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校庭の魔王と、ぼくたちのパーティー

あらすじ

平凡な小学生・名方なかたは、現実では目立たない存在ながら、大好きなゲームの中では勇者として活躍する日々を送っていた。ある日、空に現れた謎の存在によって日常は崩壊し、学校に“魔王”が襲来する。混乱の中、名方は勇者として覚醒し、想いを寄せる三伏みふしさんや仲間たちとともに戦いに挑む。最初は無力だった彼らも、それぞれの役割を見つけ、連携することで力を発揮していく。戦いの中で明かされるのは、この世界が彼の「願い」によって生まれたという事実。恐怖や葛藤を乗り越え、仲間と絆を深めた名方は、最後の一撃にすべてを託す――これは、少年が“ひとりではない強さ”を知る物語。

【第一章:ありふれた日々と、選ばれないぼく】

特別なことなんて何もない。ゲームが好きで、友達と遊んで、たまに授業で寝る――そんな普通の毎日。ただひとつだけ違うのは、気になる子が三人いることだった。

ぼくの名前は名方なかた、小学四年生。どこにでもいる普通の男の子だ。

背はまあまあ高い方で、背の順なら後ろから三番目。特別足が速いわけでも、勉強ができるわけでもない。

スポーツは好きだ。

クラブではバスケットボールをやっているし、昼休みには友達とサッカーをする。週末には少年野球の練習にも参加している。

でも――どれも一番にはなれなかった。

バスケでは試合に出られないこともあるし、サッカーも野球もレギュラーじゃない。

どの場所でも、ぼくはいつも脇役だった。

だからというわけじゃないけれど、ぼくはRPGゲームが大好きだ。

家に帰れば、毎日のように勇者になって冒険している。

ゲームの中では、ぼくが主人公だ。

魔王を倒したり、伝説の剣を見つけたり、仲間と一緒に世界を救ったりする。

現実のぼくとは、まるで違う。

学校でのぼくは、そんなにすごくない。

授業はちゃんと受けている……つもりだけど、気づけば机に突っ伏して寝てしまっていることも多い。先生に起こされるのも、もう何回目かわからない。

だから成績はだいたい普通。特別いいわけでも悪いわけでもなく、目立たない“真ん中”だ。

昼休みは友達と校庭でサッカーやドッチボールをしたりする。

朝も少し早めに登校して、校舎の中で鬼ごっこをしたりして遊んでいるし、放課後はそのまま友達の家に行って、一緒にゲームをすることも多い。

わりと友達は多い方だと思う。
クラスでも男子とはよく話すし、ふざけたりもする。

普通に、にぎやかな毎日を過ごしていた。

女の子ともまったく話さないわけじゃない。グループでの会話に入ったり、何かきっかけがあれば普通に話すこともある。

ただ――

少しだけ苦手だ。

いざ一対一になると、何を話せばいいのかわからなくなる。

変に意識してしまって、うまく言葉が出てこない。

気づけば、ちょっと距離をとってしまう。

だから。

普通に話せているようで、どこか一歩引いている。

そんな感じだ。

そんなぼくにも――

クラスには、気になる子が三人いる。

もちろん三人とも好き、というわけじゃない。

でも、かわいいなと思ったり、優しいなと思ったり、一緒の班になれたらいいなと思ったり。

そんなふうに気になってしまう子たちだ。

まずは三伏みふしさん。

クラスの中でも、いわゆる“マドンナ”みたいな存在だ。背は低くて背の順だと前から3番目ぐらい。誰とでも分け隔てなく話せて、自然と人が集まってくる。明るいのにうるさくなくて、やさしいのに無理している感じもない。

みんなが「三伏さんっていいよなぁ」って思っているのが、なんとなく伝わってくる。

実は、一度だけ席替えで隣になったことがある。

そのときのことは、今でもよく覚えている。

ノートを忘れて困っていたら、「使う?」って当たり前みたいに貸してくれた。少しだけ甘いシャンプーの匂いと、やわらかい声がすぐ近くで聞こえて、なぜかそれだけで頭が真っ白になった。

特別なことじゃないはずなのに、ぼくにとってはそれだけで十分すぎるくらいだった。

でも――

それだけだ。

それ以上、うまく話すことはできなかった。

何を話せばいいのか分からなくて、結局ほとんど会話もしないまま隣の席のターンは終わった。

たまに目が合うだけで、ドキッとしてしまう。

あのとき、もう少し話せていたらって、少しだけ思う。

次に口河くちかわさん。

いつも静かで、自分から前に出ることは少ない。でも、授業で先生に当てられると、すらすらと答えてしまう。頭がいいんだと思う。
背は、女の子の中では割と高い方で背の順では後ろから5番目で僕の少し前にいる。だから集会などで並んでいるときはいつも見ていた。

