第8話 作り手と使い手のギャップ
ミシュラン店オーナーとの出会いをきっかけに、
僕は初めて「炭を使う側の本音」と真正面から向き合うことになる。
炭焼きは、山の木と向き合い、窯と向き合い、
そして自分の感覚と向き合う世界感。
炭は“作品”のようなもの。
出来上がった炭を製炭士同士で評価し合う。
そこにすごい違和感を感じていた。
作り手はどうしても「これがいい炭だ」と思い込んでしまう。

だが、焼き鳥の世界では常識がまったく違った。
■ “良い炭”の基準が全く違う
懇親会のあと、ミシュラン店の方が
「一度、炭を使わせてほしい」と言ってくれた。
本来は禁止されている直接販売だが、
“毎回フィードバックをくれる”という条件で特別に渡すことにした。
そこで初めて知ったのだが、作り手が“最高”と信じていたものが、必ずしも使い手の“最高”ではない。
例えば——
・温度が上がりきらない
・逆にすぐ温度が落ちて困る
・途中で立ち消えしてしまう
・すぐ砕けてしまう
・すぐ減ってしまう
…etc.
こちらとしては
「窯の出来も良いし、工程も完璧!」
と思っている炭でも、
焼き鳥屋にとっては
「焼き台で扱ったら全然違う」
ということが普通に起きていたということ。
■ はじめての“実践的フィードバック”
そこから毎回、
焼き鳥屋さんが実際にお客さんの口に入るまでの工程、火の上がり方、焼き上がりのムラを教えてくれたりした。
僕は炭作りの現場だけでは絶対に知れない
“使い手の現場の情報”を初めて浴びることになった。
正直、最初はショックだった。
「師匠や爺さん達のやり方を守って丁寧に焼いてるのに…なんで?」
と悩む日もあった。
でも気づいたことは、主役は食べに来るお客さんであって製炭士ではない。
あくまでも縁の下の力持ち、それを上手に扱う人がいて、エンドユーザーが喜ばなければそれまでの工程が意味をなさない。

この瞬間からようやく、
『違う視点の製炭士』としてのスタートラインに立てた。
■ 伝統と現場、その間にある“深い溝”
何十年も炭を焼いてきた師匠たちでさえ、
焼き鳥の現場の細かな要望までは知らない。
それぐらい閉ざされた世界だった。
逆に、焼き鳥屋の方々は、
炭がどのように焼かれ、
どれだけの手間がかかっているのかを知らない。
その間には、深い溝がある。
ただミシュランを取るレベルのオーナーは作り手にものすごいリスペクトをして接してきてくれる。
実際、紀州備長炭を扱えるお店は全焼き鳥店の2%以下という狭き門。
炭を焼いて終わりではない。
焼かれたあと、どんな火を生み、
どんな味を支えているのか。
そう気づかせてくれた出会いだった。
第9話 技術向上、自己研鑽の日々
