📚89【八秒で跳べ】跳ぶ前に考えろ 1321
※ヘッダー画像は表紙部分です
八秒で跳べ
坪田侑也(2002年東京都生まれ、慶應大学医学部在学中、15歳のときに書いた『探偵はぼっちじゃない』でボイルドエッグズ新人賞を当時最年少で受賞)
文藝春秋 335頁
2024.2.10初版
高2の宮下景はバレー部のレギュラー部員。
大切な試合を目前にしたある日、別のクラスの真島綾が学校のフェンスを乗り越えようとしているのに出くわし、自転車で転倒し右足首を負傷。
負傷を隠して出場した練習試合で靭帯を損傷し、試合に出られなくなってしまう。
景の代わりに試合に出ることになった北村は、同じ中学のバレー部出身で、退部を考えている。
大切な試合ではミスを重ね、チームは負けてしまう。
景ほど上手くはないし、試合に出たこともない北村を、景は見下げている。
景の負傷に責任を感じた綾は、罪滅ぼしにバレー部のポスターを描くことを引き受け、景と親しくなる。
綾は漫画を描くのが好きで、過去には受賞歴もあるが、今は思うように描けない時間を過ごしている。
バレー部レギュラーという居場所を失い、北村に対し嫉妬や焦りの感情を持つ景。
試合出場を重ね、バレーが楽しい、上手くなりたいと退部を撤回し、自主練に励む北村。
バイトには行けるが、時々不登校を繰り返し、漫画を描いていることを親に打ち明けられない綾。
バレーへの情熱を失ったかのような景の態度に、苛立ちを隠せないチームメイト。
手垢のついた言葉だけれど、青春のエッセンスがぎゅっと詰まっていて、印象的なセリフが随所に出てくる。
「景」
「……あんまり俺のこと、舐めないでほしい」
「自分の描いている世界にどんどん潜っていって現実世界が遠のいていく、っていうか。ペンを動かしながら、心地いいんだけど、ちょっと息苦しさもあって、でも簡単に浮上できない。浮上したいって思うことすらない。どんどん、深く潜ってく。そんなふうに、まえは漫画を描いていた、はず」
「覚えておきなさい。不調のときは、成長できる最大のチャンスだ」
「でも、俺は俺の選択を一つも後悔してない」
そんなに心配してないけどね」
「どうせ明日にはどうにかなってる」
「試合中に必要なのは、雑念を排した上で思考し、行動を最適化することだ」
「反省や後悔は、試合が終わってからだ」
「存分にやればいい。悩んだり、苦しんだりはコートの外でやることだ」
「悩みながら、もがきながら、それでも決してバレーを離さないやつが一番強い」
「……切っても切り離せない。私にとって漫画はまさにそう。好きとか嫌いとかじゃない。もちろん好きで始めたことだけど、いつの間にかそんな簡単に割り切れるものじゃなくなってる。たしかに、描いていても苦しいことばかりだよ。でも私にとって漫画を描くことは、ほとんど生活の一部だって、そう気づいたら、これからも描いていける気がした」
タイトルの「八秒」は、バレーで点が決まってラリーが途切れ、次のラリーが始まるまでの時間なんだとか。
「次のラリーで生じうる可能性について、この短時間ですべて洗い出して検討する。そのときのローテーション、ポジション、事前のデータとその日の相手の調子と傾向、自分の調子、味方の調子と傾向。それらをもとに八秒間で考える。パターンを整理して、次の行動を最適なものにする。ラリー中の判断速度が極限まで高まるように」
景は自ら、杉内先生に稲村東高との試合に出してほしいと依頼。
ラリーとラリーの間の八秒間の凪。
前夜の和泉との会話を思い出し、様々な可能性を洗い出す。
景のスパイクは、稲村東高のブロックの腕を弾き飛ばす。
景とハイタッチを交わすチームメイトに、かつての蟠りはもうない。
妙に冷めているかと思えば、急に熱くなる。
無関心なようで、過剰なほど周囲の視線が気になる。
そんな青臭くてややこしくて若々しい部活の描写がリアル。
著者の坪田侑也さんは、中学•高校時代にバレーボール部に所属。
ご自身にも悔しい思いやスランプのご経験がおありなのだろうか?
青春って、何だかヒリヒリする。
全記事をマガジンに収録しています 2025.11.8
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