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世界遺産になった飛鳥・藤原の宮都へ0泊2日で行ってきた話


0.飛鳥・藤原の宮都、悲願の世界遺産登録

先月、韓国・釜山にて行われた第48回世界遺産委員会にて日本の飛鳥・藤原の宮都が世界遺産に登録された。2007年に暫定リストへ掲載されてから約20年の歳月をかけて悲願の登録となった。文化の価値観の相互交流を示す登録基準(ii)と文化的伝統や文明に関する証拠を示す登録基準(iii)が認められ、19の構成遺産が世界遺産として認定されたのである。

世界遺産センターサイトに掲載されている推薦書によると次のような評価がなされている。

[原文] 
 The nominated property is a group of sites associated with capitals of the ancient state on the Japanese Archipelago that was born as a result of close interchanges with the Chinese Continent and Korean Peninsula and exerted fundamental influence on the construction and evolution of subsequent capitals in Japan.
 It possesses Outstanding Universal Value for humankind as an unparalleled set of archaeological evidence spanning two consecutive periods that attests to the formative process of the emergence and establishment of a centralized state system at a time when East Asia saw the burgeoning of ancient states.   The nominated property is located in southern part of the Nara Basin, near the center of the Japanese Archipelago. It represents two ancient capitals that existed from the end of the 6th century to the early 8th century.
[訳]
 本資産は、中国大陸や朝鮮半島との緊密な交流を通じて成立し、その後の日本の都城の建設と発展に根本的な影響を及ぼした古代国家の都城群から構成されています。
 東アジアにおいて古代国家が次々と興隆した時代に、中央集権的な国家体制が形成・確立されていく過程を物語る、類を見ない二つの時代の考古学的証拠群として、人類にとっての「顕著な普遍的価値」を有しています。
 本資産は、日本列島のほぼ中央に位置する奈良盆地の南部に所在し、6世紀末から8世紀初頭にかけて存在した二つの古代都城を代表するものです。

Nomination Dossier for Ancient Capitals of Asuka and Fujiwara 
Executive Summaryより引用


■飛鳥・藤原の宮都の構成遺産

01 飛鳥宮跡(伝 飛鳥板蓋宮跡)
02 飛鳥京跡苑池
03 飛鳥水落遺跡
04 酒船石遺跡
05 飛鳥寺跡
06 橘寺跡
07 山田寺跡
08 川原寺跡
09 檜隈寺跡
10 石舞台古墳
11 菖蒲池古墳
12 牽牛子塚古墳
13 藤原宮跡
14 大官大寺跡
15 本薬師寺跡
16 天武・持統天皇陵古墳
17 中尾山古墳
18 キトラ古墳
19 高松塚古墳

1.夜勤明けに0泊2日で明日香村へ行ってきた

世界遺産アカデミー認定講師として、飛鳥・藤原の宮都のことを勉強してみようと文献「飛鳥への招待」を購入してみたのだが、日本史、特に飛鳥時代周辺の歴史にあまり興味がなかったせいもありあまり頭に入ってこなかった。

そこで、実際に現地へ足を運んでみることにした。私は夜勤ありのシフト制かつ管理職ということもありなかなかまとまった休日を取ることができない。しかし、鉄は熱いうちに打てと言う。なるべく早く訪れたいものだ。そこで、夜勤明けに夜行バスへ乗り、翌日の夜行バスで帰ってそのまま次の夜勤へ出勤する0泊2日の弾丸ツアーを敢行することにした。正直、夜行バスは初めてで不安だったのだが、直前に試写会の予定を入れることである種「気絶」を狙って気がつけば奈良へ着いている理想形に持ってこようとした。

■初・夜行バスはエクストリーム

東京駅へ到着
夏休みシーズンということもあり
満席であった

時刻は23時、東京駅。夏休みシーズンということもあり、満席となっていた。いつもは夜勤明けに4時間ぐらい仮眠をするのだが、1時間ぐらいに留めたので疲れを溜めたコンディションを作ることができた。

しかし、飛行機で寝ることのできない私にとってこの見積もりは甘かった。バスの座席に腰がバキバキに破壊されたため、数時間しか寝ることができなかったのだ。これから20km近く自転車で走るのに幸先が悪い。

■明日香レンタサイクルを目指し、いざ橿原神宮前へ

明日香レンタサイクルサイトより引用
明日香レンタサイクル
橿原営業所
普通自転車を借りた

飛鳥・藤原の宮都の構成遺産や資料館は明日香村周辺に点在している。ぐるっと巡るためには車か自転車が必要となってくる。明日香村ではレンタサイクルがあり、1日1,200円で借りることができる。17時以降になると延滞料がかかのだが、プラス200円支払うことで、別の拠点に乗り捨てすることができる。今回は橿原営業所から乗り、東回りで飛鳥駅前営業所に返却するルートを取った。奈良駅から橿原営業所へは少し面倒な移動が必要である。

郡山駅から近鉄郡山駅へ移動中
閑静な住宅街を抜ける

まず大和路線で奈良駅から郡山駅まで移動する。その後、徒歩15分のところにある近鉄郡山駅へ移動し橿原線に乗る。トータルで1時間ぐらいを見積もる必要があるのだ。

2.飛鳥資料館

飛鳥資料館
部材の展示
治具(オクトパス型)

