配信の手軽さに抗う、レコードに針を落とす「あの3秒間」の静寂
スマホを開けば、何千万曲もの音楽がある。
聴きたいと思った瞬間に、始められる。
気分が変わったら、スキップできる。
移動中も、作業中も、眠る前も——
音楽はいつでも、どこでも「〜ながら」
そこにいてくれる。

それは、
本当に「便利で豊か」なことだと思う。
ただ——
ふと、
こんなことを考えることはないだろうか。
この手軽さの外側に、
まだ知らない音楽の楽しみ方が、
あるんじゃないかと。
■ 不便、という選択肢
2025年、国内のアナログレコードの売上が、
37年ぶりに80億円を超えた。

統計データを参照
「若い世代」が主な牽引役だという。
生まれたときからサブスクがあった世代が、
わざわざ、レコード盤を買っている。
僕にとっては、とても嬉しい話だった。
何故なら、レコードショップは勿論、
“レコードプレイヤーや“針”などの、アナログレコードに派生する産業や機器メーカーの市場が護られるからだ。
宇田川のシスコが閉店した時の切なさといったら…
(参考迄に当時のシスコ坂を感じられる動画 )
実際に、レコードプレイヤーの名機である、
テクニクス「SL-1200シリーズ」は、第二世代であるMK2からMK6を最期に2010年に販売が終了し、多くの音楽ファンやクラブDJたちに惜しまれた…
しかし、第三世代のSL-1200シリーズが2016年に復活し、クラブシーンでもPC DJが主流の最中、2019年にはMK6以来11年ぶりのDJ向けモデル“MK7”が発売されたのだ。
レコード針では、生産終了となったSHURE社製カートリッジ「M44G、M44-7」の復刻モデルが、国内メーカーから発売されたのも嬉しい話だった。
更には、昭和のポータブルレコードプレイヤーの名機である「サウンドバーガー」や「コロンビアGP-3R」も、令和の時代にまさかの復刻!
「懐古趣味」も理由のひとつとしてあるかもしれない。が、
ただ僕が、1番に思うのは——
スマホの中の音楽には「重さ」がないから。
ってのが、理由としてあろうかと。
手触りがない。
棚に並べることができない。
ジャケットを眺めながら、今夜これを聴こうと迷う時間もない。

たとえば、誰もが知っているロックバンド、
ビートルズの『アビイ・ロード』。
あのアルバムをLP盤で手にしたとき、
ジャケットの横断歩道の写真が、手のひらの中で存在感を持つ。
それはもう、画面サムネイルのソレとは、
別の体験だ。
(レコードのジャケットアートについては、下記マガジンをチェック頂ければ幸いです)
「好き」を物質として持てること。
「所有することの偏愛」とでも言おうか…
そのことがレコードを、
ただの音楽再生メディア以上のものにしているのではなかろうか。
■ 儀式、と呼んでいい
棚から一枚を選ぶ。
その行為だけで、すでに集中している。
コレクションの中から「今日の一枚」を決めるとき、
人は自分の気分と静かに向き合っている。
サブスクのレコメンド・アルゴリズムは、
当然に「それ」ができない。

中袋からそっと盤を取り出して、光にかざす。
傷がないか確かめる。
クリーナーをかける——

「音溝が擦り切れるまで聴いた」なんて、自称“音楽マニア”の、あるある話も聞くけれど、
(実際にはビニールよりもレコード針のスタイラスチップの方が消耗します)
大切に扱いながら聴き続けるのであれば、
実はレコードって半永久的に愛し続けられる
“素敵な”音楽メディアなのだ。
レコードマニアとしても有名な、
作家の“村上春樹”氏はかつて、こんなことを話していた。
「レコードは愛情をかけてやればかけてやるほど、音が良くなっていく」
大袈裟ではない。
レコード盤に触れるたびに、
自分がその音楽を大切に思っていることを、
確認している。
それは、再生ボタンをタップする0.3秒では、
絶対に起きないことなのだ。
■ 3秒間の、静寂
慎重に、ゆっくりと。
呼吸を整えるように、音溝に針を、落とす。

この瞬間だけは、いつまで経っても
良い緊張感がある。
そして——
何も聴こえない時間が始まる。
チリチリ……と、かすかな電気のざわめき。
それがしばらく続いて、突然、音楽がくる。
サブスクならほぼ0秒だ。
再生ボタンを押した瞬間、音が飛び込んでくる。

準備など要らない。
キュー出しされて「効率は良い」と言える。
でも——
針が溝をたどるあの静寂の中に、
何か意味を見いだせるとしたら——
前曲が終わり、次曲が始まるまでのインターバル。前曲の残像が、まだ身体の中にある。
それを手放す時間。
次の音楽を迎え入れる準備。
人間の心には、ページをめくるための、
あの一呼吸が要るのかもしれない。

1.5倍速やイントロスキップに慣れた耳には、
最初は少し奇妙に感じるかもしれない。
でも、その数秒の「余白」に馴染んだとき——
音楽との距離が、少しだけ変わるのかもしれないね。
■ 手間をかけるという選択
サブスクで音楽を聴くこと、レコードで聴くこと、どちらが正しいかという話ではない。
ただ、レコードには「〜ながら」ができない構造がある。
棚から選ぶ。クリーニングする。
針を落とす。盤をひっくり返す。
ランアウトから針を戻しレコードをしまう。
そのたびに、音楽を聴く手間と、
音楽メディアの存在に意識が向く。

手間をかけることで
関係が深まることが—— ある。
料理でも、手紙でも、きっと同じだ。
プロセスに時間をかけた分だけ、
その体験は記憶の中に根を張る。
アナログレコードが教えてくれるのは、
そういうことなのかもしれない。
サブスクが開いてくれた自由な扉のその奥に、
もう一枚、古めかしい扉が見えるとしたら…
その先に何があるのか——
まだ知らない音楽の楽しみ方があるのか——
是非、冒険して欲しいと思うのです。

“Drive Your Romance!”
By : DJ K.M a.k.a.WHISKY
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