【短編小説】#せりふ三題噺(酸性、夕立、リングピロー)
はらとけいさんの企画に、参加させていただきます🥰。
■セリフ
「わ!ふっかふか!」
■三題
・酸性
・夕立
・リングピロー
***
結衣との買い出しの帰り道。
突然の雨に見舞われた。
「わぁ、夕立だ!」
もちろん、傘なんて準備していない。
両手に荷物を持っているから、そもそも濡れるしかない。
熱せられたアスファルトの匂いが立ち込める中……二人小走りで店に戻った。
「タオル持ってくるから、表で待ってろ」
そう言って裏口から店に入り、タオルをつかんで表の鍵を開ける。
「香夜姉が……結婚するんだ」
結衣の声が、ずっと、頭を巡っていた。
その結婚の話は、よほど気になっていたのだろう。
「お待たせ。はい、タオル……」
手渡そうとして……ドキリとする。
雨から逃れるために、白いパーカーのフードをかぶっていた結衣の……濡れそぼったそのフードが、なぜかヴェールに見えたのだ。
たかが、親族のめでたい話。
それが、こんなにも気持ちを乱すとは思わなかった。
……でも。あの香夜が、結婚。
年の割にしっかりしていた女の子も……もうそんな年になったのかと、やはり思ってしまうわけで。
ーーそりゃ、おれも年を取るわけだな……。
いろいろ、心境は複雑だった。
結衣も、いつしか嫁に行くのかもしれない。……貰い手があれば。
ーーおれは……神父か?
このタオルは、さしずめリングピローだろう。
……そんなことを、ぼんやり考えてしまった。
「わ!ふっかふか!」
結衣はタオルを受け取るなり、顔を埋めて確認をした。
「何やってるんだよ……」
その前に濡れた上着を脱げよと思ったら、ついため息が出た。
まだまだ、そういう反応をするところからして……何の心配もいらなさそうだ。
ーーいや、なんの心配だよ。
「風邪ひくぞ?」
フードを、そっと外してやる。
が……結衣は、もうそこまで小さい子どもではない。
雨に濡れた生地は、透け感があって。
そういえば下の服もうっすら透けていて……。
ーーっていうか、オレ、何やってるんだよ!
若干の衝撃を受ける。
これは……セクハラ?
慌てて自分用のタオルをかぶせ、誤魔化すようにそのままワシャワシャと頭を拭いてみる。
最近どうも……自分の言動がおかしいような気がしてならない。
このタイミングで、なぜか先日のいちごパンツのことまで思い出してしまっているし。
これはこれでら何かのハラになりそうだが……焦るあまり、手が止められない。
ーーほらやっぱり、何かおかしい……。いつからだ?こんなの、オレらしくない……。
そう思った時だ。
「もういいよ、やめてってば!」
結衣の必死な声が聞こえた。
ようやく、はたと我に返る。
タオルのヴェールから覗いたのは……上気した頬に、潤んだ瞳。
「自分でやれるよ!だからヤスさん、早くお風呂に入って」
上見がちな真剣な顔に……なぜか、胸がざわつくような衝撃を感じた。
……その時だ。
「酸性雨かもしれないよ?早くしないと、もっとハゲちゃう……」
結衣のその言葉に……違う意味で、心臓を撃ち抜かれた気がした。
