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📚80【救われてんじゃねえよ】には救いがありまして 1240


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救われてんじゃねえよ

上村裕香(2000年佐賀市生まれ、京都芸術大学大学院在学中、本作でデビュー、表題作は女による女のためのR-18文学賞大賞受賞)

新潮社 123頁
2025.4.15初版



高校生の沙智は8畳の部屋がひとつしかない県営団地で両親と暮らしている。
進行性の難病を患っているお母さんの介護も家事も沙智が担っていて、お父さんもそれを当たり前だと思っているようだ。
「ヤングケアラー」という言葉は未だ世の中に浸透していない。
貧乏なので積立金を払えず、沙智は修学旅行に行けない。

何だか悲惨な展開が予想される。
決して明るいテーマではないし、沙智にもお母さんにもお父さんにも焦ったくて、「どうして?」「今?」と地団駄を踏みたくなることばかり。
なのに全編を通して、ペーソスよりユーモアを感じてしまう。

子どものように沙智に甘え依存するお母さん。
病気のせいなんだろうけど、ちょっとは沙智を解放してやって‼︎
欲しかった高級カメラを、お母さんの障害年金で買ってしまうお父さん。
カメラを買うくらいなら、沙智を修学旅行に行かせてやって‼︎
それ、そもそもお母さんのお金だよ‼︎

沙智は給付奨学金を受け東京の大学に進学する。
「借金だ、恥ずかしい、おれが苦労させていると思われるじゃないか」と貸与奨学金に反対したお父さん(いや、実際に苦労させとるやんっ‼︎)は、
給付奨学金には一転「返さんでよか奨学金は『得』やけん」。
「わたしのこと見捨てるんだ」と沙智の脚に泣いてすがりついたお母さんも「奨学金、余ったらあたしが使ってやるけん送ってね」。
沙智、自由になりなよ。
もう充分すぎるほど両親に尽くしてきたやん?

大学3年の春休み、地元でのインターンのために沙智が久しぶりに帰った実家の8畳間には、なんと70インチ(‼︎)の4K大画面テレビ(20万円‼︎)。
「無駄遣いしたん?」と訊く沙智に、「見とるけん無駄遣いじゃなか。元取りよるやん」とお父さん。
「元を取る」ってそういう意味だったっけ?

「テレビ買うより先に引越しなよ。この部屋狭すぎるもん」という沙智に、「広い部屋やったらテレビ小さくなるやん」
はて、どういう理屈?
「八畳の部屋で七十インチのテレビ見たら大画面って感じのすっけど、二十畳で七十インチ見たら、小さく感じるやろ?せっかく大きかと買うたとに。もったいなかやん。テレビ大きかほうがよかやん」
「意味わからん……」
沙智と私の声が揃う。

第一志望の会社の二次面接当日、沙智は保安検査直前の空港で看護師からの電話を受ける。
「お母さんが怪我で搬送されたので迎えにきていただけますか」。
なんでこのタイミング?
お父さんはどうしたの?
沙智、なんで電話に出るのよ‼︎

ある日の沙智は、インターン中の制作会社の企画会議直前、バスに乗り間違えたお母さんから「帰れんくなったけん、迎えにきて」という電話をとる。
慌ててお父さんに電話をかけると、お父さんからこう言われる。
「沙智、なんでそがんがんばいよると?」
「介護も家事も、お母さん探しに行くとも、だれも頼んでないやろ」
「仕事やけん切るばい。気にせんでよかけん」

確かに頼まれてない。
でも沙智がやらなければ誰がやる?
沙智がやるしかないやん?
やらんでもいいの?
やらんでも良かったの?
又しても私は、沙智と一緒に拍子抜け。

「お母さん、仕事中には電話しないでって———」地元に戻らず東京の制作会社に就職した沙智は、仕事中にお母さんからの電話をとっている。
内容は「上の階の息子さんが親にビトン(ヴィトンではない)のハンドバッグをもらったから、あたしも欲しい」であったり、「ハンバーガーの注文の仕方が分らないから、代わりに注文して欲しいであったり。
もう、沙智ったらなんで電話とるんよ⁇
……と思ったら


素直に「いいよ」と返事をしていた。お母さんは「よかった。明日の昼に届くようにしたくて、頼むのはね、チーズバーガーのセットやろ、ポテトと……あ、ナゲットにしようかな」ともう注文の品を読み上げはじめている。わたしは遮って言った。
「その代わり、もう仕事中は電話してこないで。ボーナスでヴィトン買ってとかいう連絡もやめて。お盆は帰らないで仕事するから、お金返さなくていいよ。ディレクターになるまでは、帰省もあんまりできないと思う。はやくディレクターになりたいけん」
 ひと息にいってしまうと、酸欠になったみたいに頭のてっぺんが痛んだ。一拍置いて、お母さんが「なんでえ!お金払うよ、アイスも買ったげるから」と情けない声をあげた。子どもじゃないんだから、と笑う。笑ってから、ああ、笑えるようになったんだ、と他人事のように思った。
「いらない。自分で買えるから」
(中略)すぐさまリダイヤルがかかってきた。わたしはスマホの電源を切り、カバンに放り投げた。実家の八畳間が急に遠のくのを感じる。

縋ってんじゃねえよ P123



沙智、よく言った‼︎
渾身の言葉、相互依存からの脱却‼︎
「お母さんとお父さんを大事にする」から、「自分のことも大切にする」への路線変更。
いや路線拡大か。

沙智がお母さんを立ち上がらせようとして、一緒に倒れ込んでしまったとき、テレビから流れてきた「でもそんなの関係ねえ!(小島よしお)」に大爆笑するシーンがある。
著者の上村裕香さんにも高校時代に難病のお母様を介護した経験があり、何度も一緒に倒れ込み、笑えてきたことがあった(2025.4.30朝日新聞read & think)。

体験に根ざしているからか、排泄の失敗も含め介助•介護の描写が本当にリアル。
私は介護業界に13年余りいたのだけれど、臭い•温度•湿度•感触まで感じられた。
でもね、本当に悲壮感がない。


「悲劇の外側にある、喜劇的なものを書きたかった。小説だからこそ書けるリアルがあると思う」

「固定観念にカウンターパンチを打つ、喜劇を書いていきたい」。

2025.4.30朝日新聞read & think



介護を知る人も知らない人も、関わっている人も今は無関係な人も、誰もが他人事ではいられない。
モヤモヤしながら、クスクス笑いながら読んでみてね。








2025.8.25

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