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【一般の方向け:薬剤師は見た!】感染性心内膜炎

病院で薬剤師をやっていると、皆さんに知っておいて欲しい!
という疾患がたくさんあります。

今回は「感染性心内膜炎」について、「2026年改訂版感染性心内膜炎診療ガイドライン」の情報を元に、お話していきます。


感染性心内膜炎ってどんな病気?

一言でいうと、「血液中に入り込んだ細菌が、心臓の弁などにくっついて、そこで悪さをする病気」です。

心臓の中には、血液の流れを整える「弁」という扉のような組織があります。通常、細菌が血液に入っても心臓に定着することはありません。しかし、心臓の弁に小さな傷があったり、人工の弁が入っていたりすると、そこに細菌がしがみつき、「疣腫(ゆうしゅ)」と呼ばれる細菌の塊(かたまり)を作ってしまいます。

この塊が弁を壊して心不全を起こしたり、血流に乗って脳に飛んで「脳梗塞」を引き起こしたりすることもある、実はとても怖い病気なのです。

血液中に入り込んだ菌を殺す抗菌薬治療による内科的治療に加えて、
心臓の弁が破壊されている場合は自己弁を人工弁に変える手術が必要な場合があります。

どのくらいの人がなるの?

最新の国内調査(JROAD)によると、10万人あたりの発症率は2019年時点で2.59人と、年々増加傾向にあります。 特に男性や高齢者に多く、発症時に多くの合併症を伴うケースが増えているのが最近の動向です。薬剤師として病棟にいると、高齢者だけでなく大学生くらいの若い患者さんに出会うこともあり、予防の重要性を痛感します。

健康な人(心疾患の既往がない)の年間発症割合は?

  • 全体の傾向: わが国の循環器疾患診療実態調査(JROAD)によると、日本における10万人あたりの年間発症率は、2016年の2.02から2019年には2.59に上昇しています。

  • 小児: 小児の発症率は成人より低く、小児入院患者1,000人に対して0.05〜0.12人とされています。ただし、先天性心疾患などの持病があるお子さんの場合は、10万人あたり41人とリスクが非常に高くなります。

  • 高齢者: 患者は男性や高齢者に多く、高齢者の着実な増加がIE増加の主な理由の一つとされています。年齢が60歳を超えるとIEのリスクが増加するという報告が多く、高齢になるほど注意が必要です。

なぜ、健康な人でも発症するの?


「心臓に持病がないから大丈夫」とは言い切れません。

  • お口の中が入り口に: 抜歯などの歯科治療だけでなく、日々の歯磨きや食べ物を噛む際のわずかな出血からも、菌が血液に入ることがあります。

  • 皮膚からも: アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や、小さな傷口も菌の侵入口となります。 特に、黄色ブドウ球菌のような毒性の強い菌が入り込むと、健康な弁であっても発症することがあります。

こんな症状には気をつけて!


「ただの風邪かな?」と思っても、以下の状態が続く場合は要注意です。

  • 原因不明の発熱: 患者さんの77〜96%に見られる最も主要なサインです。

  • 長引く体調不良: 食欲不振、だるさ、体重減少など。

  • 皮膚や目の異変: 手のひらの赤い斑点(Janeway病変)や、爪の下の線状出血などが見られることがあります。

  • もし、38.0℃以上の熱が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

予防のために、今日からできること

  1. 口腔ケアを徹底する: 毎日の丁寧な歯磨きと、定期的な歯科検診(歯石除去など)で、菌の数を減らすことが最大の予防です。

  2. 歯科医師に持病を伝える: 人工弁やIEの既往がある方は「高度リスク」、弁膜症やペースメーカがある方は「中等度リスク」として、歯科治療前に抗菌薬を飲むことが推奨されています。

  3. 皮膚を清潔に: 傷口や皮膚炎を放置せず、適切にケアしましょう。

「手術」が必要になるのはどんなとき?


抗菌薬で菌を叩くだけでは不十分な場合、外科手術が行われます。主な理由は以下の3つです。

  • 心不全: 弁が壊れ、心臓のポンプ機能が限界に達したとき。

  • 制御不能な感染: 適切な薬を3〜5日使っても菌が消えず、勢いが止まらないとき。

  • 塞栓症の予防: 菌の塊(疣腫)が大きく、脳などに飛ぶリスクが高いとき。

【2026年ガイドラインの大きな変更点】 以前は「脳出血」を合併した場合、手術まで4週間待機するのが一般的でした。しかし最新の推奨では、出血が拡大しておらず神経症状が安定していれば、2週間以内の早期手術も検討されるようになりました。これにより、手遅れになる前に救命できる可能性が広がっています。

「人工弁」の種類とワーファリンの意外な関係


手術で弁を交換する場合、「機械弁」と「生体弁(牛や豚)」のどちらかを選びます。

  • 機械弁: 非常に丈夫ですが、表面に血栓ができやすいため、一生涯ワーファリンを飲み続ける必要があります。納豆(ビタミンK)の制限など、生活への影響があります。

  • 生体弁: 組織に馴染みやすく、一定期間が過ぎればワーファリンを止められることが多いです。ただし、機械弁よりは耐久性が低く、将来的な再手術の可能性があります。

IEの治療において、若くてもあえて「生体弁」を選ぶことがあります。それは「脳出血」の再発を防ぐためです。一生ワーファリンを飲むことは、脳出血を起こした人にとっては再発の大きなリスクになるため、あえて再手術のリスクをとってでも、血が止まりにくくなる薬(抗凝固薬)を避ける選択をするのです。

おわりに

IEの治療は、医師、看護師、そして私たち薬剤師などが連携する「IEチーム」で最適な方針を決めていきます。
正しい知識は、一番身近な予防薬です。日々の口腔ケアや体調の変化への気づきが、あなたの心臓を守る第一歩になります。

主な参考文献

  1. 日本循環器学会, 日本小児循環器学会, 日本感染症学会, 他 合同研究班編:感染性心内膜炎診療ガイドライン(2026年改訂版),,。

    • 本記事のメインソースです。2026年3月に発表された最新の診断・治療・予防の指針です。

  2. Okamoto H, Nishi T, Kamisaka K, et al. Trends in the Clinical Characteristics and Outcome of Infective Endocarditis: A Nationwide Study From 2016 to 2021. J Am Heart Assoc 2025; 14: e037188。

    • 記事内で触れた「日本国内の発症率(10万人あたり2.59人)」などの最新データの根拠となっている、JROAD(循環器疾患診療実態調査)を用いた大規模調査報告です。

  3. Fowler VG, Durack DT, Selton-Suty C, et al. The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria. Clin Infect Dis 2023; 77: 518-526,。

    • 最新ガイドラインで採用された、診断の核となる「2023 Duke-ISCVID診断基準」の原著論文です。

  4. Hubert S, Thuny F, Resseguier N, et al. Prediction of symptomatic embolism in infective endocarditis: construction and validation of a risk calculator in a multicenter cohort. J Am Coll Cardiol 2013; 62: 1384-1392。

    • 記事内の「塞栓症(脳梗塞など)のリスク評価」の客観的な指標として紹介される、ER-Calculatorに関する重要論文です。

病院薬剤師として、一般の方に知っておいていただきたい病気や薬のこと、仕事を通して感じる学びや悩み、結婚や母との同居生活、妊活、朝活など、暮らしの中での気づきを発信しています。少しでも興味を持っていただけましたら、フォローしていただけるとうれしいです🐶

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