休み時間も本を読んでいることが多くて、ちょっと近寄りがたい雰囲気がある。でも、たまに見せる小さな表情の変化が気になってしまう。

最後に飯石いいしさん。

元気で、運動が得意で、休み時間になるとすぐに校庭に飛び出していくタイプだ。誰とでも話せて、クラスの中心にいるような存在。背は、平均ぐらいで背の順も真ん中だ。

声も大きくて、笑うと周りまで明るくなる。

ぼくとは、まったく違う世界にいる人みたいだ。

――三人とも、まったく関わりがないわけじゃない。

授業やグループのときには普通に話すし、ちょっとしたやりとりくらいならできる。

「おはよう」とか、「それ貸して」とか、そのくらいなら。

でも――

それ以上になると、急にうまくいかなくなる。

男子と話すときみたいに、自然に言葉が出てこない。

変に意識してしまって、何を言えばいいのかわからなくなる。

本当は、もっと話してみたいのに。

もう少し、普通に関わってみたいのに。

気づけば、自分からは踏み込めないまま。

少し距離を保ったまま、見ているだけになってしまう。

それでも。

なぜか、目で追ってしまう。

近づきたいのに、近づけない。

そのもどかしさを、どうしていいかわからなくて。

だからぼくは、ゲームの中で勇者になる。

――現実でも普通に話せるし、笑ったりもできる。

でも、あと一歩だけ踏み込む勇気が出ない。

その“もう少し先”を、ゲームの中でやっている気がする。

迷わず前に出たり、ちゃんと気持ちを伝えたり。

現実のぼくには、まだ少し難しいことを。

実はゲームで新しく仲間キャラクターを作るとき、その三人の名前をこっそり付けたこともある。

誰にも言っていない秘密だ。

友達に知られたら、絶対にからかわれるから。

だから、その名前を見るたびに少しだけドキドキしながら、一緒に冒険している。

現実では、普通に話すだけでも緊張するけど。

ゲームの中くらいは、勇者の仲間になってもらってもいいでしょ。

そんなことを考えながら、昨夜も遅くまでゲームをしていた。

三人を仲間にしたパーティーでダンジョンを進み、強いボスを倒したところまでは覚えている。

そのあとベッドに入った記憶は、あまりない。

勇者としての冒険が終われば、待っているのはいつもの日常だ。

そして学校では。

「……すぅ……」

「名方、起きなさい」

先生の声が教室に響いた。

ぼくは机に突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。

「名方!」

二度目の呼びかけに、クラスのみんながくすくす笑う。

「はっ!?」

あわてて顔を上げると、先生が教壇の前であきれたようにため息をついていた。

また寝ていた。

さっきまで普通にノートを書いていたのに、気づけば机に突っ伏している。

教室のいつもの風景。

少しだけ恥ずかしくて、でもどこか慣れてしまっている。

そのあいだ――

夢を見ていた。

夢の中では。

ぼくは、ひとりで戦っている。

仲間もいない、ひとりの冒険。

何度も魔王に挑んでは、何度もやられる。

立ち上がって、またやられて。

それでも、また向かっていく。

誰かを守るわけでもなく、ただひとりで戦い続けるだけの夢。

でも、それはただの夢だ。

現実とは関係ない。

そう思っていた。

その日までは。

【第二章:空に現れた“宣告”】

その日常は、何の前触れもなく終わる。空に現れた“それ”は、世界を巻き込む出来事の始まりだった。

夢から覚めて、教室に日常が戻る。

ぼくは何事もなかったみたいに席に座り、ノートを開きなおす。

授業は、いつも通り進んでいた。

先生の声を聞きながらも、さっきの夢の名残がわずかに残っていて、どこか現実に集中しきれていなかった。

ふと、頭の奥で――

剣を振った感覚だけが、一瞬だけよみがえる。

思わず、ペンを持つ手に力が入る。

わずかに、震えていた。

すぐに消えてしまうほどの、小さな違和感。

でも――

どこかで、知っている気がした。

その感覚を、ぼくは“知っている”。

そのとき――

教室の空気が、ゆがんだ。

そのとき――

教室の空気が、ゆがんだ。

「……なに?」

誰かが声を上げる。

窓の外。

空が、急に暗くなる。

さっきまで青かったはずなのに、まるで夕方みたいに色が落ちていく。

その中心に――

“何か”が映し出された。

巨大なスクリーンみたいに。

映画館で見るような、ありえない大きさで。

空いっぱいに広がる映像。

そこに浮かび上がったのは――

顔だった。

人の形に近いのに、人じゃない。

赤い目。

歪んだ口。

見ているだけで、息が詰まるような存在。

「な、なにあれ……」

クラスの誰かがつぶやく。

その“顔”が、ゆっくりと口を開いた。

『我は――』

低く、重い声。

教室の中に直接響いてくるみたいだった。

『この世界を支配する者』

誰も動けない。

先生も、言葉を失っている。

ただ、見ているしかない。

『まずは――』

その赤い目が、ゆっくりと動く。

どこかを探すように。

そして。

ピタリと止まる。

「……え?」

一瞬。

ぼくと、目が合った気がした。

『ここから始めるとしよう』

次の瞬間。

映像が、ぶつりと消えた。

【第三章:校庭に降りた災厄】

それは映像では終わらなかった。音と振動とともに、“本物”が現れる。

映像が消えると同時に――

ドゴォォォン……!!!

ものすごい音が響いた。

教室が揺れる。

「きゃあああ!!」

悲鳴が上がる。

窓の外。

校庭の端――校門のあたりから、土煙が一気に上がっていた。

「あそこ……!?」

誰かが叫ぶ。

ぼくは、思わず窓に駆け寄る。

そして――

見てしまった。

校庭の地面が、盛り上がっている。

いや、違う。

“押し上げられている”。

その中心から――

巨大な影が、ゆっくりと現れる。

校舎と同じくらいの大きさ。

ありえないスケール。

地面を割りながら、上半身だけが姿を現す。

腕。

肩。

そして――

あの顔。

さっき空に映っていた“顔”と同じものが、そこにあった。

本物として。

「うそ……だろ」

誰かの声が、震える。

魔王は、校門の方に半身を埋めたまま、ゆっくりと体を起こす。

その動きだけで、地面がさらにひび割れる。

校庭が、崩れていく。

完全に“そこにいる”。

さっきの映像なんかじゃない。

現実だ。

魔王が――

ぼくたちの学校に、現れた。。

「逃げろー!!」

誰かが叫ぶ。

教室が一気に混乱する。

そのとき――

ズドォン!!!

ものすごい衝撃音とともに、校舎の一部が崩れた。

廊下側の壁が砕け、砂ぼこりが一気に舞い込んでくる。

「きゃああああ!!」

悲鳴があちこちから上がる。

天井の一部がきしむ。

机が揺れる。

(やばい……本当に壊されてる……!)

そのとき。

崩れた壁の向こう側に、ちらりと人影が見えた。

砂ぼこりの中で――

三伏さんが、立っていた。

驚いたように目を見開いている。

一瞬だけ、目が合う。

「(三伏さん、)……っ」

なにか言おうとしたのに、声が出なかった。

でも――

その表情だけで、十分だった。

(このままじゃ……)

胸が強く締めつけられる。

ドンッ!!

もう一度、大きな衝撃。

窓ガラスが割れる。

外から、巨大な腕が見えた。

「……うそだろ」

現実じゃないみたいだ。

でも、これは夢じゃない。

そのとき。

――ぐにゃり、と視界が歪んだ。

足元の感覚が消える。

一瞬、体が浮いたような感覚が襲う。

そして――

【第四章:勇者の覚醒と、最初の敗北】

逃げるはずだった。何もできないはずだった。それでも――なぜか、ぼくはそこに立っていた。

さっきまで教室にいたはずなのに。

足の裏に伝わる感触が、コンクリートじゃない。

ざらついた地面の感覚。

ゆっくりと視線を上げる。

そこは、見慣れたはずの校庭で――

目の前には、あの魔王がいた。

どうやってここに来たのかもわからない。

「……ほう」

魔王が、こちらを見下ろす。

その視線が、まっすぐぼくに向けられる。

「貴様か」

体が震える。

喉が、うまく動かない。

「……っ」

なにも言えない。

名前すら、出てこない。

しばらくの沈黙のあと――

魔王は、興味を失ったように目を細めた。

「……まあよい」

その一言で、空気が変わる。

視線が、ぼくから外れる。

そして――

ゆっくりと、別の方向へ向けられた。

その先にいたのは。

三伏さんだった。

「……っ!」

心臓が強く跳ねる。

「やめろ……」

声が出ない。

足も動かない。

魔王の腕が、ゆっくりと持ち上がる。

そのまま、振り下ろされようとしている。

「……逃げて」

届かない声。

三伏さんは、動けずにいる。

(間に合わない――)

その瞬間。

体が光に包まれた。

手の中に、剣が現れる。

頭の中に声が響く。

――勇者よ。

「なに……これ?」

わからない。

手の中の剣も、体を包む光も、全部が現実じゃないみたいで。

でも――

目の前には、三伏さんがいる。

振り下ろされようとしている、あの巨大な腕。

(逃げたら……)

考えるより先に、体が動いていた。

「三伏さあああああん!!」

ぼくは走る。

怖い。

足が震えているのがわかる。

それでも――止まれなかった。

三伏さんの前に、飛び出す。

剣を振り上げる。

その瞬間。

魔王の腕が、わずかに動いた。

「……っ」

見えたと思った次の瞬間――

ズドン!!

