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ロシアで食べた味を忘れられなくて

年末年始のロシアツアーに参加すると、最終日はモスクワ州にあるセルギエフ・パサードへ行くことが多かった。

私は、その旅行社のツアーを2012年と2013年の新年に利用し、セルギエフ・パサードへ行った。

セルギエフ・パサードには、次のような教会がある。

セルギエフ・パサード(2012年1月筆者撮影)

ツアーの最終日。セルギエフ・パサードのあとは、モスクワの空港へ向かって、日本へ帰国する。
旅行会社としては、帰国便の出発時刻に合わせて観光予定を立てやすいため。
そして、教会を見学した後は、だいたい昼食をとる。
教会内部とレストランでセルギエフ・パサード観光は終わる。

しかし、私にロシア旅行をすすめてきた長屋晃さんは、何度もロシアを訪れていて、セルギエフ・パサードの撮影スポットも詳しかった。
それで、渡航前に、「セルギエフ・パサードに行ったら、少し坂を上って、写真を撮ると、全体が入っていいですよ。」と教えてくださった。
それが、この写真を撮った場所。

セルギエフ・パサード(2013年1月筆者撮影)

夏に1回、冬に2回、ツアーで訪れたが、3回とも、現地ガイドさんも添乗員さんもこの撮影スポットに案内しなかった。

ここまで来て、撮影スポットに行かないなんて、残念。そのため、ツアーの参加者に声をかけて、撮影スポットにいつも案内していた。
たいてい、レストランで食事をした後、バスが到着するまでただ待つだけなので、その時間に添乗員さんに話して、撮影スポットへ希望者を連れて行った。
そして、ツアー参加者の皆さんからは、いい写真を撮れたといつも喜ばれた。
ロシアの渡航費も安い物ではないし、2度と来ることがない人がほとんどだと思うので、できるだけいい風景を写真におさめて欲しいと思う。

そんなセルギエフ・パサードでのお昼は、森元総理も訪れたことがあるレストランで食べた。
レストラン内には、森元総理の写真も壁に飾ってあった。

このレストランの入り口には、今ではほとんど見られなくなった青い服のジェット・マローズが立っていた。

青い服のジェット・マローズ(筆者撮影)

ソビエト時代は、西側に対抗して、赤い服ではなく、青い服を着ていた。サンタクロースは、ズボンですが、ロシアは、寒いから、ジェット・マローズは丈の長いコートを着ている。

このレストランでの昼食は、だいたい、サラダ、スープ、つぼ焼き、デザートにブリヌイというパンケーキが出る。

ツアーで訪れるレストランなので、いつもこのようなメニューだった。

新年なので、サラダはマヨネーズたっぷりのオリヴィエサラダ。

オリヴィエ・サラダ(2013年1月筆者撮影)

スープは鶏肉でさっぱりと。茶色い飲み物は、黒パンを発酵させて作るクワス。日本人の口には合いにくいようだが、私の大好物。日本ではなかなか飲めないから、ロシア旅行中は、どこでもいつでもクワスを飲んだ。

鶏肉のスープ(2012年1月筆者撮影)

つぼ焼きは、壺も大きく、ジャガイモと豚肉がゴロゴロ入っている。

つぼ焼き(2012年1月筆者撮影)

大食いの私でも、ギブアップするボリュームだ。でも、寒いロシアでは、根菜のジャガイモを食べると体が温まる。
ちなみに、壺の上にかぶさっているパンだが、これを壺からはがして食べると食べやすい。こういう食べ方を教えてくださったのも、渋谷ロゴスキーの創業者の息子さんの長屋晃さんだ。

パンを外したつぼ焼き(2012年1月筆者撮影)

翌年、同じレストランで食べたが、この時は、上のパンがついていなかった。旅行会社のアンケートの結果を受けて、手配時にパンなしをリクエストしたのか、レストラン側の経費事情でパンがなくなったのか分からないが、日本人の胃袋には、パンなしの方が腹八分になり、いいかもしれない。

つぼ焼き(2013年1月筆者撮影)

そして、デザート。
ブリヌイという薄いパンケーキが出てきた。

ブリヌイ(2012年1月)

このブリヌイにかかっている白い物が、めちゃくちゃおいしかったのだ。おいしかったので、添乗員さんにすぐに訊いた。現地ガイドさんにすぐに訊いてくれて、お店の人に確認してもらったのだが、「蜂蜜」ということだった。

「蜂蜜」と言われても、花の蜜によって味が違う。

ブリヌイ(2013年1月筆者撮影)

