我慢強さは美徳ではない、少なくとも虫歯に関しては。
その日私は周期的にやってくる何回目かの歯の痛みと闘っていた。
分かっている、奥歯の虫歯を放置しているのが悪化してきているのだ。
しかし、歯科医院へ行く時間が惜しい。この状態で予約してその日に治療が完了するわけがない。一週間か隔週で通院して完治するまでの期間は今までの経験上1ヶ月半か2ヶ月か。
過去にもそうやって限界まで我慢してきた結果、私の虫歯は歯科医が呆れるほどの悲惨な状態になっていた。今回も、まぁそんな状況だろうか。
その時何かのタイミングで歯を食いしばったのだろう、ボキっという鈍い音がして歯が折れた。歯を取り出してみると見事に根元から折れている。そしてむき出しになった歯茎に激痛が走る。
流石にここまできては歯科医院へ行かざるを得ない。そういえば最近自宅から5分ほどの場所の歯科医院が代替わりしたようだ。家族も先週受診してとても良かったと言っていたし、ネットで評判を検索してみると好意的なコメントが多い。早速電話をすると「予約者が優先になり少しお待たせしますが」と断りを入れた上でその日のうちに予約を入れてもらえた。
その医院は予約の入れ方と治療までの流れがとてもシステマティックで、受付から歯科衛生士、歯科医師の役割分担がされており待ち時間を感じることがなかった。エックス線で全部の歯を検査し、実際に口の中を丁寧に診てもらった結果、他にも過去の治療痕で気になる歯があったようだ。
医師から「時間はかかりますがこの際徹底的に治療しませんか?」と提案された。もちろん喜んでその提案を受け入れた。歯が根元から折れるなんて経験は金輪際したくない。
ちなみに彼は虫歯のことを「虫歯さん」と呼ぶ。なぜ「さん」付けするのかよくわからない。それも「虫歯さん」と呼ぶようなタイプでもなさそうなセンセイだ。そのセンセイが敢えてそんな風に言うのはユーモラスで、歯を削る不快な音と振動が少し和らぐような気がした。
それから約1年半、隔週で通院した。過去に治療した銀の被せを外し、内側の虫歯を治療して新たな被せを作った。治療した歯は合計10本ほど。費用はそれなりに掛かったが、保険適用で歯と同じ色の自然な被せを作れるようになったので、口元の色が自然になったのが嬉しい。加齢で隙間ができてきた歯もきれいに整えてもらった。
気が付けば話す時に口元が歪む癖が改善されている。学生時代に気になる異性から「笑った時に銀歯が光る」と指摘されてから、気にして大きな口を開けなくなってしまっていたから、口元は最大のコンプレックスだった。嚙み合わせを調整してもらったお陰か顎関節症のような症状も改善された。
実は治療の最中に別の病気が見つかった。頭と歯が痛いから虫歯だと思っていたら、実は副鼻腔炎とわかり手術をした。その間歯の治療は中断したけれど、結果的に酷い頭痛からも解放されて歯の治療以上の良い結果がもたらされたのは嬉しい。
今は歯科の治療は終わり、3ヶ月に1度歯のチェックをしてもらっている。歯科衛生士さんからフロスや歯間ブラシを使った歯磨きの指導を受けたり、どうしても自分ではうまく磨けない部分についてはクリーニングしてもらう。定期健診なら時間や費用もそれほど負担にならない。もっと早くに気が付けば良かった。いや、丁寧に説明して治療する歯科医と出会えたからここまでこれたのか。この時期に出会えたことを感謝したい。
50代で歯の健康を守る習慣ができたから遅すぎることはないだろう。歯の治療は他の疾患の予防になるともきいた。何より自分の笑顔に自信が持てる。食事も美味しくいただける。良いことだらけだ。
これからも、いい歯のために定期健診とフロスと歯間ブラシを使った歯磨きを継続していきたい。そして、今これを読んでくださっている方へ、痛みに関しての我慢は美徳ではないので、すぐに受診することをお勧めする。