とんでもない衝撃。

視界が一気にぶれる。

体が軽くなったと思ったら、そのまま地面に叩きつけられた。

「がはっ……!」

息ができない。

体が動かない。

さっきまでの勇気が、一瞬で消えた。

(……無理だ)

こんなの、勝てるわけがない。

強すぎる。

怖いよ。

もう一度、立ち上がるなんて――

そう思ってしまった。

夢みたいにはいかない。

【第五章:祈りの光】

終わりかけた戦いに、やさしい光が差し込む。それは、ぼくがずっと遠くから見ていた存在だった。

ひとりじゃ、勝てない。

やっぱりぼくには無理だ。
ゲームとは違う。ぼくは勇者にはなれない。

すると、後ろから
やさしい、聞き覚えのある声が聞こえた。

「名方くん」

背中にあたたかい光を感じる。

「大丈夫……?」

後ろを振り返るとそこにいたのは
三伏さんだった。

「三伏さん……?」

「わたし、よくわからないけど……回復できるみたい」

光が、体を癒していく。

「これゲームでは僧侶っていうのかな?」
「でも、これゲームじゃないんだよね?」

ぼくはゆっくり起き上がる。

「なんで来たの……危ないのに」

思わず言う。

三伏さんは少し笑った。

「だって、名方くんがひとりで戦ってるの見てられなかったから」

「え……」

「それに……」

少しだけ間を置いて。

「放っておくのもイヤだったし」

胸がドクンと鳴る。

こんなにちゃんと話したの、初めてかもしれない。

「回復は任せて」

三伏さんが言う。

「絶対、倒れさせないから」

ぼくは少しだけ迷ってから――

「じゃあ、前はぼくに任せて」

そう言った。

三伏さんが、うなずく。

「うん」
「名方くん、いこう」

ぼくたちは並んで立つ。

【第六章:二人で戦うということ】

戦うことよりも、隣にいることのほうが不思議だった。こんな距離で話すなんて、今までなかったから。

勇者と、僧侶。

たった二人。

なのに――

さっきより全然怖くない。

それどころか。

(……ちょっと楽しいかも)

こんな状況なのに、そう思ってしまった。

三伏さんと、こんなに近くで話してる。

一緒に戦ってる。

今まで、できなかったことだ。

「名方くん、いくよ」

「うん、いこう三伏さん」

ぼくは走り出す。

後ろから、あたたかい光が支えてくれる。

倒れても、すぐ立てる。

「もう一回!」

三伏さんの声が飛ぶ。

ぼくは踏み込む。

怖いけど――

逃げたくない。

この時間が、少しだけ嬉しいから。

何度も何度も倒される。

「……っ、立てる?」

やさしい声がした。

ぼんやりした視界の中で、三伏さんが手を伸ばしている。

「……三伏さん」

体が痛い。

でも、その手を取る。

「回復するね」

あたたかい光が、体を包む。

さっきまでの痛みが、少しずつ引いていく。

「……ありがとう」

「うん」

少しだけ笑う三伏さん。

そのすぐ後ろで――

ドクッ……!

魔王の鼓動が近づいてくる。

「……また来る」

三伏さんの声が少しだけ強張る。

ぼくは剣を握り直す。

(今度は……!)

「いくよ」

小さく言って、前に出る。

魔王の腕が振り下ろされる。

今度は、さっきよりちゃんと見えた。

「はあああ!!」

タイミングを合わせて、横に跳ぶ。

そのまま斬りつける――

ガンッ!!

弾かれる。

「くっ……!」

全然、効かない。

「もう一回いく!」

もう一度踏み込む。

でも――

ブンッ!!

風圧だけで、体が吹き飛ばされる。

「うわっ!」

地面に転がる。

「大丈夫!?」

すぐに三伏さんが駆け寄る。

「うん……なんとか」

「無理しないで」

また光が包む。

回復してくれる。

「……ごめん」

思わず言ってしまう。

「全然効いてない」

三伏さんは首を振る。

「いいの」

「わたしが何度でも回復してあげるから」

その一言で、少しだけ力が戻る。

「……もう一回」

ぼくは立ち上がる。

怖い。

でも、逃げられない。

「いくよ!」

今度は、さっきより深く踏み込む。

剣を振るう。

一撃。

二撃。

三撃――

全部、弾かれる。

「っ……!」

その瞬間。

ドォン!!!

強烈な一撃が直撃した。

「がっ……!」

体が大きく吹き飛ぶ。

「きゃっ!」

巻き込まれて、三伏さんもバランスを崩す。

二人とも、地面に倒れ込む。

息ができない。

体が動かない。

「……やばい」

魔王の影が、ゆっくりと迫ってくる。

見上げると――

巨大な腕が、振り上げられていた。

(終わる……)

そう思った、そのとき。

ドォンッ!!

横から、強い光が走った。

魔王の体に直撃する。

「……!?」

魔王が、わずかに体勢を崩す。

攻撃が、止まった。

「なに……?」

ぼくは息を切らしながら、そちらを見る。

少し離れた場所。

砂ぼこりの向こうに――

ぼんやりと、人影が見えた。

【第七章:戦術という希望】

ただ戦うだけじゃ勝てない。そう思った瞬間、戦い方そのものが変わる。

光の発射された先を見ると。

ひとり、立っていた。

口河さんだった。

片手を前にかざし、静かにこちらを見ている。

その表情は、いつもより少しだけ鋭かった。

「2人とも……立てる?」

落ち着いた声が届く。

ぼくはなんとか体を起こす。

「口河さん……?」

「説明はあと」

短く言って、魔王の方を見る。

「今は聞いて」

その声には、迷いがなかった。

「この相手、正面からじゃ無理」

はっきり言い切る。

「でも、動きに“クセ”がある」

ぼくは息を整えながら聞く。

「右腕の攻撃のあと、一瞬だけ止まる」

「ほんの一瞬だけ」

「そこが隙」

「……ほんとに?」

思わず聞く。

「さっき見てた」

即答だった。

「三回に一回」

「そこに合わせる」

口河さんはすぐに続ける。

「名方くんはそのタイミングで入って」

ぼくを見る。

「三伏さんは、その間に回復とサポート」

三伏さんがうなずく。

「わかった」

「わたしが合図する」

口河さんが手をかざす。

「魔法で動き、少しだけズラすから」

「名方くんはその瞬間、行って」

心臓が強く鳴る。

怖い。

でも――

さっきまでとは違う。

“やり方”がある。

「……わかった」

ぼくは剣を握る。

「いくよ」

口河さんの声。

魔王が腕を振り上げる。

ドンッ!!

一撃目。

「まだ」

ドンッ!!

二撃目。

「……次」

ほんの一瞬。

空気が止まる。

「今!」

同時に、口河さんの魔法が放たれる。

魔王の動きが、わずかにズレる。

「はああああ!!」

ぼくは踏み込む。

今度は、タイミングが合っている。

剣が――

ガキンッ!!

弾かれない。

少しだけ、食い込む。

「……効いた!」

思わず声が出る。

「そのまま下がって!」

口河さんの声。

すぐに後ろへ跳ぶ。

次の瞬間、魔王の反撃が通り過ぎる。

「すごい……」

思わずつぶやく。

さっきまでとは、全然違う。

「次、もう一回いける」

口河さんが言う。

「今の感覚、忘れないで」

三伏さんがすぐに回復をかける。

「大丈夫、いけるよ」

その声に、うなずく。

怖さは消えていない。

でも――

(戦える)

そう思えた。

「もう一回いこう!」

ぼくは前を見る。

口河さんがタイミングを読む。

三伏さんが支える。

そして――

ぼくが斬る。

三人の動きが、ひとつになる。

戦いが、変わった。

「まだいける!?」

口河さんの声が響く。

「次で、もっと削るよ」

ぼくはうなずく。

剣を握る手に、力が入る。

「いくよ」

魔王の腕が動く。

ドンッ!!