お店の人も現地ガイドさんも特に蜂蜜の種類までこだわらないようで、何の蜂蜜なのか、分からなかった。

蜂蜜の種類が分からなかったので、帰国後、私は、蜂蜜大捜査をすることになった。

まず、近所のスーパーへ行く。
そこで売られているのは、国産の蜂蜜か、外国のはハンガリーのアカシアの蜂蜜のみ。
そして、色は、白くなくて、茶色。
見た目からして、絶対に違う。
普段、蜂蜜を食べないから、見ただけで買わなかった。

幸い、東京に住んでいるから、都心部のデパートなどに行くと、外国の蜂蜜などを売っているお店もある。近くに行った時などは、デパ地下をのぞくこともあった。
でも、ロシアの蜂蜜なんか売っていない。
そして、色も白っぽい蜂蜜はなかった。
見た目からして違うと思い、買うことはなかった。

私は、ロシア文化フェスティバルの会員になっており、ロシア関連のイベント情報などを仕入れることは多かった。
イベントの時に、ロシアの食品や雑貨などを売られる時があり、そういう時も蜂蜜を見た。
でも、白い蜂蜜はなかった。

そうこうしているうちに、再びロシア旅行に行くことになった。
蜂蜜をロシアで買ったことはなかったが、ロシアで蜂蜜が名産なのは、知っていた。
スーパーなどで蜂蜜を見てみようと思った。
夫(当時は友達)に蜂蜜について訊いても、夫もそれほど詳しくない。
そんな時だった。
夫の父親違いの妹(のちに、義理の妹になる)が、お土産として蜂蜜を渡してくれたのだ。
しかも、色は、白っぽい。セルギエフ・パサードで食べた物よりさらに白いが、産地や条件などによって少し違うのかもしれない。
少なくとも、私が見た蜂蜜の中では、見た目は一番近い物だった。
すぐにでも味見をしてみたかったが、日本まで開封せずに持ち帰ることにした。
瓶に入っているため、夫は、「手荷物に入れてね。」と言った。
夫と別れ、出国審査、セキュリティーチェックへと進んだ。
冬の時期のセキュリティーチェックは、ブーツを脱いで、てんやわんやのセキュリティーチェックだ。
ツアーの時に、この状況で目が回って、疲れ果てた人がいたが、慣れていない人は、ブーツを脱いで、ビニールの靴カバーを履いてのセキュリティーチェックは、大変なようだ。通過したあと、再びブーツを履いて、ゲートに向かうのだ。
何回か冬の出国を経験していたから、いつも通り、ブーツを脱いで、セキュリティーチェックをしていた。
すると、手荷物は通過しなかった。
何かひっかかったようだ。
係員がかばんから出して、手にしたのは、義理の妹からもらったお土産の蜂蜜だった。
係員は、「だめ。」と言う。
日本へ一番持ち帰りたいものがまさかのアウト。
瓶のふたには、『мёд』とロシア語で印字されている。それを指さして見せたが「だめ。」と言う。
やっと出会えた白い蜂蜜。
これを逃したら、また出会えるとは限らない。
目の前にあるゴミ箱に捨てるのは、嫌だ。
そこで、私のカタコトロシア語炸裂。
とにかく、お土産にもらったもので大事なものなのだとアピールした。
それでも、「だめ。」と言う。
幸い、搭乗時刻まで時間があったので、粘れた。もし、時間がなかったら、こんなやりとりもできなかったと思う。
そこで、「それなら、ここで、一口食べてみたい。その後なら、捨てても仕方ない。」と言ってみた。
担当者は、ナターシャという偉い人を呼んだ。
そして、責任者なのか、ナターシャが来た。
瓶を見て、『蜂蜜』と書いてあるし、私の身なりなどを見て、このナターシャは、「いいよ。」と言ったのだ。
私は、お礼を言って、すぐに、ブーツを履き、荷物をまとめて、セキュリティーチェックの場所を後にした。係員の気が変わったら大変だ。後ろも振り返らず、一目散に搭乗ゲートに向かった。
そして、搭乗時にチケットを見せたら、係員が固まった。
もしや、セキュリティーチェックの場所から、ゲートまで連絡が来ていて、蜂蜜を持ち込めないかと思ったが、そうではなく、「ビジネスクラスへどうぞ。」と言われた。
へ!ビジネスクラス!
生まれて初めてのことにドギマギ。そして、離陸時に鼻血が出たほどだが、無事に蜂蜜を日本へ持ち帰ることができた。

