【おはなし】時計台からの願い事 #3つのお題に空想のひらめきを
みかんさん、企画に参加させていただきます☺️。
🍊 3つのお題(ファンタジーより)
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ーー早く、早くっ!もしかしたらパピコ、まだ間に合うかもしれない!
僕は、時計台に続く夕暮れの丘を走っていた。
濡れた靴が、地面に黒い足音を残していく。
パピコは小さな仔犬。僕の家族だ。
古い時計台には、昔からジンクスがあった。
月のない夜のはじまりに、天窓から夕焼けに向かって願い事を叫ぶと、それが必ず叶うという……ベタなやつ。
いつもなら笑い飛ばしてしまうそれ。
でも。違っても何でもいいから、どうしても叶えてほしい願いがあった。
こうしている間にも、僕の腕に抱かれているパピコの体温が、どんどん失われていく……。
階段を駆け上がる間にも、夕日はどんどん見えなくなる。
だから、天窓を開けるなり、僕は叫んだ。
「お願い!時間を戻して!」
叶う願いは、時間にまつわることのみだ。
ちょうど西の空に、最後の光が消えていくところが見えた。
僕も、パピコもぐっしょり濡れていた。
息が苦しくて……黄昏時に目の前がチカチカして。
ーーお願いします……。
涙でぼやける星空を見上げ、そう思った時だ。
夕焼けの消えていく空の上の方でキラキラ流れる星が目に入った。
でも。
それは、どんどん瞬きながらこっちに近づいてくる。
僕は息を呑んだ。
昔、絵本で見た『銀河を渡る夜の汽車』。
それが……時計台に向かって夜空を駆け下りてくる。
ーーえ、なんで……。
思うまもなく。
そのまま僕は、その星の光の流れに飲み込まれたのだった。

気づくと……僕はその汽車の中にいた。
見慣れない不思議な景色が窓の向こうを流れていく。
ガタタン、ガタタン……
車内は、静かで、あたたかくて。
時折、ポー!と懐かしいような汽笛を鳴らす。
時間を戻してと言ったのに……なぜこんなことになっているのか。
ーーそれに、どこに行くんだろう。
わけも分からず、そう思った時だ。
星の汽車は、1つ目の『オーロラ駅』というところに到着したようだった。
その瞬間。
急にパピコがもぞもぞ動き出したかと思うやいなや……ドアから外に飛び出して行ってしまった。
「パピコまって!」
僕はあわてて……その駅に降りた。
そこはその名前のとおり、とても美しい駅だった。
天にはオーロラのカーテンがゆらゆらと、たなびくように揺れている。
僕は思わず目を見張った。
美しかったからだけではなく……そのオーロラの隙間から、映写機のように映し出された映像が見えたのだ。
白い母犬から……生まれたばかりのパピコ。
ミルクを飲めようになり。
ご飯を食べるようになり。
芝の草地の上をころころ転がるようにはねて遊んで……。
そのそばには、いつも笑う僕がいた。
でも。
バッタでも追いかけたのか……パピコは今日、河原で遊んでいる時に、川に落ちたのだ。
僕があと少し早く気づいていれば。
あともう少し早く助けてあげれてたら。
だから願いは……「時間を戻して」だった。
……あの願いは、叶ったのだろうか。
駅の時計はめちゃくちゃな時間をさしていて。今がいつなのかわからなかった。
でも。
綺麗だけれど……こんな淋しいところにいつまでもいたくない、と思った。
パピコは、元気いっぱいにあちこち散策し、キラキラ光る花や虫を追いかけている。
「パピコ、もう行こう」
パピコが元気になったなら、それでいい。
僕らは、また汽車に乗ることにした。

それから、いくつもの駅を過ぎた。
大きな泡の地面に、小さなシャボン玉がたくさん飛んでいる『夢の丘駅』。
巨大なアーチで向こうとこちらの岸を結ぶ『虹の橋駅』。
満天の星空から流星群の飛び交う『星降る町駅』。
どの駅も、降りずにパピコと車窓から眺めた。
パピコの温もりがすぐそこにあったからか……とても素敵な旅路だなと思った。
次に着いたのは『あさやけ駅』。
ーーあれ?
汽車がホームに着いた瞬間……この場所を、なぜか知ってると思って。
気づいた時には、パピコとそのホームに降り立っていた。
はじまりの太陽が顔を出す、朱金に輝く朝焼けの空。
それを、僕は確かに知っていた。
今から始まっていく新たな時間にワクワクしながら、気球に乗って。
目に入ったあの人を「お母さん」と呼びたくて。
いつだったか……遠い昔に、あの夢色のような天を目指したことが、あった気がする。
そうか。と思った。
ーー時間、やっぱり戻ってたんだ……。
ホームの時計は、やはりめちゃくちゃで。
覚えていることも少ないけれど。
きっと、願いは叶ったのだろう。
いつの間にか、僕は小さなトランクを背負っていた。
きっと中には、僕の今までのいろんな思い出が詰まっているはずだ。
なぜここに来たのかは、思い出せないけれど。
ーーこれは、いらないや。
僕はそのトランクを、ベンチのそばにそっと置いた。
「パピコ、行こう。気球に乗って……僕らは、もう一度やり直せるんだよ」
新しく、ではなくもう一度。
だって、僕は……また僕になりたい。
きっとまたあの家族と過ごせるはずだ。
今度は、パピコをちゃんと守りたい。
この場所にまた来れたのは、チャンスなのか、奇跡なのか……。
そう思って。
僕はパピコと一緒に歩き出した。
朝日を受ける、気球の待つ草原に向かって。
みかんさん、いつもありがとうございます😊