一撃目。

「まだ」

ドンッ!!

二撃目。

「……次」

あの“間”。

空気が止まる。

「今!」

口河さんの合図。

同時に魔法が放たれる。

魔王の動きが、わずかにズレる。

「はああああ!!」

ぼくは踏み込む。

今度は、さっきより深く。

剣が入る――

その瞬間。

「遅い!」

横から声が飛んだ。

「え?」

次の瞬間――

ドンッ!!

ものすごい衝撃とともに、魔王の体が揺れた。

【第八章:四人のパーティ】

バラバラだった戦いが、ひとつの形になり始める。

「やああああっ!!」

勢いよく飛び込んできたのは――

飯石さんだった。

全力で剣を叩き込んでいる。

「飯石さん!?」

「名方、遅いって!」

そのままもう一撃。

ガンッ!!

さっきより明らかに深く入る。

「押すよ!!」

迷いがない。

一直線に攻め続ける。

「え、ちょっ……!」

ぼくが戸惑う間もなく、

「合わせて!」

口河さんの声。

「流れ作れてる!」

「今が一番いい!」

「……っ!」

ぼくはすぐに踏み直す。

「はあああ!!」

飯石さんの動きに合わせる。

前から飯石さん。

横からぼく。

タイミングが噛み合う。

ガンッ!!

ドンッ!!

連続で衝撃が入る。

「いい感じ!」

飯石さんが笑う。

「このままいける!」

後ろから三伏さんの声。

「回復、入れてる!無理しないで!」

ちゃんと支えてくれている。

「次、もう一回!」

口河さんが指示を出す。

「この形、崩さないで!」

「了解!」

気づけば、自然に返事をしていた。

怖さはある。

でも――

それ以上に。

(楽しい……!)

ちゃんと、戦えている。

ひとりじゃない。

「いくよ!!」

飯石さんが前に出る。

「任せて!」

ぼくも続く。

口河さんがタイミングを作る。

三伏さんが支える。

四人の動きが、つながる。

バラバラだった戦いが――

ひとつになる。

「はあああああ!!」

四人で、魔王に立ち向かう。

今までで一番、ちゃんとした“戦い”になっていた。

四人での連携が、少しずつ形になっていく。

口河さんの指示で動きが揃い、飯石さんが前をこじ開けて、三伏さんが支えてくれる。

ちゃんと戦えている。

ちゃんと、つながっている。

でも――

ぼくの中では、少しだけ違う。

最初に隣にいたのは、三伏さんだ。

一緒に戦って。

何度も回復してもらって。

少しだけ言葉を交わして。

あんなふうに、近くで話したのは初めてで。

怖いはずなのに――

楽しいって思ってる。

ぼくは剣を握る。

夢とは違う。

夢は、ずっとひとりだった。

何度やられても、ひとりで立ち上がるだけの戦い。

でも現実は――

仲間がいる。

口河さんがいて。

飯石さんがいて。

そして。

すぐ後ろには、三伏さんがいる。

【第九章:守りたい理由】

世界を救う理由は、たったひとりの存在に変わっていく。

「絶対に守る」

小さくつぶやく。

その言葉は、さっきよりもずっと強くなっていた。

校庭で。

ぼくたちの本当の戦いが、加速していく。

四人の動きが、さらに噛み合い始めた――そのときだった。

「……来るよ!」

口河さんの声。

次の瞬間――

魔王の腕が、大きく振り上げられる。

「みんな、散らばって!」

飯石さんが叫ぶ。

ぼくはとっさに横へ飛ぶ。

地面がえぐれるほどの衝撃。

その中で――

「きゃっ……!」

三伏さんの小さな悲鳴が聞こえた。

「三伏さん!?」

振り向く。

足を取られたのか、三伏さんがその場に倒れていた。

魔王の影が、その上に落ちる。

――まずい。

間に合わない。

「やめろおおおお!!」

考えるより先に、体が動いていた。

ぼくは全力で走る。

足がもつれそうになる。

でも止まれない。

止まったら――終わる。

魔王の腕が振り下ろされる。

その直前。

ぼくは三伏さんの前に飛び込んだ。

ドォン!!

衝撃が全身を貫く。

「がっ……!」

意識が揺れる。

でも、倒れない。

「なんで……来たの……」

三伏さんの声が震えている。

ぼくは、必死に立っていた。

「決まってるだろ……」

声がうまく出ない。

それでも、言った。

「守るって……言ったから」

自分でも驚くくらい、はっきりと。

その瞬間。

胸の奥が、強く熱くなった。

怖いはずなのに。

体はボロボロなのに。

それでも――

「もう……やらせない」

剣を握る手に、力がこもる。

今までとは違う。

何かが変わったのが、自分でもわかる。

「ぼくが……守るんだ!」

光が、剣からあふれ出す。

今までよりも、ずっと強い光。

「うおおおおおお!!」

ぼくは踏み込む。

魔王の腕を――弾き返す。

「なに……!?」

初めて、魔王の声が揺れた。

「いける……!」

口河さんが叫ぶ。

「今なら効く!」

「前は任せて!」

飯石さんも動く。

ぼくは、一歩も引かない。

後ろには――三伏さんがいる。

それだけで、立てる。

「絶対に……守る!!」

その言葉とともに、ぼくは剣を振り抜いた。

光が、一直線に走る。

魔王の体に、はっきりとした傷が刻まれた。

「ぐおおおお……!」

初めて、確かな手応え。

ぼくは息を荒くしながら、それでも立ち続ける。

後ろから、そっと手が触れる。

「……ありがとう」

三伏さんだった。

その一言で――

胸の奥の熱が、少しだけやわらいだ。

でも、決意は消えない。

(もう、絶対に離さない)

ぼくは剣を握り直す。

この戦いは、まだ終わっていない。

でも――

もう、ひとりじゃない。

そして。

守るべきものも、はっきりしている。

校庭に、再び風が吹く。

次の戦いが、始まろうとしていた。

魔王との激しい衝突のあと。

ぼくと三伏さんは、校庭のはずれに身を寄せていた。

さっきまでの衝撃で、地面はボロボロになっている。遠くではまだ魔王がうごめいているけど、少しだけ間が空いた。

「三伏さん……大丈夫?」

ぼくが声をかけると、三伏さんは小さくうなずいた。

「うん……ありがとう」

でも、その声は少しだけ弱かった。

さっきまでの落ち着いた様子とは違う。

「さっき……怖かった?」

聞くか迷ったけど、口に出していた。

三伏さんは少しだけ黙ってから――

「……うん」

小さく答えた。

「すごく、怖かった」

その言葉に、少しだけ驚く。

いつも優しくて、落ち着いていて、なんでもできそうに見えていたから。

「手、震えてたの」

三伏さんは、自分の手を見つめる。

少しだけ、まだ震えている。

「でもね……」

ゆっくり顔を上げる。

「逃げたくなかった」

「え?」

「だって、みんなが戦ってるのに……自分だけ逃げるの、イヤだったから」

その言葉は、思っていたよりずっと強かった。

「本当は、後ろにいるだけでも怖いよ」

少しだけ苦笑いを浮かべる。

「回復してるだけでも、“次は自分かも”って思っちゃうし」

ぼくは何も言えなかった。

ただ、聞いていた。

「でも……」

三伏さんは、少しだけ視線をそらす。

「名方くんがひとりで戦ってるの見たとき、もっと怖かった」

「……え?」

「そのまま行っちゃいそうで」

「戻ってこなさそうで」

その言葉に、胸が締めつけられる。

「だから……ついていったの」

少し照れたように笑う。

「ほんとは、すごく怖かったのに」

静かな風が吹く。

少しだけ、距離が近い。

「……無理しなくていいよ」

ぼくは言った。

「怖いなら、後ろに下がっててもいいし」

そう言いながらも、心のどこかで思ってしまう。

(本当は、そばにいてほしい)