帰国後、夫にこの一大事を一部始終話したら、「何で、スーツケースに入れなかったの?」と言った。
え?
夫が、「手荷物に入れてね。」と言ったから、スーツケースに入れずに、手荷物に入れたのに。
夫はさらに続ける。
「ガラスの瓶に入っているから、危険物になるから、スーツケースに入れるように言ったよ。」と。
そんなことは言っていなかったのだが…
私は、ガラスの瓶に入っているから、スーツケースの中で割れたら大変だと思って、手荷物に入れるように夫がアドバイスしてくれたと思っていたのだが、違った。
そうなのだ。布などにくるんでスーツケースに入れておけば、セキュリティーチェックでのトラブルはなかっただろう。
夫も日本語を学習中で、手荷物と預け荷物と勘違いしたのだろう。

帰国後、ワクワクしながら、蜂蜜を試してみた。
ところが、セルギエフ・パサードで食べた味とは違った。

これで、振り出しに戻った。
またまた、蜂蜜探しの旅は始まった。

そんなある日、渋谷ロゴスキーの催事がデパートで行われた。
渋谷ロゴスキーでロシア料理を食べるだけでなく、催事へ行き、自宅に持ち帰ってロシア料理を食べることもあった。
たまたま、催事をしていたデパートで、他のお店の催事もあり、その中の一つに、モルドバの蜂蜜のお店が出店していた。
ロゴスキーの人が、「モルドバは旧ソ連だし、もしかしたら、あのお店なら、探している蜂蜜があるかもしれないよ。」と話したので、催事を覗いてみた。
催事だから、お店の商品を持ってきている訳でないし、蜂蜜だけでなくワインも取り扱っているお店だった。
そのため、後日、実店舗へ出かけることにした。
滅多に出かける場所ではなかったが、白い蜂蜜を求めて出かけてみた。
お店に入ってすぐに分かった。
ここにはない。
すべて茶色の蜂蜜だった。ただ、クルミ入りの蜂蜜などがあり、1つ買って帰った。

再び、ロシア旅行に行ったが、それでも、白い蜂蜜に出会えなかった。

結局、見つけられないまま、ロシアに嫁ぐことになった。

ロシアに嫁いでから、義母がブリヌイを焼いた。
ブリヌイを焼く専用のプライパンもあり、

ブリヌイ用のプライパン(筆者撮影)

ブリヌイ用の小麦粉もスーパーで売られていた。

ブリヌイ用の小麦粉(筆者撮影)


日本のロシア料理店で食べるブリヌイよりも薄くて、大きい。

義母が焼いたブリヌイ(2017年6月筆者撮影)

そして、食べ方を教えてもらった。

2017年6月筆者撮影

スメタナ(サワークリーム)、ジャム、蜂蜜、練乳などを塗って食べるようだ。
日本のロシア料理店では、イクラやキャビアがのっているものを食べたが、我が家では、甘い系統のものをのせるようだ。
どれがいいか分からないから、その時あるものを順に試していった。
ある時は、スメタナ。ある時は、ジャム。ある時は、蜂蜜というように。
ジャムと言っても、イチゴ、梅、バラ、すぐり、ラズベリーなどいろんな味のジャムがあったから、毎回飽きなかった。

イチゴ、すぐり、ラズベリーのジャム(2018年4月撮影)

蜂蜜は、ソバだった。
何回かブリヌイを食べた時だった。
ある時、練乳があった。

練乳(2018年5月撮影)

練乳は、缶に入っているため、缶きりで開ける。開封後は、なるべく早く食べきらないとならないため、出現頻度は低かった。練乳が出た時に、試してみた。

一口食べて分かった。
セルギエフ・パサートで食べたブリヌイにかかっていたものと同じ味だ。
ずっと蜂蜜だと思って探していたが、実は練乳だった。
そして、ついに、見つけることができたのだ。
初めて食べたのは2012年1月。
それから、5年以上たった2017年にやっと見つけた。
それからは、我が家でブリヌイを食べる時は、練乳をかけて食べることになった。
現在は、マヨネーズのケースみたいなものもあるから、扱いやすくなった。

マヨネーズみたいなケースの練乳(筆者撮影)

ところが、2023年2月に歯を悪くしてからは、砂糖をあまりとりたくないから、最近は、練乳をかけて食べることはめっきり減った。
それでも、時には、セルギエフ・パサードで食べたあの味が恋しくなるから、その時は、練乳をかけて食べるようにしている。



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