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〈一番遠い、桜の下。〉#せりふ三題噺


こちらの記事ははらとけい様主催の企画
#せりふ三題噺
に挑戦させていただきました。
久しぶりの参加になります。
宜しくお願いいたします。

■セリフ「行ってませんね」
■三題
・新幹線
・花びら
・レモンスカッシュ


「行ってませんね」
「どこへ」
「どこへでもドアを使ってですよ」

「ほら先程そちらへ誘導した際に、あのドアをくぐれば好きな場所に行けると言ったじゃないですか」

由実は迷路のような場所で、
髭が大きくついた杖のお爺さんに出会った。
「この場所で、桜が見れるっていうから来たのです。」

「ふむ」
白髭のお爺さんは、頷きながら髭をそっと撫でながら
「君がみたい花はなんじゃ」
と問いかけた。「わ、わたしは桜っていう花が見たかったの!」
由実は大きく声を少し上げて
上擦りながら声を出した。

「さくらかぁ」
「日本に住んでおるのだったら、どこででも見られるじゃろ」
言いかけてお爺さんはやめた。由実の目が真剣そのものだったからだ。
「私は、外国から来ました。」
「飛行機で空を飛んで、海を渡り、そしてこの新幹線へ乗り込みました。」

「新幹線?」
由実が目をすっと閉じて覚ますと
右側にスーツを来たサラリーマンらしき人が
ノートパソコンを広げてタイピングしている。

座席をスッと起こして、由実は姿勢を整えた。
私あの迷路でなにしてたのかしら。
'次の泊まり駅は米原米原〜に到着します。'
車内アナウンスが流れてくる。
目の前には駅中で買った飲みかけのレモンシュカッシュが、あった。
まるで疲れたOLの仕事終わりのビールのように
寂しく佇んでいる。

「私早く、家に連絡入れなきゃ」

右下のポケットから携帯電話を取り出した瞬間だった。

電車が長いトンネルを抜けた。
田園風景が広がり、窓一面に桜並木の風景が見えた。
「わっピンク色」

'私これが見たかったの'
ひとつ花びらが舞い散り、風が吹くと小さく木が揺れた。まるで「おかえり」と言っているかのように。

白髭のお爺さんを想い出した。
私の父にも祖父にも似ていなかった。

不思議と、声だけがやけに耳に残っている
行ってませんね─
どこへ─
貴方が一番行きたかったところにですよ─

今度はやけに声が近かった。
右側を見るといつの間にか、サラリーマンの男性が席を立ち去っていた。
由実はレモンスカッシュを手に取る。
炭酸のはじけた音だけが、由実を励ますかのように
シュワシュワと音を立てる。

「あの人、
何処かで出会ったことあったかしら」

由実は首を傾げ、そっと桜舞う花びらの空を見つめた。
胸の内で、静かに想いが波打っている。
「私はまだ、どこへも行っていない。」
本当に行きたかった場所には、指一本届いていない。

由実は首を傾げ、そっと桜舞う花びらの空を見つめ
財布から切符を取り出した。

'次の駅で降りなくちゃ'

おわり.


「私はまだ、どこへも行っていない」新幹線の窓に広がる桜と、不思議な老人が残し言葉の真意とは。 #note


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#せりふ三題噺 |お題発表(2026/4/24〜2026/4/30)|はらとけい様🕰️✨

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