ってきたからだろう。
ーーうん。やっぱり……お母ちゃんみたいにはなれなかったな。
ある秋口の昼下がり。
ナツは、一軒のレコード屋さんの前で立ち止まり、額の汗を手の甲でぬぐった。

秋とはいえ、まだまだ暑い。
白シャツにうっすら汗がにじむが……かまっていられない。
「あっ!」
ナツはお店に入るなり……思わず叫ぶ。
棚に駆け寄り、一枚のレコードを手に取った。
「私を待っててくれてありがとう!一緒に帰ろう!」
ここは……何件目だろう。
ようやく出会えた喜びに、レコードを持つ手がふるふると震えてしまう。
朝からずっと、これを探し求め、ハシゴをしていたのだ。
「すみませ〜ん、これくださいっ!」
ナツは、落としてしまわないように抱きしめながら……お店の奥に向かって元気な声を向けた。
その、お財布を取り出すカバンの中……先ほど買ったであろう、レトルトカレーがチラリと覗く。

今日は日曜日。
母の料理は、いつも美味しかった。
幸せだった。
でも……。
ナツは、もう知っている。
人は、美味しいご飯の他にも、十分幸せになれるものがあるのだ。