まず、飛鳥資料館へ足を運んだ。今回の旅行で驚いたことがある。青森の縄文遺跡群や佐渡の金山、平泉へ訪れた際には、歴史的価値に関する説明書きがメインとなっていた。しかし、飛鳥ではこのような歴史的価値の説明以上にどのようにして遺産を保護しているのかについての解説に力が入っていたのだ。特に東回廊の部材を展示しているコーナーでは、文化財保護に15年近くかかっていることが丁寧に解説されていた。出土した部材は年度に覆われ、地下水に浸った状態で埋まっていた。腐朽が進んでいる部材はかろうじて原形を留めており、乾燥したら崩壊してしまう可能性がある。そこで、化粧水の原料にも使われるPEG(ポリエチレン・グリコール)を染み込ませて固める処理を実施した。しかし、PEGを染み込ませる作業には、タンクに入れて取り出すだけで5年必要であり、大量の建築部材すべてにPEG含浸処理を施すには複数回にわけないといけなかったため、1982年に発掘されてから15年もの歳月を要したとのこと。また、PEGを含んだ部材は非常に重く、自重で崩壊する可能性が高い。そこで鉄製のフレームを用いて支えた。

他にも、亀裂の入った天井石を吊り上げるために使用された治具(オクトパス型)の展示もあり、1,000年以上前の歴史を伝える場でありながらも現代技術の話メインな珍しい資料館であった。

3.飛鳥寺

飛鳥寺
飛鳥寺では僧侶の語りが聴ける
京都でも曼荼羅は見られるが
こちらのは至近距離で観察できる
飛鳥寺の裏手には
蘇我入鹿首塚あり

次に飛鳥寺へ訪れた。飛鳥寺は596年に日本初の本格的寺院として蘇我馬子が建立した寺院である。寺院自体は江戸時代に再建されたものであるが、中では僧侶が飛鳥寺の歴史について写真や絵などを使って解説されており、歴史の長さを感じることができる。

また、飛鳥寺では至近距離で曼荼羅を見ることができる。曼荼羅なら京都でも見ることができるが、少し距離が離れていたと記憶している。至近距離から精緻に描きこまれた仏を鑑賞することができ面白かった。

裏手には乙巳の変で暗殺された蘇我入鹿の首が飛んできたという伝承を記憶する場・蘇我入鹿首塚がある。今となっては長閑な田舎風景に溶け込んでいるが、その地に恐ろしい言い伝えが眠る。大人になるとこうした土地の深層に眠る歴史観に惹き込まれるものがある。

4.亀形石造物

亀形石造物
亀形石造物

個人的に一番期待していた亀形石造物

2000年に発見されたこの遺跡は「日本書紀」における斉明天皇の時代につくられたもので、天皇祭祀にかかわる場所だったと推定される。1,350年も前につくられたものが綺麗に遺っている珍しい遺跡なのだ。

木樋を伝って石槽へ水が溜められ、その上澄みが亀の甲羅を模した石槽へと流れる。この水は「聖なる水」として使われていたらしい。

飛鳥・藤原の宮都は世界遺産になって間もないのか、どこも空いており、貸し切りで見ることができた。陰りひとつない晴天の中で、管を通るこもった音と木樋を通る水の透き通った音、風の心地よい音がストレートなASMRとして癒しを与える。窮屈な空間に過剰にモノが詰め込まれた都会にはない豊穣な空間といえよう。

5.酒船石遺跡

酒船石遺跡

亀形石造物近く、長い階段を登った先には今回の構成遺産のひとつ酒船石遺跡がある。独特な窪みが掘られたこの遺跡の用途については様々な説があり、酒をしぼる槽、油や薬を作るための道具、祭祀の施設、ゾロアスター教の秘儀が行われた場所なのではと推察される。また手塚治虫は「三つ目がとおる」の中で、権力者が民衆を自由に操る薬を作るための調合台だった奇説を唱えている。近くの竹林がマジックリアリズム的な空気感を醸し出していることもあり、不思議な場所であった。

6.万葉文化館

Xでも話題となっていた万葉文化館

次に万葉文化館へ向かった。展示品の写真撮影は不可だったのだが、人形やインタラクティブに飛鳥文化について学べるブース、聴覚・視覚を効果的に用いた展示が多いので、初心者や子ども連れにオススメできるスポットであった。

ちなみにXでも話題になっていたのだが、今回の世界遺産登録が快挙だったせいもあり、あらゆる人形に祝福の襷がかけられており爆笑したのであった。

7.飛鳥宮跡(伝 飛鳥板蓋宮跡)

飛鳥宮跡(伝 飛鳥板蓋宮跡)
飛鳥宮跡(伝 飛鳥板蓋宮跡)

