日々俳句鑑賞141 「聖堂の北側蔦の枯るる声」 佐野まもる

佐野まもるの句は、荘厳な聖堂の正面ではなく、光の届かない北側に目を向ける。そこに絡みつく蔦はすでに枯れ、力を失いつつある。その姿を作者は「声」として聴き取る。耳で聞く音ではない。静かに耳を澄ますことで、弱く小さなものの存在を感じ取るまなざしを示している。


枯れた蔦の声は、自然の変化や時間の経過そのものを映し出す。光の届かない北側という場所は、目立たないもの、忘れられたものへの優しい視線を象徴する。


作者は遍路俳句でも知られ、時間の流れや無常を深く意識していた。その視点は、聖堂の北側の蔦にも向けられ、枯れた植物の細やかな変化をとらえることで、静かな感受性と詩的世界を作り上げている。


荘厳な景色の裏に潜む静かな時間と、力を失った存在の声を感じ取ること。佐野まもるはその観察眼を通して、自然と人間の時間の重なりを静かに示している。


合本俳句歳時記第五版』(角川書店)より

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