電気工事を辞めても、マキタのドリルを売れない理由
家に、マキタの18V充電式振動ドリルがある。
今の僕には、ほとんど出番がない。
電気工事をしていた頃、特に独立してからは、
いつも現場に持っていった相棒だった。
振動モードに切り替えて、コンクリートに穴を開ける。
ガガガガガッ、と大きな音を立てながら、何度穴を開けただろう。
プラグを打つための小さな穴から、
機器やボックスを固定するための穴まで、
本当にたくさんのコンクリートに穴を開けてきた。
当然、今では傷だらけだ。
新品の工具みたいな綺麗さはない。
でも僕には、その傷がなんとなく捨てがたい。
先日、暇つぶしに「家にある物を売って、お金を作ろう」と考えた。
そこで、このドリルが目に入った。
もう電気工事をしないのなら、必要ない。
マキタの18Vなら中古でも欲しい人はいるだろう。
売ってしまえば、少しはお金になる。
理屈ではそうなのだけど、
「これは売れないな」
と思った。
独立して仕事をしていた頃、僕はこのドリルを持って、
いろんな現場へ行った。
仕事がうまくいった日もあったし、
疲れ果てて帰った日もあった。
次から次へと仕事が入って、
工具を車に積んで走り回っていた時期もあった。
ドリルは何もしゃべらない。
ただ、バッテリーを差し込んでトリガーを握れば、
いつもの音を立てて働いてくれた。
今では、その音を聞くこともほとんどなくなった。
もしかしたら、この先ずっと使わないかもしれない。
それでも、まだ売る気にはなれない。
僕にとってこれは中古の電動工具ではなく、
あの頃、一緒に働いていた相棒なのだ。
いつかまた何かを作りたくなったとき、
久しぶりに18Vのバッテリーを差してみよう。
そしてトリガーを握って、
まだ元気に回ったら、
「お前もまだやれるな」
なんて思うのだろう。
いや。
そう言いながら、本当は自分自身に言っているのかもしれない。
