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愛ではない何か

全国に支社を構える会社の合同飲み会でのこと。20人ほどが座れる横長の掘り炬燵席で、私の正面には同じ部署の先輩。年が近いこともあり、普段からふざけあう仲だった彼が、机の下で私の脛に足先をぶつけてきた。私は応戦するように軽く蹴り返したり、さすったりしていた(文字に宿るキモ)。

すると、先輩がふと立ち上がり、どこかへ行ってしまった。しかし私の足先はまだ彼の足に触れている。ふと、斜め左の席の見知らぬ青年と目が合い、その瞬間全てを悟った。慌てて「先輩だと思ってたんです、悪気はないんです、本当に申し訳ないです」とまくし立て、彼の返事を待たずに席の端まで逃げた。その後は黙ってちびちびとお酒を飲んだが、味なんてまるでしなかった。

飲み会が終わり、皆が夜の街に散っていく中、背を丸めて一刻も早くその場を去ろうとする私を呼び止めたのは、あの足先の彼だ。終わった、真面目に働いてきたのに、と絶望しかけた私に、彼は真っ直ぐな瞳でこう言った。「友達になってくれませんか」

彼は地方の支社で採用され、数ヶ月働いた後に本社への異動を命じられたらしい。東京に出てこられるのは嬉しかったが、家族も友人もいない土地での生活は心細く、顔見知りを増やそうと飲み会に参加したのだという。そこで、つい私の脛を蹴ってしまったのだと。

3歳下のその青年と親しくなるのに、時間はかからなかった。スーツを仕立てに行ったり、近所の焼肉屋で食事をしたり、鎌倉まで海を見に出かけたこともあった。会社の借り上げマンションに暮らす彼の家に入り浸るほど仲良くなったが、付き合っているわけではなかった。

仕事納めの日のこと。私は彼の家で、飲み会帰りの彼を待っていた。朝方、けたたましい着信音で目が覚め、電話に出ると「やられた。金がない」と絶望的な声。顔面蒼白で帰ってきた彼に話を聞くと、夜が明ける頃に解散し、電車内で眠っている間に鞄から財布だけ綺麗に盗まれたらしい。「災難だったね」と言いながら、水の入ったグラスと一緒に数万円を差し出した。

年末は実家に帰ると聞いていたし、帰省できなければ親御さんが気の毒だと思った私は、躊躇する彼の手にお札を握らせる。その後は一人で部屋に残り、のんびりと年を越した。年が明け、彼が帰ってくると「ちょっと遅いけど」と言いながら一緒にどん兵衛を食べ、あっという間に仕事始めの朝。散らかったテーブルを片付けようとチラシを払うと、彼の地元のラブホテルのマッチが滑り落ちた。

文句を言う権利はない。付き合っていないのだから。でも、あまりにも何というか、こんなのって。彼は「あっちですることがなくて」と、弁解とも言い訳ともつかない言葉を口にした。その横で、あの飲み会の夜よりも、私の脛が痛んだ。

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