すると、三伏さんは首を横に振った。

「ううん」

「わたし、ちゃんとやる」

その目は、さっきより少し強かった。

「だって……」

少しだけ間を置いて。

「一緒にいたいから」

その一言で、時間が止まったみたいだった。

「……え?」

聞き返してしまう。

三伏さんは少しだけ照れたように視線をそらす。

「ち、違くて……その、パーティーとして!」

「ひとりじゃ無理でしょ?」

ごまかすように言うけど――

さっきの言葉は、ちゃんと残っている。

胸の奥が、じんわり熱くなる。

ドンッ!!

その空気を壊すように、魔王の攻撃が落ちてきた。

「来るよ!」

口河さんの声。

「……いこう」

ぼくは前を見る。

「うん」

三伏さんがすぐ後ろに立つ。

距離が近い。

さっきより、少しだけ自然に。

魔王の腕が振り下ろされる。

「今だよ!」

口河さんの合図。

ぼくは踏み込む。

剣を振る。

ガンッ!!

その直後――

「回復、入れるね!」

三伏さんの声。

光が体を包む。

タイミングがぴったり合っている。

「もう一回!」

ぼくが叫ぶ。

「いける!」

もう一度踏み込む。

今度は、少しだけ深く入る。

「いいよ、そのまま!」

口河さんの声。

「押せる!」

飯石さんも前に出る。

四人の動きが、さらに噛み合う。

さっきより、ずっといい。

(いける……!)

そう思った、そのとき。

ブンッ!!

魔王の攻撃が、さっきより速く振り抜かれた。

「……っ!」

反応が遅れる。

「危ない!」

三伏さんの声。

次の瞬間――

ドンッ!!

衝撃。

ぼくの視界が揺れる。

でも。

倒れたのは――

三伏さんだった。

「……え?」

一瞬、思考が止まる。

ぼくをかばうように、前に出ていた。

「だい……じょうぶ」

苦しそうに笑う。

でも、明らかにダメージが大きい。

「どうして……」

声が震える。

三伏さんは、ゆっくり首を振る。

「だって……一緒に戦うって、決めたから」

その言葉が、重く刺さる。

でも同時に――

(このままじゃ、ダメだ)

そう思ってしまう。

一緒にいる。

それは、嬉しい。

でも。

それだけじゃ守れない。

その現実が、はっきり見えてしまった。

「無理するなって言ったのに……!」

声が強くなる。

怖さと、悔しさと、いろんなものが混ざっていた。

三伏さんは、少しだけ苦しそうに息を整えてから――

小さく首を振った。

「……違うよ」

「え?」

「無理したんじゃない」

ゆっくり顔を上げる。

その目は、さっきよりずっとまっすぐだった。

「一緒に戦おうって、思って動いたの」

言葉が詰まる。

「でも……結果、かばってるじゃん!」

思わず言ってしまう。

「それじゃ意味ないだろ……!」

三伏さんは少しだけ目を伏せる。

でも、すぐにまたこちらを見る。

「うん。だから――」

一度、息を吸って。

「このままじゃダメだと思った」

静かな声。

でも、はっきりしていた。

「……どういうこと?」

「この距離のままだと」

「あなたが無理する」

「わたしも無理する」

一つひとつ、確かめるように言う。

「それで、どっちかが倒れたら終わり」

ぼくは何も言い返せなかった。

【第十章:距離と役割】

近くにいることだけが、“一緒に戦う”ことじゃない。

「だから――」

三伏さんは、ゆっくり立ち上がる。

少しだけ足元がふらつくけど、しっかりと踏みとどまる。

「わたし一回、離れるね」

風が吹く。

ほんの少し、距離ができる。

「後ろに下がる」

「もっと広く見える位置に行く」

ぼくは思わず手を伸ばす。

「三伏さん、待って……!」

三伏さんが止まる。

でも、振り返った表情は、さっきと違った。

「大丈夫」

やわらかく笑う。

「逃げるわけじゃないよ」

「ちゃんと戦う」

その目は、もう迷っていなかった。

「守られるだけじゃなくて」

「支える側として」

一歩、さらに距離を取る。

「それが、わたしの役目だから」

胸がぎゅっと締めつけられる。

寂しい。

怖い。

でも――

それだけじゃない。

「……わかった」

ぼくはゆっくりうなずく。

「じゃあ」

剣を握り直す。

「前は、ぼくがやる」

三伏さんが小さくうなずく。

「後ろは、任せて」

少しだけ距離はある。

でも――

さっきより、ちゃんと繋がっている気がした。

「いくよ」

「うん」

ぼくたちは、もう一度魔王を見る。

守るだけじゃダメだ。

一緒に戦う。

支え合って戦う。

それが――

本当のパーティーだ。

ドンッ……!

魔王が、再び腕を振り上げる。

さっきまでと同じ光景のはずなのに――

見え方が、違った。

「右、来るよ!」

後ろから、三伏さんの声。

一歩下がった位置から、全体を見ている声だった。

「……っ!」

ぼくは反射的に横へ跳ぶ。

直後、さっきまでいた場所に腕が叩きつけられる。

(見えてる……!)

「次、左に振るよ!」

続けて飛ぶ声。

口河さんが短くうなずく。

「そのあと止まる、チャンスだよ」

「みんな合わせて」

「うん!」

ぼくは前を見る。

飯石さんはすでに構えている。

「いけるよ!」

その声に、迷いはなかった。

ドンッ!!

一撃目。

「まだ!」

三伏さんの声。

ドンッ!!

二撃目。

「……次!」

ほんの一瞬。

空気が止まる。

「今だ!!」

三伏さんと口河さんの声が重なる。

同時に――

魔法が走る。

動きが、わずかにズレる。

「やああああ!!」

飯石さんが飛び込む。

一直線に、叩き込む。

ガンッ!!

大きくのけぞる魔王。

「名方、続けて!」

ぼくはその隙に踏み込む。

さっきより、深く。

迷いなく。

剣を振り抜く。

――ザンッ!!

確かな手応え。

今までで一番、通った。

「効いてる!」

思わず叫ぶ。

「いいよ、そのまま下がって!」

三伏さんの声。

すぐに距離を取る。

直後、魔王の反撃が空を切る。

「ナイス!」

飯石さんが笑う。

「今の完璧!」

口河さんも小さくうなずく。

「この形、続けるよ」

「うん!」

ぼくは大きく息を吸う。

さっきまでとは、まるで違う。

誰かを守るだけじゃない。

ひとりで突っ込むだけでもない。

前で戦う。

後ろで支える。

タイミングを合わせる。

全部が、つながっている。

「まだまだ!」

ぼくは剣を構える。

三伏さんが全体を見る。

口河さんが流れを読む。

飯石さんが前をこじ開ける。

そして――

ぼくが、決める。

四人の役割が、はっきりした。

「いくよ!!」

声が重なる。

今度は、ただの戦いじゃない。

意味のある連携で――

魔王に、立ち向かう。

四人の動きが噛み合い、確実にダメージは通っている。

「このままいける!」

飯石さんが叫ぶ。

「焦らないで、この形を維持」

口河さんが冷静に指示を出す。

「回復、間に合ってる!」

三伏さんの声も安定している。

(いける……!)

