見出し画像

ジャンフランコ・ロージ『ポンペイ、雲の下に生きる』複製された時間を発掘して

評価:80点

『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で金獅子賞、『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』で金熊賞を受賞したエリトリア出身の監督ジャンフランコ・ロージ。フレデリック・ワイズマンのように、特定の領域内の小さな群を捉え、繋いでいくことによって社会の側面を見出すドキュメンタリーを得意とする彼は、『ポンペイ、雲の下に生きる』において時間軸を加えポンペイの地層をスクリーンに投影させた。

閑散とした映画館の中で、ヴェスヴィオ山の噴火、そしてポンペイが火山灰と火山礫で埋まる様がスペクタクルとして提示される。映画は複製性を有するメディアであり、歴史的事実が再発見されていくものである。本作は映画の特性をメタ的に捉えた上で、考古学と結びつけるユニークなアプローチによってポンペイの歴史を紐解く。

ポンペイは1997年にエルコラーノやトット・アヌンツィアータと共に失われた古代ローマ都市を記憶している場所として世界遺産に登録されました。西暦79年にヴェスヴィオ山が噴火したことで埋まったものの、当時の生活様式や文化が良好な保存状態で地中に遺された。18世紀半ばより発掘されていったものの、依然として不明な部分が残っており、ゆっくりと研究が進んでいる。

本作では、東京大学の考古学チームが長年かけて精緻に調査を重ねて古代ローマ時代の生活様式を明らかにしようとする活動が描かれている。一方で、泥棒が違法なトンネルによって文明の痕跡を盗み出す実態も描かれている。『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』において、牧歌的な島の活動と命がけで移民が島を目指していく対極の事象を並べたように本作も発掘のアクションを巡る複数の領域を指し示す。

『ポンペイ、雲の下に生きる』が興味深い点は、火山の噴火によって幕が閉じたポンペイの歴史が発掘される過程を入れ子構造として描いている点にある。映画は緊急センターにカメラを向ける。そこには、放火や山火事の通報が入る。外は業火に包まれる。2020年代のヴェスヴィオ山もいつ猛威を振るうかわからない不気味さを纏っている。つまり、文明が発達した現代が滅亡する空気感が銀幕を揺蕩っているのです。

本作は考古学者が文明崩壊後にこの作品を発掘し、失われた文明の片鱗を目撃することを想定したような作りとなっている。古代ローマは石像や壁画といった物質的なものによって過去と繋がる。しかし、映画は複製された時間によって過去と繋がる。戦争によって終末の気配に包まれた今、映画は何ができるのかを世界遺産であるポンペイを通じて見つめた傑作といえよう。

いいなと思ったら応援しよう!

CHE BUNBUN 映画ブログ『チェ・ブンブンのティーマ』の管理人です。よろしければサポートよろしくお願いします。謎の映画探しの資金として活用させていただきます。

この記事が参加している募集