飛鳥・藤原の宮都の代表ともいえる構成遺産、飛鳥宮跡へたどり着いた。皇極天皇、舒明天皇、斉明天皇、そして天武天皇の細かく4時期の宮殿が建っていたとされる場所なのだが、創造以上に石のグレー、草のイエロー、空のブルーによるコントラストの圧に押される。ここで「飛鳥への招待」を開いてみると、面白いことを知った。1960年代、高度経済成長期。明日香村は考古学者にとって関心が高まりつつあったが、都市開発の魔の手が忍び寄っていた。そんな中、漢方医である御井敬三がこの地に魅せられ、飛鳥文化を保護しようとパナソニック創業者である松下幸之助と掛け合う。そして声による直訴状を佐藤栄作首相へ届け、1980年に通称・明日香法が制定。この地は保護されるようになったとのこと。飛鳥文化と松下幸之助との間に意外な関係があったことを知り面白くなってきた。

8.石舞台古墳

石舞台古墳
古墳にしては珍しく中へ入ることができる
神秘的陽光差し込む空間

飛鳥・藤原の宮都のもうひとつの代表ともいえる石舞台古墳。流石に有名どころだけあって多くの観光客が訪れていた。石舞台古墳は古墳の中でも珍しく中に入ることができる。階段を降りて奥へと進むと、想像をはるかに超える高さ、岩壁の圧に畏怖を抱く。ちなみに、石舞台古墳は蘇我馬子「桃原墓」の有力候補とされている。

9.高松塚古墳

北朝鮮の世界遺産
「高句麗古墳群」
※Wikipediaより画像引用
高句麗古墳群における壁画との
類似が指摘されている
※Wikipediaより画像引用
高松塚古墳壁画西壁女子群像

世界遺産検定界隈にとって今回の世界遺産登録で、北朝鮮にある高句麗古墳群への関心が高まったことだろう。というのも、構成遺産である高松塚古墳の有名な高松塚古墳壁画西壁女子群像は高句麗古墳群の壁画との類似が指摘されているのだ。そもそも飛鳥・藤原の宮都は朝鮮半島からの文化の伝による歴史的流れが評価されている世界遺産。故にじっくり世界遺産を堪能するとなると、高句麗高興郡と比較する必要があるのだ。残念なことに、高句麗高興郡は北朝鮮にあるため、訪問難易度がSランクの難しさを誇っているものの英語版Wikipediaに画像があるので簡単に比較してみるとよいだろう。

線により輪郭が形成されており、装飾は派手であるが、顔の描き込みが質素な点で共通しているといえる。一方で、高松塚古墳の壁画は余白が多い印象を受ける。

高松塚古墳

高松塚古墳は、石舞台古墳と違い中へ入ることはできない一方で、天気が良いと絶景スポットとなっている。写真好きにはたまらない古墳であろう。

高松塚古墳の裏手に文武天皇陵あり

10.キトラ古墳

キトラ古墳
キトラ古墳壁画体験館
四神の館
数日前から予約しないと
「白虎」は見られない

最後にキトラ古墳を訪れた。キトラ古墳自体は地味なものの、近くにあるキトラ古墳壁画体験館 四神の館にて発掘当初の様子を伝える展示が無料で見られるので、考古学における発掘手法を知りたい方はマストで訪れるべき場所である(ただし、写真撮影は不可)。

また、8月の期間にて国宝「白虎」が見られるとのこと(こちらも撮影不可)。旅行数日前に申し込んで見ることができたものの、非常に人気が高く当日申込みでは鑑賞できないため、どうしても観たい方は日程が決まった段階で申し込むことをオススメする。

高松塚壁画館で展示されている「白虎」

「白虎」自体は高松塚壁画館でも見ることができる。しかし、キトラ古墳の「白虎」と比較すると顔の向きが反対となっている。また、オペラグラスでじっくりと観察すると、ボロボロになった壁の狭間から明瞭なめらかな曲線で描かれる「白虎」の生き生きとした姿に魅了される。10分と短い時間でありながらも鑑賞できてよかった。

11.最後に

帰りのバスまで銭湯で休んだ

今回、弾丸ではあったが飛鳥・藤原の宮都をフィールドワークしてみて、世界遺産としての魅力や価値を掴めた。他の日本の遺産ではあまり語られない遺産保護の話は、世界遺産アカデミー認定講師として勉強になるものがあった。特に飛鳥資料館で学んだ、部材保護に10年以上もの歳月がかかる話はロマン滾るものでありグイグイと惹き込まれた。

なお、1日自転車で主要な場所を回ろうとされている方は、かなり時間にシビアな旅になるため要注意である。2年前にビワイチをしていたので余裕かと思ったのだが、通常の自転車で坂を上がるのはかなりハードであった。また17時までに自転車を返却しないと行けなかったのだが、キトラ古墳を出たのが16:40とギリギリであった。友人や家族と行く場合、食をある程度捨てる必要があるので関係が悪くなる危険性があることを意識したほうがよい。

残念ながら帰りの夜行バスでは一睡もできず、翌日の夜勤がエクストリームな地獄と化したのだが、それも善き夏の思い出といえよう。

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CHE BUNBUN 映画ブログ『チェ・ブンブンのティーマ』の管理人です。よろしければサポートよろしくお願いします。謎の映画探しの資金として活用させていただきます。

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