そう思った、そのとき――

ドンッ……!

魔王が、大きく後ろへ下がった。

今までとは違う動き。

距離を取るように、ゆっくりと構え直す。

「……なに?」

飯石さんが眉をひそめる。

攻撃が来る――

そう構えた瞬間。

【第十一章:願いの正体】

その戦いは、偶然ではなく“願い”が生んだものだった。

みんなが魔王の攻撃に備えていると――

「……少し、話をしてやろう」

低い声が、校庭全体に響いた。

空気が重くなる。

「なに……?」

ぼくは剣を構えたまま、動けない。

魔王の赤い目が――

まっすぐ、ぼくを捉える。

「なぜ貴様らなのか……」

ゆっくりと、言葉を選ぶように続ける。

「気になっているのだろう?」

心臓が、ドクンと鳴る。

なぜ、自分たちなのか。

なぜ、ぼくが勇者なのか。

その答えを――

魔王は、知っている。

体が強ばる。

図星だった。

「なぜ、ぼくたちなんだよ」

思わず叫ぶ。

「なんで普通の小学生が、こんなこと……!」

魔王は、ゆっくりと口を開いた。

「貴様は、“なりたい”と願った」

「……え?」

「何度も、何度も」

心臓がドクンと鳴る。

「勇者になりたい、と」

「守れる存在になりたい、と」

「ゲームの中で、繰り返し願っていた」

言葉を失う。

それは――確かにそうだった。

現実ではできないことを、ずっと願っていた。

すると魔王は、
ほんのわずかに目を細めた。

「懐かしいな」

「……は?」

思わず聞き返す。

魔王はしばらく沈黙して――

静かに言った。

「私もまた」

風が止まる。

赤い瞳が、まっすぐこちらを見ていた。

「かつては、お前と同じ願いを抱いていた」

「な……」

言葉が出ない。

意味がわからない。

勇者になりたい?

魔王が?

「どういうことだよ!」

叫ぶ。

だが魔王は首を振った。

「今のお前には理解できぬ」

「いつか知る」

「知ることになる」

その声には、
不思議な重さがあった。

だが次の瞬間には、
いつもの威圧感に戻っている。

「だが、それは今ではない」

魔王の体から、
禍々しい力があふれ出した。

魔王の声が、重く響く。

「強い願いは、“形”になる」

「それが、この世界の歪みを生んだ」

「歪み……?」

「貴様の願いが、この場を“戦場”へと変えた」

頭が追いつかない。

「じゃあ……全部、ぼくのせいってことかよ」

思わず言ってしまう。

魔王は少しだけ沈黙してから――

「半分は正しい」

「だが、半分は違う」

「え……?」

「貴様ひとりでは、不完全だった」

その言葉に、息が止まる。

「願いは“個”では完結しない」

「ゆえに、周囲の“適合する存在”が引き寄せられる」

その視線が、三伏さん、口河さん、飯石さんへと向く。

「癒やす者」
「支える力を持つ者」

三伏さんを見る。

「壊す者」
「理を読み、力を解き放つ者」

口河さんへ。

「戦う者」
「恐れを超え、前に出る者」

飯石さんへ。

「そして、願った者」

そして、再びぼくへ。

全身が震える。

「四人でひとつの“形”だ」

「それが、この戦いを成立させている」

ぼくは、言葉を失ったまま立ち尽くす。

「じゃあ……ぼくたちは……」

三伏さんが小さくつぶやく。

「選ばれたってこと……?」

魔王は、わずかに笑った。

「選ばれたのではない」

「なったのだ」

静かな言葉。

でも、重い。

「貴様らが望み、貴様らが形作った」

「ゆえに――」

魔王の声が低くなる。

「逃げ場はない」

風が吹く。

校庭の空気が張りつめる。

ぼくは、剣を握りしめる。

逃げられない。

でも――

それだけじゃない。

「……いいよ」

自分でも驚くくらい、はっきり言えた。

「ぼくが望んだなら」

一歩、前に出る。

「最後までやる」

後ろで、三伏さんの気配がする。

「一緒に、ね」

その一言で、力が入る。

口河さんも、飯石さんも、それぞれ構える。

「それが答えか」

魔王が言う。

「ならば、見せてみろ」

その巨大な体が、ゆっくりと動き出す。

「貴様らの“願い”の力を」

ぼくは剣を構える。

これは偶然じゃない。

夢でもない。

ぼくが望んだこと。

そして――

みんなと一緒にいる、この場所。

「みんないくよ」

「うん」

「任せて」

「やってやろう!」

四人の声が重なる。

【第十二章:最後の一撃】

すべてを託した一撃が、物語の結末を決める。

校庭に、再び戦いの音が響く。

これは、選ばれた物語じゃない。

ぼくたちが“作った”物語だ。

空気が張りつめる。

――だが。

魔王はすぐには動かなかった。

巨大な体を見下ろしながら、
どこか確かめるようにこちらを見ている。

不思議な沈黙が流れた。

ぼくは剣を握り直す。

「……ぶっちゃけると」

気づけば口にしていた。

「めちゃくちゃ怖い」

少しだけ沈黙。

すると。

「なに今さら?」

飯石さんが吹き出した。

「わたしなんか最初からずっと怖いよ」

「見えなかったけど」

「見せないようにしてただけ」

そう言って笑う。

その横で口河さんもため息をつく。

「怖くない人なんていないでしょ」

「わたしだって心臓うるさいし」

少しだけ耳が赤い。

なんだか意外だった。

そして。

「……わたしも」

三伏さんが小さく言う。

「ずっと怖かったよ」

ぼくは振り返る。

三伏さんは少しだけ笑った。

「でも」

その目はまっすぐだった。

「ひとりじゃないから」

風が吹く。

誰もすぐには言葉を返さない。

「そっか」

ぼくは小さく笑う。

「じゃあ、怖いのぼくだけじゃないんだ」

「当たり前でしょ」

口河さんが言う。

「むしろ勇者が一番ビビってる」

「それは否定できない……」

思わず答えると、

みんなが少しだけ笑った。

本当に少しだけ。

でも。

その笑い声で。

胸の重さが軽くなった気がした。

「じゃあ」

飯石さんが剣を担ぐ。

「勝って帰ろう」

「うん」

「そだね」

「絶対ね」

四人が前を向く。

その瞬間だった。

魔王の体から、
赤い光があふれ出した。

赤い光が、ゆっくりと強くなる。

最初は小さな揺らぎだった。

でも、それがだんだん大きくなっていく。

ゴォォォ……

低い音が、地面の下から響いてくる。

「……なにこれ」

飯石さんが一歩引く。

魔王の足元に、ひびが広がる。

地面が、耐えきれないみたいに砕けていく。

次の瞬間――

ドクンッ

心臓みたいな音が鳴った。

それと同時に、魔王の体から一気に光が噴き出す。

「っ……!」

思わず目を細める。

さっきまでとは、明らかに違う。

空気が重い。

呼吸がしづらい。

「……来るよ」

口河さんの声が、低くなる。

「最終パターンに入る」

ぼくは息をのむ。

「どういうこと……?」

「攻撃の間隔が変わるの」

「フェイントも増えるし」

口河さんは目を離さずに続ける。

「それに――」

一瞬だけ間を置く。

魔王の腕が、ゆっくりと動く。

その動きは、さっきより“滑らか”だった。

まるで、無駄が消えたみたいに。

「一発一発が、重くなる」

ドンッ!!

地面がえぐれる。

振り下ろされた一撃。

衝撃が、今までより明らかに強い。

「……でも」

口河さんが言う。

「終わらせるチャンスでもあるよ」

その言葉に、全員の空気が変わる。

でも――

次の瞬間、視界が揺れた。

(速い……!)

魔王の攻撃が、さっきより明らかに速くなっている。

「名方くん下がって!」

口河さんの声が飛ぶ。

ぼくは反射的に後ろへ跳ぶ。

その直後――

ドォン!!

さっきまでいた場所が、大きくえぐれた。

「危なっ……」

思わず息をのむ。

「……無理に前出すぎ」

口河さんが、少し冷静な声で言った。

「相手のリズム、変わってる」

「ご、ごめん……」

思わず謝ると――

「謝る時間あったら考えて」

バッサリ言われる。

でも、その言い方が不思議と嫌じゃなかった。

「今の攻撃、三回に一回だけ“間”がある」

口河さんが続ける。

「そこがチャンス」

「間……?」

「次、来る」

魔王の腕が動く。

ドンッ!!

一撃目。

「もう一回!」

ドンッ!!

二撃目。

「……今!」

三撃目の直前、ほんの一瞬。

確かに、動きが止まった。

「そこだ!」

ぼくは踏み込む。

剣を振り上げる――

「合わせて!」

飯石さんの声。

横から、すごいスピードで飛び込んできた。

「はああああっ!!」

ぼくと同時に、剣を振るう。

ギンッ!!

二人の攻撃が重なる。

「通った!」

飯石さんが叫ぶ。

今度は、はっきりとダメージが入った。

「いい連携!」

後ろから口河さんの声。

少しだけ嬉しそうだった。

「そのまま押すよ!」

「うん!」

ぼくはもう一度踏み込む。

さっきまでと違う。

ちゃんと“戦えてる”。

「前、任せて!」

飯石さんがさらに前に出る。

「ぼくが隙作る!」

「よろしく!」

飯石さんがうなずく。

迷いがない。

(すごいな……)

怖いはずなのに、まっすぐ前に出ていく。

ぼくはその動きに合わせる。

「今!」

飯石さんの一撃で、魔王の注意が一瞬そちらに向く。

その隙に――

「はああああ!!」

ぼくは横から斬り込む。

ガンッ!!

確かな手応え。

「いいよ、そのタイミング」

口河さんがすぐに言う。

「さっきより精度上がってる」

「ほんと!?」

思わず聞き返すと、

「まあ……ちょっとは」

少しだけそっぽを向きながら答える。

でも、ちゃんと見てくれてる。

それがわかる。

「次、もっといけるよ」

口河さんが続ける。

「飯石さん、もう一回同じ動きできる?」

「できる!」

即答だった。

「じゃあ、三人で合わせる」

その言葉に、胸が少し高鳴る。

三人で。

ちゃんと、チームになってる。

「いくよ!」

飯石さんが走る。

ぼくも続く。

後ろから、口河さんの声が飛ぶ。

「タイミング、ずらさないで!」

「了解!」

怖い。

でも――

(楽しい)

こんな状況なのに、そう思っている自分がいた。

今まで、ほとんど話せなかった。

一緒に何かすることもなかった。

それなのに――

今は、一緒に戦ってる。

「はああああっ!!」

三人の攻撃が重なる。

魔王の体に、さらに傷が刻まれる。

「効いてる!」

飯石さんが笑う。

「いい感じ!」

口河さんも続く。

ぼくは剣を握りしめる。

怖いけど。

痛いけど。

それでも――

この時間は、嫌じゃない。

むしろ。

少しだけ、嬉しい。

「次、いくぞ!」

ぼくが言うと、

「うん!」

「任せて!」

二人の声が重なった。

その後ろで――

「回復、いくよ!」

三伏さんのやさしい声が響く。

四人が、つながる。

ぼくは前を向く。

もう、ひとりじゃない。

そして――

ちゃんと、仲間になれている気がした。

魔王の体が、大きくうねった。

空気が震える。

「……来る」

口河さんの声が低くなる。

「今までで一番大きいの、くるよ」

魔王の周りに、黒い力が集まっていく。

地面がひび割れる。

空が歪む。

「これ、まともに受けたら終わり」

口河さんが言う。

「避けるのは無理……」

「じゃあ、どうするの」

ぼくが聞く。

一瞬の沈黙。

そして――

「止めるしかない」

口河さんが言った。

「みんなで」

その一言で、空気が変わった。

「具体的には?」

飯石さんが聞く。

「わたしが魔力で動きを止める」

「でも一瞬だけ」

「その間に、飯石さんが正面から押さえる」

「了解!」

飯石さんがすぐにうなずく。

「で、ぼくは?」

「名方くんは――」

口河さんが一瞬だけこちらを見る。

「決める役」

心臓が強く鳴る。

「……わかった」

「三伏さんは?」

「全部支える」

三伏さんが静かに言う。

「絶対、崩れさせない」

その声に、迷いはなかった。

「いくよ」

口河さんが手をかざす。

魔力が集まる。

「タイミング合わせて」

魔王のエネルギーが、限界まで膨れ上がる。

「……今!」

次の瞬間――

「止まれ!」

口河さんの魔法が発動する。

空間が、凍りついたみたいに止まる。

「行くよ!」

飯石さんが飛び出す。

「いやあああああ!!」

正面からぶつかる。

魔王の動きを、力で押しとどめる。

「ぐっ……止めてる……!」

歯を食いしばっている。

「今だよ!」

三伏さんの声。

光がぼくを包む。

体が軽い。

怖さが消える。

「いける……!」

ぼくは走る。

一直線に。

迷いはない。

後ろには――仲間がいる。

口河さんが止めてる。

飯石さんが押さえてる。

三伏さんが支えてる。

だから――

「ぼくが決める!!」

剣に、光が集まる。

今までで一番強い光。

「うおおおおおお!!」

全力で振り下ろす。

光が、一直線に走る。

魔王の中心へ――

ドォォォン!!!

大きな衝撃。

光が広がる。

静寂。

そして――

ピシッ。

魔王の体に、ひびが入る。

「……やった?」

誰かがつぶやく。

次の瞬間――

バキンッ!!

魔王の体が、崩れた。

「ぐおおおお……!」

光が魔王を貫く。

崩れ始めた体の中で、
魔王は小さく笑った。

「やはり……そうなるか」

「え?」

「願いは繰り返される」

魔王は消えかけた顔を上げる。

「勇者よ」

「決して――私のようになるな」

次の瞬間。

魔王の体は光となって砕け散った。

【第十三章:戦いのあと、そして――】

日常は戻る――だが、物語は終わっていない。

風が止む。

静けさが戻る。

「……終わった?」

ぼくはその場に立ち尽くす。

剣が、消える。

体の力が抜ける。

「終わったね」

三伏さんの声。

振り向くと、やさしく笑っていた。

「名方、やったじゃん」

飯石さんが肩を叩く。

「最後、かっこよかったよ」

「まあ……ちゃんと決めたね」

口河さんも小さくうなずく。

ぼくは、少しだけ笑った。

「みんながいたからだよ」

ひとりじゃ無理だった。

絶対に。

「パーティー、だもんな」

そう言うと――

三人が少しだけ笑った。

戦いは終わった。

体中が痛いし、疲れている。

でも不思議と嫌な気分じゃなかった。

ふと隣を見る。

三伏さんが空を見上げていた。

風が吹いて、髪が少し揺れる。

「……どうしたの?」

思わず聞く。

三伏さんは少し驚いたようにこちらを見た。

「あ、ううん」

それから、小さく笑う。

「名方くん、ちゃんと勇者だったなって」

「え」

顔が熱くなる。

「いや、全然そんな……」

慌てるぼくを見て、

三伏さんは少しだけ楽しそうだった。

「わたしは助けてもらったよ」

その言葉に、返事ができない。

だって。

ずっと気になっていた相手から、

そんなことを言われるなんて思ってもいなかったから。

「……ありがと」

やっとそれだけ言う。

三伏さんは小さくうなずいた。

「こちらこそ」

少しだけ沈黙。

でも、不思議と気まずくない。

以前なら絶対こんなふうに話せなかった。

すると。

「なに二人だけでいい雰囲気出してるの?」

飯石さんの声が飛んできた。

「えっ!?」

「別にそんなんじゃない!」

思わず否定する。

「ほんとかなー?」

飯石さんはニヤニヤしている。

その横で口河さんがため息をついた。

「そういうのは後にして」

「まず生き残ったの喜べば?」

その言葉に全員が少し笑った。

ぼくも笑う。

そして。

その時だけは。

魔王も世界の危機も忘れていた。

校庭に、いつもの空が戻る。

さっきまでの出来事が、嘘みたいに。

でも――

これは夢じゃない。

ちゃんと現実だ。

そして。

ぼくは、もう知っている。

ひとりじゃないこと。

一緒に戦えること。

守るだけじゃなくて、支え合えること。

ぼくたちの冒険は――

ここで終わりじゃない。

でも、ひとつの戦いは終わった。

校庭に、静かな風が吹いた。

魔王が消えたあと。

校庭には、静かな風だけが残っていた。

壊れていたはずの地面も、いつの間にか元通りになっている。

「……あれ?」

飯石さんが首をかしげる。

「ここボロボロだったよね?」

「うん……」

三伏さんも周りを見渡す。

「なんか、元に戻ってる」

「修復……されてる?」

口河さんが静かに言う。

「でも、こんな短時間で?」

違和感。

みんなで周りを見渡していると――

キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴った。

「……え?」

ぼくたちは顔を見合わせる。

次の瞬間。

――教室にいた。

「はい、じゃあこの問題――」

先生が普通に授業をしている。

さっきまでの出来事が、まるでなかったかのように。

「な、なんで……」

ぼくは周りを見る。

クラスのみんなも、いつも通り。

騒ぎも、混乱も、なにもない。

「……夢?」

思わずつぶやく。

でも――

「違うよ」

小さな声。

隣を見ると、三伏さんがいた。

少しだけ、こちらを見ている。

その目は――

さっきと同じだった。

「覚えてる?」

ぼくが小さく聞くと、

「うん」

三伏さんはうなずいた。

前を見ると、口河さんも飯石さんも、何も言わないけど静かに黒板を見ている。

でも――

どこか、空気が違う。

(やっぱり……現実だ)

胸が少しだけ高鳴る。

そのとき。

窓の外に、違和感を感じた。

ほんの一瞬だけ。

空が、ゆらいだ気がした。

「……?」

目をこらす。

すると――

一瞬だけ、見えた。

黒い“ひび”のようなものが、空に走っていた。

次の瞬間には、消えている。

「今の……」

誰にも聞こえないくらいの声でつぶやく。

そのとき――

頭の奥に、かすかな声が響いた。

――まだ、終わっていない。

「っ!?」

思わず顔を上げる。

誰も反応していない。

ぼくだけに聞こえた声。

心臓が強く鳴る。

「どうしたの?」

三伏さんが小さく聞く。

ぼくは少し迷ってから――

「……なんでもない」

そう答えた。

でも。

窓の外から目を離せなかった。

さっきの“ひび”。

あれは、気のせいじゃない。

魔王は、確かに倒したはずだ。

でも――

(終わってない)

その感覚だけが、はっきりと残っていた。

チャイムが鳴り、授業が終わる。

チャイムが鳴り終わったあとも、教室には少しだけざわめきが残っていた。

さっきまでの出来事なんて、まるでなかったみたいに、みんな普通に帰り支度をしている。

でも――

「……ねえ」

ぼくは、小さく声をかけた。

振り向いたのは、三伏さん、口河さん、飯石さんの三人だった。

ほんの一瞬だけ、目が合う。

それだけで分かった。

(やっぱり……みんな覚えてるんだ)

「ちょっといい?」

三人は、黙ってうなずいた。

廊下の端。

窓から夕方の光が差し込んでいる。

少しだけ、静かだ。

しばらく誰も話さない。

「……あれ、夢じゃないよね」

最初に口を開いたのは飯石さんだった。

いつもの明るさはあるけど、少しだけ声が静かだ。

「さすがに夢にしてはリアルすぎるでしょ」

口河さんが淡々と返す。

「痛かったし」

「それな」

飯石さんが苦笑する。

「めちゃくちゃ吹っ飛ばされたし」

「……わたしも」

三伏さんが小さく言った。

自分の手を少し見つめている。

「ちゃんと、覚えてる」

その一言で、空気が少しだけ落ち着いた。

やっぱり、あれは現実だった。

「……なんかさ」

ぼくは頭をかきながら言う。

「いきなりすぎない?」

「いきなりあれって」

「それはそう」

飯石さんが笑う。

「普通にびっくりしたし」

「びっくりで済んでないけどね」

口河さんが淡々と返す。

少しだけ、空気がやわらぐ。

そのとき、教室の方から声がする。

「ねえ、帰ろうよーー」

いつもの声。

いつもの放課後。

「じゃあ、また明日」

飯石さんが手を振る。

「うん」

口河さんも軽くうなずく。

二人は先に歩き出す。

残ったのは――

ぼくと、三伏さん。

少しだけ静かになる。

さっきまで四人だったのに、

急に距離が近く感じる。

夕方の光が、やわらかく差し込んでいた。

でも、もう前とは違う。

「ねえ」

三伏さんが小さく言う。

「今日……一緒に帰る?」

少しだけドキッとする。

「……うん」

ぼくはうなずいた。

教室を出る。

廊下を歩く。

いつもの風景。

でも。

空の向こう。

見えないどこかで――

なにかが、まだ続いている。

そんな気がした。

おわりに

ぼくは、もう知っている。

ひとりじゃないこと。
一緒に戦えること。
守るだけじゃなくて、支え合えること。

これは終わりじゃない。

これは――
はじまりだ。

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